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求婚ですか、魔王さま!?  作者: よみせん
天使と悪魔と生け贄プロポーズ
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はるひと、う・わ・き?

「さて、夕飯はベルの分と……タヌキのじいさんは食うのかね?」


 バイト先のスタッフルームで、夕飯の献立を考える。足りない食材は買って帰るとして……


「せーんぱい!」


 涼やかな、ちょっぴり茶目っ気を含んだ声。


「くだらない毎日を一刀両断! そこにひとつの彩りをいかがですか?」


「お、」


 つん、と背中をつつかれる。

 バイト上がりでぼんやりしていた俺は、その人物を振り返った。 あたりに清らかな空気を振りまき、セーラー服の美少女が立っている。少女はニコリと笑みを浮かべた。


「あの、明日お時間ありますか? デートとか、どうかなあって」


「でっ!?」


 万年カノジョなしの、フリーターで冴えない俺に? めちゃくちゃな美少女から、デートだと? そんな信じられない、奇跡みたいなことある?


 スタッフルームには、まばゆく透き通った夕日が一筋、差し込んでいた。


 後輩はコトリと小首をかしげる。白いほおがピンク色に染まっていた。後ろで一つに結んださらさらの黒髪が、ふわりと流れる。


「よ、よぉうら葉。元気か?」


 驚きをこらえ、なんとか声をかけた。

 バイトの後輩こと稲宮(いなみや)うら()は、ピッチピチの女子高生である。冬服のセーラーと上から羽織った淡いカーディガンは、彼女の可愛らしさをより引きたたせていた。


「はい! 先輩もお元気そうで。それでですね?」


 改まった挨拶に、うら葉は嬉しそうに微笑んだ。花が咲いたようにあたりが明るくなる。やっぱり何をしても、この後輩の美少女ぶりは変わらない。


「街に美術館あるじゃないですか。見に行きたいものがあるんですよね。お茶がてら、どうです?」


 さらっとイケメンなお誘い。やはり美少女は違う。もちろん内心、おふこーすオールOKですよ? しかし、


「……うら葉お前、高校生だろうが。どこぞの知らん男を誘うんじゃねえよ」


 いくらバイト先とはいえ、よく素性を知らないヤツとデートはなあ。未成年だし? 俺、身持ちは固い方だし? ケーサツよくないし?

 危ないだろお前、という視線を投げると、少女はむうっと唇をとがらせた。


「分かってますよう。春人先輩以外にこんなことしませんって!」


 うら葉は覚悟を決めたように顔を上げた。


「でも、先輩がいいんです! 先輩なら、大丈夫なんです!!」


「え、ちょ、」


 たたっと駆け寄ると、少女はまっすぐに俺を見上げた。うるうると黒い瞳が俺を射抜く。両手を組んで、ちょこんと首をかしげ、美しい唇を開き……


「っ、」


 ドキリと心臓が跳ねる。ダメだ、耐えろ俺。ダメだっつって……



「ダメ、ですか?」














「………………………………………………………今回だけな」



 くっ、殺せ。その瞳に負けたわ。

 ハイハイすいませんね、デートめっちゃ嬉しいですとも! 


『ブッ! 小僧、おぬし最速で落とされておるではないか! 面白いからワシに桜もちのひとつでも献上せぬか!』なんて、偉大な変化の神をかたるタヌキからは爆笑されそうだが。


「余計な世話だっつーの。あーもー、今回だけだからな」


 そわそわと視線を動かす。ビミョーに顔が熱いのは気のせいじゃないだろう。

 どこぞのちびっこ魔王さま (仮)とのデート? もしたが、これは本当の、ガチの初めてのデートなのである。テンション上がるのは許してほしい。


「さっすが先輩! ありがとうございます!!」


 少女は調子良く微笑むと、ガバリと俺に飛びついた。あわてて抱きとめたが、何やら彼女の柔らかいものが当たって気が気ではない。というかその笑顔、確信犯だな? やられたわ。


「ハメられた気がするんだが……あーあー、で、何見に行きたいんだ?」


 押しつけられる柔らかい感触から気をそらすように少女を見下ろせば、すぐに答えが返ってきた。


「カタナです。それも、江戸時代の銘刀らしいですよ?」


「刀?」


 清楚な美少女が刀を見たいと言い出すとは、これいかに。

 疑問が顔に出ていたのだろう。後輩はつけ足すように話し出した。


「私、高校で剣道部に所属していまして。全国大会にも出たんですよ? だから、そういうのにちょっと興味があるというか……ひ、引きますよね、女の子が剣道とかっ! すいません」


 うつむいた彼女にあわせ、力なくポニーテールが肩から滑り落ちた。



「……いーんじゃねえの、別に」


 言いつつ、かがんで少女の髪についていた糸くずをはらってやる。口もとに自然と笑みが浮かんだ。


「大人しいうら葉が剣道とか、ギャップがあって良いじゃないか。そういうお前も悪くないと思うぜ?」


「……!」


 少女は視線を外すと、じんわりと頬を赤らめた。ぎゅっとカーディガンの袖を握りしめる。


「っ、そういうとこですよ。先輩……」


「は……?」


 普通に事実なのだから、少女が照れる必要もないだろう。こういうのは胸張って自慢しとけばいーの。


「!」


 ふいに、背中のあたりがゾワリと冷える。


 ──『はるひとは、ベルのなのに』


「!?」


 なんか今、ものすごーく恨めしいどっかの幼女の声が聴こえた気が……。いや、気のせいだろう。気にしたらダメだ。そう、気にしないのだ。


 気にしないの三段活用をキレイに決めて、目の前に意識をもどす。


「せ、先輩は部活とかされてたんですか?」


 誤魔化すかの如く会話を始めたうら葉に俺も乗っかる。腕の中の少女が柔らかくて、気をそらさないとやってられない。あと幼女の声もコワイ。まじで。


「ああ、俺は陸上やってたかな、長距離走。まあ昔の話だけど」


 高校までで辞めてしまったし、大学入ってからは友人と研究室にこもりきりだったからなあ。ああでも、最近やたらと逃走する(殺されかける)ことがあったから、そこは役に立ったかもしれない。

 主に、神様とか悪魔とか天使とか天使とか。


「なるほど……」


「まあ、うら葉は十分美人さんだからそんなこと気にすんなよ」


「もう。だからですね先輩……あ、」


 赤らんだ顔のまま、何かを思いついた少女はこちらを見上げた。


「……その、美人ついでにもうひとつ、お願いがあるんですけど」

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