第15話『集中できない』
――エマが勉強してていいと言ったから、俺は自分の机にテキストと紙を置いて勉強を始めた。
まだ二年一学期が始まったばかりで、これといった授業はまだしていない。
だからとりあえず、俺は数学の予習を始めた。
そう、始めた。――その様子を、エマが隣でじっと見つめながら。
「――。――――。なに? どうした?」
「ん? なんでもないよー。アタシはただ見てるだけだから!」
「いや集中できないって! ていうか、俺が勉強するの覗くんだったらお前も勉強しろ」
「やだよ。一年生が始まったばかりだし、授業もまだ簡単だしー」
そう言って、エマは俺が問題を解く様子をじーっと見てくる。
別に見てていいが、近いし集中できない。俺が「はぁ」とため息をついたら、エマは首を傾げた。
「なにー。アタシが見てるの嫌?」
「そうじゃないけど、なんか集中できないんだよ。勉強やめた。別のことしよう」
ここままじゃ問題も頭に入ってこない。勉強はまた後回しにして、先にエマを満足させてどっか行ってもらおう。
そう、俺は考えた。
俺の発言にエマは「んー」と唸り、
「そうだ! それなら、ドイツ語でお話しよ?」
「これまた急に……。まあいいけど、適当に話せばいいのか?」
「うん! いいよ!」
また突然なことを言うものだと思うが、否定せず、俺は、
「Also, worüber sollen wir reden?」
「Na gut, reden wir doch mal über die Schule, oder?」
◆◇◆◇
「それでねそれでね! クラスの男の子たちと連絡先交換したんだー」
――うん。話していくうちに、エマが日本語に戻ったから、俺は気にせず聞いていた。
内容としては、高校でできた友達のことだった。
既に、仲良い女友達が何人かできたようで、すっごく嬉しそうに話し始めた。
――中で、俺が耳に残ったのは、エマのその言葉だった。
「――うん、そうか」
男子たちと連絡先交換したというが、流石だなぁとも思う。
俺の後輩だからクラスのことはよくわからないが、中学生のときなどからめっちゃくちゃモテてたのは知っている。
それに、学校では馬鹿みたいな人数に押しかけられていたのも見たし。
まあさすがのコミュ力で友達を何人も確保していったのはすごいと思う。俺には友達はいても、なんでもかんでも話せるのは親友の湊だけだ。
だからエマの化け物みたいなコミュ力は羨ましい。――と思うと同時に、ちょっと心配になる面もある。誰でもかんでも友達になってれば、誰か一人くらいヤバいやつがいるのではないかと。
――まあそんな嫌な考えはしたくないからやめようか。
「――で、男子とは何人くらいと連絡先交換したんだ?」
「――え? それ聞く?」
「え? ――。――――。あ、いや、やっぱなんでもない」
どうして、急にそんなことを聞いたんだろう。
自分でも、不思議に思う。もっとほかに掘り下げる話題はあったはずだ。にも拘わらず、連絡先交換がどうのこうのを聞いてしまった。
「えーなにー? れーくんってばアタシが男の子と連絡先交換するの嫌だったとかー?」
「いや、別にそんなのじゃねえって。ただ気になっただけだ」
「そーう? んーとね、クラスの男子とはみんな交換したから、二十人くらいかな? あ、でもほかの暮らすの人とも何人か交換したなー」
「多くね」
思ったより大人数だった。十人くらいだと思っていたのだが。
まあ、靴箱での溜まりようだったりを見たあとだと、まあそうだなとも思った。
「で、メッセージ送られてくるのか?」
「うん! どこの国のハーフなの? とか、休みの日何してる? とかいっぱい質問が送られてくるんだー」
まあおそらくみんなエマのことを気になってるんじゃないか。これからも大量のメッセージが送られてくると思う。
「――。はぁ」
「? なんでため息ついてんの?」
「あーいや、なんでもない。これからもっと送られてきたら、返信が大変そうだなって思っただけだ」
「あーたしかにそれもそうだね。いやあ、そんなにアタシと友達になりたいのかなー」
――多分そうじゃないぞ? と言いたかったが、喉元で止める。
エマは自分がモテてるのは理解しているはずなのだが、なんかこういうところが鈍感なのだ。
あんまり喋ったことない子でも、喋る子でも、メッセージを送られたら返信は丁寧に返すし、それもこれも友達だからたくさんメッセージがくると思っているようだ。
本当は、エマのことを気になっている人たちが送っているはずなのに。
「ま、お前はそのままで良いな」
「えーなに急に。お姉ちゃんみたいなこというねー」
「優奈もこんなこと言ってくるのか」
――おそらくエマのことをよく知ってるのは、俺と優奈だけだろう。




