第14話『二日目の休日』
「ん……朝か……」
俺は目を覚ますと、ちっちゃい声で呟いた。昨日は大変だった。あの後、ずっとエマが離れないし。めっちゃ力は強いし。
まあ結局そのままベッドで寝たが、どうやら今はエマの支配から外れているようだ。起きるなら、今だろう。
「よいしょ……」
俺はベッドから立ち上がり、エマを起こそうと後ろを向く。が――、
「……え、いない?」
なんと、エマがいない。ベッドに、寝ていない!
エマが来てから毎日一緒に寝ているし、昨日だってそうした。なら、今日は早く起きたのか? いや、寝坊助のエマがそう朝早く起きるわけ……。
「――あ、れーくんおはよー!」
「え? あ、ああ。おはよう」
寝室のドアを開け、エマがエプロン姿で現れた。目はぱっちり開いていて、ドイツ語も喋らない。
まさか、自分で起きて、顔を洗ったというのか?
「お、お前、今日早くないか? どうした?」
「いやいや、アタシが早いんじゃないよ? れーくんが起きるの遅すぎただけ!」
「え?」
土日は、俺は特に予定がないし、勉強をしないといけないため、だいたい七時から八時くらいには起きている。
はずなのだが――、
「えーっと……。え、はぁ!?」
スマホをタップしてみると、なんと十一時半。ほぼ、十二時だ。
「まじかよ……。こんな遅く起きるなんて久々だぞ……?」
「あ、そんなに早く起きたかったの? アタシ、九時くらいに起きたんだけど、れーくんが気持ちよさそうに寝てたから起こせなかったんだよね。ごめんね?」
「いや、大丈夫。にしても、もう昼じゃん。ちょっと不健康だな……」
「んーそうかなぁ? アタシも遅いときはこれくらいに起きるけどなー」
頬に手を当てて天井を見上げ、エマはそうつぶやく。この一年、俺が会わなかった間にどんな生活習慣を送っていたのか知らんが、さすがに怠惰すぎだと思う。中三で、受験生だったのに。
「マジで? さすがに遅くない? 勉強の時間あったか?」
「アタシ、記憶力とかいいし、ちゃんと勉強したら困らないんだよねー。アタシ、頭いいもん!」
「俺が知らない間にそんなことになってたとは」
俺が地元から離れるまでは頭がよくなかったエマが、怠惰ながらも勉強して頭がよくなったという事実。
なんか、親目線のように感動してきた。
「エマ、うん、頑張ったな」
「えへへー褒められちゃったー!」
ほんと、いい笑顔をする。太陽のように明るい。
「? れーくん笑ってる? 面白いことあったの?」
「え? あーいや、なんでもない。気にすんな」
なんだ、無意識に笑っていたようだ。エマの笑顔を見て、だろうか。
だとしたら、そんなことをエマに伝えればウザいくらい絡んでくるに違いない。何も言わずにしておこう。
「――んで、今日はどうする? 何もやることがないんなら、俺は勉強するんだけど」
できるだけ、残りの時間は無駄にしたくないから勉強はしたい。とはいえ、今の俺は一人暮らししてる訳ではなく、エマと暮らしている。
エマを無視して勉強勉強としておくのは、何か、エマに構ってやれなくて可愛そうな気もする。
だから、俺はなにかしたいことがないかエマに聞いてみることにした。
すると、エマは「うーん」と唸り、
「アタシも特にやりたいことも行きたいところもないしー。うーん……」
「そうか? じゃ、俺は勉強してていい?」
「いやいやダメダメ! せっかくの休みなのにもったいないじゃん!」
「でも、何もすることないんだろ?」
俺の言葉にエマは「そうだけどさー」と、口を尖らせながら呟き、天井を見上げる。
――そして、「あ!」と突然叫ぶと、
「れーくん、勉強してていいよ!」
「……あ、え? そう、か? わかった」
どこか行こうとか言い出すのかと思えば、まさかの勉強をしてと。まさかそう来るとは思わなかったから、俺は心底びっくりした顔をしてしまった。
――だがまあ、それなら勉強するか。




