序章 2 稲宮うら葉
先輩は、ずるい。
誰にでも優しくって、さりげなく仕事とか代わってくれたりして。私みたいな取り柄のない子のことも、ちゃんと見てくれる。
この前先輩に、『好きな人いるんですか?』って聞いてみた。もちろん慎重に、気取られないように、からかう感じで。あ、ううん、その……
そりゃあ今までだって、『先輩の応援をして、少しだけでも関われたらいいな』とか、『ちょっと可愛いって思ってほしい』って、アタックもしてるけど……そっ、それはまた別の話、よね?
そう、それで聞いてみたの。
そしたら先輩は、笑って言った。
──『バカ、いるわけないだろ? 俺は、万年カノジョ無しのさえないフリーターだぜ?』
って。
嘘つき。
嘘つきウソつきうそつき。
いるじゃないですか。
もうとっくにあの時から、先輩の笑顔は大切な人を想う笑顔だった。守護る人がいる者の顔だった。
「はぁ……」
暗い空。時刻は朝と夜の境目。朱色の鳥居が建ち並ぶ小さな路を、足を引きずって歩く。吐き出した息が、空中で白い靄になって消えた。
「…………」
先輩……せんぱい…………
……わかってたけど、つらい。
「ごめんなさい……」
御狐さまの反応も、すでに私の中にはない。当然だ。私が先ほど、この手で……。ずっとずっと一緒にいたのに。居なくなってしまったのだろうか。期待にそえなかったのは申し訳ないけれど、ああするのが正しかった。私は、私は間違ってない。
──先輩は、あの子のためなら何でも出来るんですね。そして、その覚悟もある。
「恋か…………」
はじめて、だったんだけどなぁ……
「着い、た……」
本殿の前で、両手を組んで目を閉じる。胸を覆うのは絶望と苦い恋の味。
長い黒髪も、巫女服の紅い袴も、雪に濡れて重たかった。
「はぁ、諦められるかな……」
心がきしんで、悲鳴を上げる。ぽっかりと、黒い穴が空いたみたい。
さみしい、なぁ。




