刺客
「ねえねえ!徳原くんてどこから来たの?」
「え?あぁ、親の転勤多いから、どこってきかれてもなあ。ここにくる前は東京かな」
「「きゃーー!都会!」」
夏休みが終わり数日が経った。二学期早々、転校生がやってきた。徳原肇という男。見た目は黒髪ウェーブスタイルのボブと言った少し派手目な出立ちで、学ランもボタンを開けていて、この学校では珍しい素行の悪そうな雰囲気がある。
だが、見た目に反して物腰は柔らかく、転校初日から女子の人気を総なめにしている。
「あいつ、カッコいいよな」
「そうだな」
「いいのかよ。人気取られちまってんだぞ?」
「あ?」
「あ?じゃなくて、ワーキャー言ってた女の半分以上があっち行ってるっつってんの」
「別に人気ねえし、あいつはモテるだろ」
風巻は気にするそぶりもなく、チラリと徳原の方に視線を向けるだけで、昼ごはんのサンドイッチとイチゴミルクを咀嚼しながら山本の言葉に答えた。対する山本は自分のことのように悔しがり、母親の作った肉いっぱいの弁当をかき込むように食べている。
「俺もモテたい」
「そうか」
「可愛い彼女欲しい!風巻、お前いらねえの?」
「うーん。そうだな。出来ても今の俺じゃダメだろうな」
「えー!風巻がダメなら俺一生できねえじゃん」
「そんなことねえよ。お前なら優しいからすぐ出来るだろ」
「そうだね。山本くんならすぐ出来そう」
「わっ!と、徳原……」
話している最中、突然現れた徳原に山本はあからさまに驚き、飛び上がった。その様子に徳原はくすくす笑っている。風巻はというと、視線だけを向けたが、すぐに逸らしてイチゴミルクを飲んだ。
徳原はにこにこ笑いながらさらに尋ねた。
「モテたいの?」
「そ、そりゃ、男たるもの。守るべき女子が欲しいのは当たり前だろ?」
「ふーん。風巻くんは、モテたい?」
「別に」
風巻は山本以外の人と話すと途端に口数が減る。威圧的に見られがちで男子達は風巻と必要最低限しか話さないのはそれのせいである。徳原は一瞬固まるがすぐに優しい微笑みを浮かべて「そっか」とだけ返してその場を後にした。
「さて、修学旅行の班だが、男女で五人組を作ってもらいたい。何かあれば先生の方で対処するが、皆いい塩梅で組むように」
6時間目のHRで9月下旬の修学旅行についての話し合いが行われた。男女混合にするのは理由がある。班行動の際、慣れない土地で知らない人に絡まれた際に、互いに助けになるようにとの教師の計らいだ。皆それぞれ仲の良い人達とグループを作り、男女ともに自分たちの好みに合う異性のグループを探すので躍起になっている。
風巻と山本は共に行動するのは良いとして、女子をどうしようかとキョロキョロしていると、あからさまに偉そうな態度の土端と顔を真っ赤に照れたままの成田が2人の元にやって来た。風巻は土端の様子を見てげんなりしている。対する山本はキラキラと目を輝かせた。
「なってやってもいいわよ」
「まじで?これで4人だな!あとは1人、どっちでもいいから誰か……」
「いーれて」
女子に囲まれてキャーキャー言われていた徳原は、それらをすり抜けて4人の元に来た。敵意なく笑う徳原とは違い、つまらなさそうに視線を逸らす風巻、風巻と一緒の班になることを受け止めきれず顔を真っ赤にしている成田、モテの伝道師と一緒だと喜ぶ山本、そして土端は風巻と徳原を交互に見るとふいっと顔をそむけた。
「いいよいいよ!やった!すげー楽しくなりそうじゃん!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。俺も転校してきてまだ日が浅いから、友達いなくて」
「またまたぁ!男子からもすげー奴って言われてんの知ってんだろ?」
「えー?知ってるー」
「あははっ!徳原、お前って案外面白いんだな!」
楽しそうに話す山本と徳原に、どこかつまらなさそうな風巻の様子を土端は見逃さなかった。自然と隣に椅子を持ってきて腰を下ろすと、風巻にだけ聞こえる声の大きさでつぶやいた。
「あなた、わかる?」
「何が」
「あの徳原って子、あなたほどではないけれど、何か妙なのよ」
「俺に対してもあいつに対しても失礼な奴だな。なんだよ、妙って」
「土端さんて彼氏いるの?」
唐突に2人の間に徳原が割って入ってきた。山本は「それ聞きたかった!」などと言って騒いでいる。既に徳原のテンションにすっかりハマって楽しげに笑っている。成田はというと1人まじまじしながら話に入る機会を伺っている。
問われた土端はふと柔らかい微笑みを浮かべた。
「聞いてどうするの?」
「そうだね。もしフリーなら俺と付き合ってくれないかなぁ、なんて」
「「えーー!?」」
突然の告白に違う班を組んでいる生徒達から悲鳴に似た声が上がった。男女問わず驚いている。当たり前だ。土端にはひそかに恋をする男子、徳原にキャーキャーいう女子、そしてこっそり風巻と土端がくっつく、あるいは既にくっついているのではと思っている生徒もちらほらいるのだから。
山本も成田も同じように驚いている。そんな中、風巻は驚きはしたが、さほど気にする様子もなく、土端の答えを待っている。当の土端は、ふふんと鼻を鳴らすと脚を組み替えて座り直しては見下すように徳原を見た。
「あんたと私が釣り合うわけないでしょ」
冷たい土端の言葉にその場は凍りついた。




