秋の衣替え
「えー、明日からいよいよ生徒会会長の公募が始まって、2週間後選挙です。そして、その翌週で今の生徒会をかい、かいっ、グズっ。解散します!」
生徒会室では、現生徒会役員が集まって会議を開いていた。そこでは感極まって泣く黒田会長と、それを眺める役員たちがいた。会長以外は淡々と話し、会議は終わった。
土端が資料を片付けていると、黒田がぐっしょぐしょの顔で話しかけてきた。
「土端くん」
「はい」
「次期生徒会長は是非キミにお願いし……」
「お断りします」
「え!?」
黒田の画策では、泣きながら自分の地位を献上し、土端とともに互いに今までの功績を称え合おうと思っていた。見事に打ち破られて、涙はぴたりと止まった。土端はその様子を気に止める様子もなく、手に持った資料を自分の机に持っていき丁寧に綴じ始めた。しばらく固まっていた黒田は、ハッと我に返るとうーんと声を漏らした。
「じゃあ、風巻くんだけか」
「……え?」
黒田の口から突如出た名前に土端は手を止めて顔を上げた。その視線すら嬉しく、黒田はほんのり頬を赤らめると視線を逸らして腕を組み、さも悩んでいる風に続けた。
「いやね、こないだ風巻くんがわざわざ僕のところに来て『会長選挙に出たい』て言ってきたんだ」
「……」
「選挙に出るのは自由だから大歓迎だってことは伝えたよ?でも僕としては1年間一緒に頑張った土端くんに……」
話している途中で土端はファイルを机に置くと何も言わずに生徒会室を出ていった。黒田は声をかける隙すら作ってもらえずただ見送るのみになった。
◇
土端はクラスに戻った。すでに帰りのHRを終えた教室には誰もいない。風巻も皆と同じように帰ってしまったかもしれない。それでも土端は思い当たるところをしらみ潰しに探した。生徒玄関、グラウンド、やはりそこには風巻はいなかった。
半ば諦めて図書室のドアを開けた。すると本を抱えた風巻が目の前に立っていた。
「どうした?珍しいな。お前がそんな汗だくに……」
「選挙出るって、本当?」
その言葉に風巻は小さく笑みを浮かべて「あぁ」とだけ頷いた。土端にしてみれば腑に落ちない。あれだけ人と関わることを拒絶して、なるべく目立たないように生きていた風巻の行動が全くわからなかった。
尋ねるだけ尋ねて何も言わなくなった土端に風巻はきょとんとした。図書室の前に立っているせいで人が来ると2人は少しばかり邪魔になる。それに目立つ2人がふたりきりでいるとなれば自然と人が増え始める。土端はこれでは話しにくいと思い「ついてきて」とだけ告げてその場を離れた。風巻は抗うことなく大人しくついてきている。
2人が来た場所は、昼休みなど学生たちがよく使っている廊下の広場に隣接するベランダ。見下ろすとそこにはグラウンドが見える。そこで部活動をするする学生たちは一生懸命協議と向き合っている為こちらに視線を向けることはない。
土端はベランダの窓を閉めると一息ついて風巻を真っすぐ見つめた。
「で?どういうこと?」
「なにが?」
「とぼけないでよ。生徒会長の選挙、なんで出るの?」
風巻は本を外付けのテーブルに置くと手すりに背を預けながら戸惑う土端をまっすぐ見つめた。当の土端は妙に落ち着いている風巻の心境が読めず風巻の出方を窺っている。すると風巻はゆっくり口を開いた。
「順当に行けば、お前が会長になるもんだって、黒田会長が言ってた」
「……」
「ただ、選挙出るのは自由だってことも言ってた。だから俺は」
「私は選挙に出ないわよ」
土端の言葉に風巻は一瞬固まったが、すぐに「そっか」とだけ付け足して答えた。修学旅行を終えてからどこか余裕のある風巻の様子に土端は違和感を覚えていた。以前の風巻の方が良かったとは決して思わない。だが、何故だか土端から遠くなったように感じられたからだ。
「じゃあ、俺帰るわ」
風巻は本を手に持つと土端の横を通り校内に戻ろうとした。だが土端が風巻の手を掴み振り向かせた。風巻は少しばかり体が傾いたが持ち直して土端の方に振り返った。
「……なに?」
「なんで、会長になろうと思ったの?」
土端はいつか黒田に尋ねた言葉をそのまま風巻にぶつけた。




