第19話 side Emma『Willst du mich heiraten?』
「――ふぅーあったかーい」
湯船に浸かって、アタシは腕をぐーんと上に伸ばす。本当に今日は疲れたなぁ。バレー部の見学は面白かったし、入部届も貰っちゃったし、どうしよっかなー。書こうかなー?
――っと。今はそれも大事だけど、さ。まさかれーくんがあんなこと言うと思わなかったよ。
でも、そっかぁ。あの言い方だと、れーくんも寂しいって思ってるんだよね。
「ヤバ、急に恥ずかしくなってきた……」
さっきは言われたことに驚いて、からかう方向にジョブチェンジしちゃったけど、アタシだってもちろん寂しくなるって思ってる。
今までずーっと一緒にいたのに、れーくんが地元から離れたせいで、去年一年間はほんとーに会えなかった。
マジ悲しかったけど、今アタシたちがこうやって二人暮らしできてるのは、れーくんが地元から離れた高校に通ったおかげでもあるもんねー。
「大丈夫かな。アタシの顔変じゃないかな」
まだ春だからか、夜になったら寒いと思ってた。さっきも実際寒かったし。でも、風呂場に来てから身体が一気に暑くなっちゃったんだよね。ポカポカしちゃって。
なんだったんだろあれ。
「うーん、ほんとどうしよ。バレーは楽しいからやりたいけど……」
れーくんは、アタシがやりたいことに熱中していいって言ってくれた。
それなら……しようかな。
「……ダメダメ、もっと考えないと」
部長さんから聞いた話では、部活は週に五回あって、水曜日と日曜日が休みなんだって。平日は部活は19時まであるらしいんだけど、つまり、れーくんと一緒には帰れないってことだよね。
この間みたいに、一緒にカフェに寄ったりするのもできなくなっちゃう。それはちょっと嫌だなあ。
あ、そうだ!
「明日、体験入部してから決めよっと!」
今日は見ただけだったけど、実際に練習に参加してから決めよっか!
「よし、決まり! 上がって早くご飯作ろー!」
◆◇◆◇
ご飯を作り終わって、アタシはれーくんの部屋の扉を開けた。
「れーくんご飯できたよー!」
「ああ、わかった。すぐ行く」
そう言いながらも、シャーペンを手から離してないんだけど。まーいっか。すぐ来てくれるよ。
れーくんはなんであんなに勉強が好きなのかねぇ? 不思議で不思議でたまらないよ。
「――もーおそーい!」
テーブルに座って五分くらい経って、やっと来たから、アタシはそう言った。
「悪い悪い。熱中しすぎた」
「ほんとにれーくんって勉強バカだよねー」
「それは矛盾してるだろ……」
呆れた顔で、アタシの隣の椅子に座ってくるれーくん。アタシからじゃなくて、れーくんから隣にくるなんてねー。
からかってやろ!
「れーくんから隣に座るんだねー? アタシと隣が良いんだ?」
「このテーブルは四人用なのに、最初に隣に座り出したのはどこのどいつだ!?」
「アハハ、ま、良いじゃん良いじゃん! お互いに顔見ながらも良いけど、隣の方が落ち着くよね?」
「知らん」
もう、全く冷たいなぁ。でも、顔赤い気がするけどねぇ?
――ま、いいや。からかいすぎたら怒っちゃうかもだし。
「――それにしても、冷蔵庫にこんなに食材入ってたっけ……?」
「うん! 鳥肉がたくさんあったから、唐揚げ作ったんだー」
冷蔵庫には結構食材あったし、味噌汁もインスタントがあったからすぐ作れた! 美味しく作った自信あるから、喜んでくれると嬉しいなー。
そんなふうに思ってたら、れーくんは「いただきます」って言って食べだした。
「どう? 美味しい?」
「ああ。美味いよ。お前やっぱ料理上手だな」
「そりゃもちろん! お母さんからどれだけ料理を叩き込まれたことか!」
アタシのお母さんはドイツ人なんだけど、和食を作るのが上手くて昔からアタシに教えてくれたんだよねー。
そのおかげでれーくんが美味しいって言ってくれるご飯を作れるようになって嬉しいなー。
「れーくんさー、お嫁さんにするなら料理上手な人って良いと思う?」
「なんだよ急に……。でもまあ、そうじゃないか? 美味しいご飯作ってくれたら嬉しいし」
「んふふ〜」
「なんだそのニヤニヤ顔……」
だよね! 料理上手な人って良いよね! 良かったー!
「じゃあさ、れーくん」
「ん?」
Willst du mich heiraten?
――。――――。いやいや無理無理無理! 言えるわけないじゃん! なーんにも言ってあげない!
「――。いや、呼んだんならなんか言えよ!?」
名前を呼んだのに、黙々とご飯を食べ続けるアタシを見て、れーくんはそう叫んじゃった。




