第13話『ゲームと罰ゲーム』
「――れーくん、れーくん、ゲームしない?」
俺が夜ご飯と風呂を済ませてリビングに戻ると、ソファーにだらーっとしながらコントローラーを持っているエマと目が合った。
「ああ、良いよ。何する?」
「レースやろ!」
俺は「わかった」と言って、ゲーム機をテレビに繋ぐ。大画面にゲーム画面が映り、迫力満点になった。俺もコントローラーを持って、エマの隣に座る。
「どのコースでやるか」
易しい、普通、難しいの順に分かれたコース。
そういえば、俺はレースゲームがあまり上手ではない。だから出来れば易しいか普通が良かったのだが――、
「じゃあ難しいで行こ! れーくんのことボッコボコにしてあげる!」
そう上手くいかないようだ。俺が下手だと知って、エマは難しいコースを選んだ。それなら俺にだって考えがある。やれるだけやって、ボコボコにしてやるよ。
絶対ボコボコに負かしてやろう。そう思って、俺はコントローラーを強く握りしめる。
画面に3、2、1の合図が出て、
俺はタイミングよくスタートした。
「あ、れーくん上手ー。まあスタートダッシュだけだけどねー」
「うっせ。ボコボコにしてやるからな」
エマの言う通り、確かにおれはスタートダッシュ"だけ"は無駄に上手だ。だから初めはエマとも距離がついているのだが……。
「あ、あれ、やば」
運転が下手すぎて、壁にぶつかるわ、デバフを食らうわ、コースから外れると、一気に色んなことが起きた。
その間に、エマは俺からめちゃくちゃ距離をつけて追い抜いてしまった。
「アハハ、れーくん運転下手すぎー。難しいコースだと全然クリア出来ないよねー」
「いや、だってこのコントローラーじゃ運転しにくい……」
「言い訳ダメだよ? アタシだって同じコントローラーなのに上手じゃん?」
「チッ……」
普通に正論を突いてきて、俺は黙る。そしてただ無言でコントローラーを動かし続け――、
「――やった! アタシの勝ちー!」
負けた。結構ボコボコに負けた。なんでレースゲームがこんなに上手いんだエマは。すっげえ笑顔で俺の肩を何度もトントン叩く。
「アタシの勝ちー! れーくんやっぱ弱いねー」
「何度も言わなくていいだろ」
「えー」
何度も煽るように言ってくるエマに俺が冷たく返すと、頬を膨らませて俺の腕に抱きついてきた。
「じゃあさ、アタシのお願い聞いてよ。良いでしょ? アタシ勝ったんだから」
「え……? まあ良いけどさ。何すればいい?」
急なお願いに、俺は何を言われるか構える。無理難題な要求なら飲めないが、まあできることならしてあげよう。
エマは顎に手を当てて「うーん」と唸って、
「それじゃあさ、ぎゅーしよ?」
「ハグってこと?」
「そそ! ほら、早くぅー」
アイスとかお菓子を奢れとか、明日はどこかに行こうとか、そういう頼みかと思ってた。が、まさかハグを要求してくるとは……。これは困った。
「うーん……」
嫌という訳では全然ないのだが、なんか抵抗がある。だが、俺が断ったからといってエマが諦めるとは全く思えない。
まあ、エマから頼んできたんだし、文句を言ってくることもないだろう。
仕方ない、やってやるか。
「えーっと……これでいいのか?」
「うんうん! いいねー暖かいよ!」
エマの背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。すると、エマはいつも通りの笑顔になって俺の背中に手を回してきた。
「もうちょっとくっつこ?」
「うぇっ!?」
力が強いもんだ。ぎゅっと引き寄せられてさっきより密着し、俺とエマの頭とぶつかりそうになった。
「――っ」
同時にエマの顔が視界一体に入ってきて、俺はすぐ顔を後ろに下げた。
――なんというか、変な感覚だ。エマの顔がドアップで視界に映った途端、身体が熱くなった気がした。それに、心臓がバクバク鳴り出した。
急に顔を近づけられてびっくりしたからだろうか。
まあ、多分そうだろうな。
――なんて、自分で納得していると、エマの口角が上がり、ニヤッとしたのが目に入った。
「……なんだよ?」
「いやぁ別にぃ? もしかしてさぁ」
エマはねっとりした喋り方で言葉を紡ぎ、
「War ich zu süß für dich ?」
「 Nö nicht wirklich .」
「えー! 嘘つけ! 顔赤くなってたよー?」
「いや、そんなわけねえだろ。――ん?」
何を言ってんだエマは。顔を赤くするわけなんてないだろうが。そう思って、俺は右手を頬に当てた。
――うん。熱いな、ちょっとだけ。
だとしても、エマが可愛すぎて顔を赤らめたーなんてことあるわけないだろ。
「はぁ、まあ良いや。今日はずーっとこのままだからね?」
「――え? は? ずっとハグしとけって?」
「そゆことー。んじゃ、よろしくねー」
そう言って、エマは俺が逃げないようにさらに強い力で抱きついてきた。それに俺はため息をついて、
「ああ、わかったよ」
とだけ、呟いた。




