第18話『寒い……のか?』
「ふぅー! 疲れたー! やっと家だー!」
一緒にマンションの部屋に入ると、エマはそう声を上げながら靴を脱いでリビングに歩いていく。
「れーくん、ハンガーだよー」
「ああ、ありがと」
渡してくれたハンガーを受け取ると、俺とエマはそれぞれブレザーを脱いでハンガーにかけた。
「さてと。今日のご飯はなににする? 食材あったっけ……」
シャツを腕まくりしながら冷蔵庫を見始めるエマの隣に俺は立ち、一度深呼吸する。
「どしたのれーくん?」
「あ、いや、その……さっきの話なんだが……」
「さっき?」
「お前が部活をしたら、俺といる時間が減る……とか言ってただろ?」
見当のついていない様子だったが、俺が内容を言うと、エマは頬を赤らめて視線を逸らしだした。
「え、あ、さっきのはその……えっと……。ごめんね、ばかとか言っちゃって……」
「あ、それは別にいいんだ。ただ、さ」
「ん?」
「やりたいって思ったなら、全然やっていいんだからな。俺も、お前が入るってんなら応援するし」
「え、そ、そう? あ、ありがと」
触覚を指でくるくる巻きながら、エマは視線をあっちにやったりこっちにやったりしている。
普段ならもうちょっと喜びそうなのに、俺の勘違いだったか。
だがまだ伝えれてないことがある。それまでは、言おう。
「あと、あれだ、一緒にいる時間が短くなるって言ってたよな。部活に入るなら。でも、まあ、今までよりは一緒に過ごせる時間は長いわけだろ? 一緒に住んでるんだし」
これまでずっと一緒にいたとはいえ、ここ数日のように二人っきりの生活はしていない。
去年は離れてることもあって会うことがほぼなかったし、それに比べたら今の生活でも、少し時間が減ったとしても長い方にはなると思う。
「……短くなるっていうなら、俺もお前もちょっとは寂しくなるけどさ。一緒に住んでるんだし、家ならいくらでも話せるわけだ。お前はやりたいことに熱中していいんだぞ」
「れーくん……」
青い瞳を輝かせて、俺の目を見てきた。なんだ、もう一回感謝するのか? 喜んでくれるのか――と思ったのが間違いだった。
だって、エマの口角が一気に上がるのが視界に入った。――まるで、ついさっき俺をからかってきた、エマの従姉妹のように。
「あっれー? アタシはただ、『れーくんと過ごす時間が短くなる』って言っただけだよぉ? 寂しくなるなんて一言も言ってないけどなぁ?」
「え、は!? い、いや、えと……」
「それに、れーくんの言いぶりだと、れーくんはアタシと過ごす時間が減ったら寂しいって思うんだよね? へーそうなんだぁー? アタシがいないと寂しくなっちゃうんだねー?」
「お、おま……!」
「れーくんって昔から朴念仁だと思ってたけど、そっかそっか〜そんなにアタシと一緒にいたいと思ってたんだねぇ?」
――ダメだ。否定する間もなく、全部エマのターンになっている。これはまた憎たらしい笑顔をしやがって。しかも、俺の頬をつんつんしてくる。
こいつは本当に……。
「ば、バカにしやがって! 俺は部屋で勉強してくるから、なんか勝手にやってろ!」
「はいはーい。からかってごめんね? アタシは寒いからお風呂入ろーっと!」
俺が叫ぶと、エマはほんとにちょっとだけ申し訳なさそうな笑顔をすると、バスルームに向かって走っていった。
「ったくあいつ……。エマと優奈は人をおちょくらないと生きていけねえのか……?」
従姉妹であんな性格なのは、もう血が悪さしてるようにしか思えん。
全く、面倒な奴らだ。
――でも、おかしいな。
「寒い……か?」
寒そうにしてたエマと対照的に、俺は逆に身体が暑いんだが。




