秋の衣替え②
「なんで、会長になろうと思ったの?」
土端はいつか黒田に尋ねた言葉をそのまま風巻にぶつけた。風巻がはぐらかさないように土端はまっすぐ見つめ、答えるまで手を離さないと言わんばかりに凝視した。その様子に風巻からは笑みが消え、持った本を土端の前に差し出した。風巻が借りてきていた本は、T大の過去問と学校案内の本だった。
「なにこれ」
「俺が行きたい大学」
「……で?」
風巻の答えにピンと来ず、土端は苛立ちを含んで答える。それに屈することなく風巻は淡々と答えた。
「奨学金借りて大学いけるけど、結局は返さなきゃいけねえ借金てことだろ?だったら借りるにしても最低限になるようにしたらいいかなって」
的を得ない言葉に土端はきょとんとした。自然と掴んでいた手の力は抜け、いつの間にか手を離してしまっていた。風巻は空いた手で学校案内の本を開いて、目的の箇所を指差して土端に見せた。
「学校独自でやってる奨学金。貸与じゃなくて付与らしい。それには学校の推薦と好成績であること、最後に」
「何らかのクラブ活動、およびボランティア活動に従事していたこと」
土端は書かれている文の最後を読んだ。少しずつ風巻の言いたいことがわかってきた。つまり生徒会長になりたい理由が生徒のため、学校のため、自分が目立ちたいから、など俗世めいたことではなく、単に自分の将来に有利になるからというだけらしい。土端は何だかおかしく思えてきた。
「……まぁ、選挙でこんなこと言うわけにはいかねえから、それなりのこと考えなきゃ……」
「ふふっ」
つい声に出して土端は笑ってしまった。それは風巻からすればバカにされたように感じて眉間に皺を寄せた。そして流暢に話していたのをぴたりとやめて口を閉ざした。顔色を変えた風巻に土端は視線を向けると手を顔の前でひらひらと振って笑いをかき消そうとした。
「ごめんなさい。馬鹿にしたわけじゃ、ふふっ、ない、っ……」
「馬鹿にしてんだろ」
素直に自分の気持ちを言ったのが馬鹿みたいだ。
風巻はそう思うと、幼稚な理由とそれを土端に言ってしまったことが恥ずかしくなって頬を赤らめた。それを隠すように口元を手で覆うと、夕焼けの空を仰ぎ見た。
「違うの。本当に」
土端は見たことのない風巻の様子に笑いを抑えてゆっくり話し始めた。
「いつも何か我慢してたあなたらしくなくて。でも、いいんじゃない?自分のしたいことしたら」
「……うるせえな」
「普通ならきっとそうするでしょ。私たち、考えすぎて普通のことできなくなっちゃうから」
「……」
「もっと皆、自分のことしか考えてないわよ。まあ、そこまで自分本位なこと言う人は多分珍しいけど」
そう言うと土端はベランダの手すりに手を乗せ、グラウンドで行われているサッカー部と野球部、陸上部の生徒たちが片付けをしている様子を眺めた。風巻も隣に並ぶように立つと同じようにグラウンドに視線を向けた。それぞれが自分たちの好きなことをして、汗を流し、友や先輩後輩に囲まれながら笑っている。
いつの間にか赤らんだ頬も冷め、風巻はため息を漏らすと手すりに寄りかかり腕の中に顔を埋め、呟いた。
「……う」
「なに?」
「俺がもし生徒会長になったら、副会長、やって」
対面して頼むにはあまりに気恥ずかしくて、風巻は顔を埋めたまま土端に声をかけた。
突然の申し込みに土端はらしくなく、戸惑った。きゅっと手すりを握り、こちらを風巻が見ていないことを確かめると同じように腕の中に顔を埋めた。風巻から頼られたことが嬉しくて口元が緩んでしまったからだ。
「しょうがないわね」
土端は今出せる1番不機嫌そうな声で冷たく答えた。
◇
そして、あれよあれよと言う間に選挙が終わった。2年生は風巻以外は全員続投。3年生が抜けたところに1年生が入る形で生徒会は新しく構成された。
もうすぐ2人の夜が明ける。
2章 終
今回で2章が終わります。皆様の応援のおかげでここまで来られました。本当に本当にありがとうございました。
この後は数回の番外編のあと、3章という名の最終章に突入します。
「2人は必ず結ばれる」をうたい文句にしてるので、結ばれ……ます。こうご期待!
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
物語のなかで大学入試について、および奨学金についての説明がありますが事実と異なります。




