第九十八話
目玉はこちらに察知されたことを知ると何かが壊れたように、敵の白目がみるみる赤く染まり、血走った線が蜘蛛の巣のように広がっていく。
瞼がないが瞳孔が大きく開かれたのを見て、追い打ちとばかり睨んだところ、たじろくように徐々に距離を離していき逃走した。
スキルで逃げた先へと疾走し追いかけていくが、向かう先で何やら生物がうごめく姿を感じ取れた。
これまで自分たちに向けられたのはこちらを殺そうとする攻撃のみ。
急な攻撃にも臆すること、驚かされることはない。
「そう思ってましたが、触手のようなものは想像してなかったよ。」
目玉は勝ち誇ったかのように、地面が漆黒ではなく光源があるわけでもないのに周囲を反射してした美しい湖畔のようなところが現れた。
ファンタジー世界のゲームをしているヤツが言うセリフでないのだが、場面が急に変化するなんて魔法でもありえないのではないだろうか?
その湖畔のようなものは全てが流動性のある鏡であり、反射しているので見えづらいのだがゆったりと動いていることは間違いない。
それもそのはずで鏡の自ら触手のように無数にうねって湧き出ており気持ちが悪い。
触手に映る私の顔は凸レンズに映ったかのように真横に引き延ばされて醜い女へと変貌していた。
「ここまで近づいて攻撃してこないのはわざと乙女心を傷つけようとしているのかな。斬ってみよう。」
小太刀を抜いて思いっきり叩くように斬りつけてみると、パキンッ!と触手は割れて崩れ落ちていった。
触手の中は空洞で薄いガラスで構成されている。
流動体なのになぜ固形物のような割れた音がするのだろうか?しかも、割れて落ちたガラスは湖の中に落ちるのでもなく解けるわけでもなく、ただただ形を保ったまま落ちている。
固体なのか液体なのかどちらかにしてほしい。
目玉が再度血走ると触手はうねり具合に変化が起き激しく揺らし始め、獲物である私を求めるかのように飛び出してくる。
「なっ……_!!攻撃したことに怒ったのかな?」
驚くまもなく、一条の触手が足元へと伸び、身体を絡め取ろうと迫ってくる。
真っ先に近づいた触手を蹴りで弾いて躱したが、続け様に別の触手が奥から奥から前にいる触手を押しのけるかのように猛烈に迫り、私の逃げ場をなくすかのように包囲網を敷いていく。
いつのまにか鏡の湖は私の後ろ遠くまで広がっており、逃げ場はすでに失われたも同然だった。
目玉も逃げることはしなくなりここで私を仕留めることに決めたみたいだ。
私はそもそも逃すつもりはないし、よりよい楽しめる戦闘を求めてここに来たのだからちょうどよい。
身を低く沈め、一歩ごとに迫りくる脅威を紙一重で躱して前進していく。
突撃して砕け撒き散らされたガラス片が頬を掠めつつ、鏡面に乾いた音を響かせる。
スキルで弾きつつ、体術で刹那のところで躱していくと、押し寄せる触手の隙間がわずかに開いた。
瞬間、地を思いっきり蹴る。
隙間の端で待機していた触手の一本を身体を捻ることで躱し、その先のもう一本を足場代わりにして跳躍。
「そこ!スキル『紫電・閃』」
自身の出せる速度を上回る速度となった場合のみ発動できるスキル。
ただの高速で切り付けるだけなのだが威力は所持するものの中で一番高く、付随効果として雷系統が付与される。
目玉という無防備な肉は豆腐のように抵抗すらなく一刀両断した。
つぎのしゅんかん、ガラスの触手たちは一斉に動きをとめ、甲高い破裂音とともに砕け散っていった。




