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求婚ですか、魔王さま!?  作者: よみせん
天使と悪魔と生け贄プロポーズ
17/39

俺、ごほうびをもらう

 俺は、あと一週間で死ぬらしい。


 その間に解呪の方法を見つけなければいけない、んだが。


「どうしたもんか……」


 相変わらず右腕には黒々と『(ジュ)』の文字が浮きでている。心なしか、まわりの青黒いアザが広がっている気がする。

 熱は無いが、体もちょっとだるい。風邪ひいてる時みたいな。


 時刻は午後四時。

 アパートの二階にある自宅を出て、一階にある奥の部屋を訪ねた。

 チャイムを鳴らした。扉が開く。タマネギ頭と赤い簪がのぞいた。


「トメば……ぶへっ!?」

「トメさんとお呼び!!」


 いつも通り、巨大ハリセンを頭に受けてしまう。もう三年以上も食らっていれば、このくらい可愛いもの、か?


 頼まれていた、おつかいの品を渡す。

 ついでにお(すそ)分けの手羽先が入っていたタッパーも返した。タッパーの中身を見たトメばあは、目を細めた。快活な声がひびく。


「あら、嬉しいねえ! 三国堂の和菓子じゃないか!」


 タヌキにせがまれた桜もちと一緒に、お礼として購入したものだ。そこそこ良い値段がした。

 最近、一人と一匹ほど居候がふえて、出費がキツ……げふんげふん。


「いや、そのくらい別に。……しかし、こんなもん何に使うんだ?」


 街で買ってきたのは、ヒモやガムテープ、薄い木材の板などである。


「ああ、そろそろ台風が来るだろう? その準備だよ」


 窓ガラスの目張りや、強風で飛びそうなものの固定に使うんだ、とトメばあはいう。


「でもニュースでは、まだ一週間は先って……ぐはっ」


 アホーッ!アホーッ!アホーッ!


 電柱に止まったカラスが泣いた。

 涙目で叩かれた頭をさする。

 やはり、痛いものは痛い。


「バカだね! 何事も、用意周到に準備しておくのが大事なんだよ」


 トメばあはしわくちゃな笑顔で、片目をつぶってみせた。


「はい……」


 身体に冷たい秋の風が吹きつけた。

 まあ俺、呪い解けなかったら台風の前に死ぬんだけど。


 部屋に戻ると、幼女はベッドと壁のすき間でいじけていた。白い壁に黒いドレスが映える。


 アパレルショップの破壊には、さすがに雷を落としたのだ。


 脳裏に莫大な賠償金がよぎったのも忘れてはいけない。あれはマジでヒヤッとした。


「っく、ぐすっ……だっで。早く帰れるど思ったんだもん……ごめんなざいぃ……」


 鼻の頭を真っ赤にしてすすり上げる。

 ポロポロと、涙の粒がほっぺたを滑っていった。ちょっと鼻水も出ている。


 ──『ほら、小さい子もいますし。電車の時間だってあるでしょう?』


 ──『修理は簡単にできるから。さっさと帰れよオッサン』


 双子は驚いていたものの、笑ってなんとかしますと言って、帰してくれたのだ。

 出来た子たちである。本当に申し訳ない。後日必ずお礼をするからと、戻ってきた。


「ベル」


 幼女のそばにしゃがんで、声をかける。ちびっこにずっと泣かれると、罪悪感がひしひしと押し寄せるのだ。

 丸まっていた幼女は、真っ赤な瞳をこちらに向けた。銀のツインテールがしょんぼりと垂れている。


「ふぁい……ぐすっ」


「ほい、今日はたくさん歩いたからな。頑張ったごほうび。あと鼻もかんで」

「んむ」


 ティッシュで顔をぬぐってから、ベルの目の前にそれを差し出す。

 紫のダリアの髪飾り。

 あのアパレルショップで、装飾品も売っていたのだ。


 さっそく髪にアクセサリーを留めたちびっこは、あっという間に笑顔になった。

 銀のツインテールが嬉しげに跳ねる。まわりにキラキラとエフェクトがかかった。


「はるひと、ありがとう!」


「ん。似合うと思うぞ」


 小さな頭をポンポンとなでる。

 へにゃりと幼い顔がゆるんだ。幼女はごそごそと首もとを探りだす。


「ベルもはるひとに、ごほうびあげる!!」


 つき出されたのは、革ひもに通されたドクロのネックレス。

 白くて立体感があって、本物じゃないかと思わせる不気味さがある。


「これ、大事なもんじゃないか?」


 確かいつも着けていたような。あと、何気にかなり怖い。ドクロの真っ黒な眼窩と目があった。口もとがひきつる。


 アメジストの瞳がまっすぐに俺を見上げた。


「おかーさんからもらったけど、いーの! お守り、あげる!!」

「でも」

「はるひとは、優しいの! 好きだから、あげる!!」


 窓から夕陽がさしこんだ。

 もじもじと照れた視線がさまよう。

 ん、と押しつけられたので、反射的に受けとった。


「……そっか、大事にするよ。ありがとな」


 それほど信頼してくれたのか。いつのまにそんな、懐かれたんだろう。

 首にかけて、ドクロは服の中にしまうことにした。


「だから、ベルをおよめさんにして!!」

「それは無理」


 しばらくすると、幼女は眠ってしまった。たくさん泣いたし、疲れたもんな。ベルから借りた本を開く。


「今となっては、この本をベルに渡したじいやさんに感謝だな」


 クネクネした文字は読めないので、翻訳を神様に頼むことにした。

 日が落ちて、窓の外は暗くなっている。


蠱毒(こどく)についてじゃったな』


 ローテーブルの上に陣どったタヌキが、鼻をヒクヒクと動かした。ボリュームのあるしっぽがコミカルに揺れる。

 短い前足で本の一ヶ所を指し示した。


『この呪いの形式から行くと……ふむ、初期はカゼの症状、中期は手足のしびれとダルさ、最期には青黒いアザが全身に広がって死んでしまうとあるのう』


「なにそれ怖い」


『体の末端の血管に、栄養がいかなくなるそうじゃ。腕の文字が濃くなればなるほど、呪いが徐々に重くなり、苦しみながら倒れる、と』


「そこまで生々しく言わなくていいから!」


 思わず自分の腕をチラ見する。黒いアザは肩からヒジにかけて、ゆっくりと範囲を広げていた。


『しかし、魔法ではなく、魔術だったから対処しやすいというのもあるのう』


「へえ、魔術と魔法って違うのか?」


 小さな生き物はつぶらな瞳をくるりとまわした。驚いたように茶色い毛が逆立つ。


『なんと! お主、そんなことも知らんのか! よかろう、サクラ餅をひとつ捧げるなら、教えてやろうではないか。あと酒もじゃ』


 丸っこいフォルムの体がコロンと動く。茶色いふわふわの耳がピクリとふるえた。


 茶色いかたまりを無言で見つめる。

 ため息をついた。


「わかったよ」


 食い意地の張ったタヌキめ。


 ふんぞり返ったタヌキが言うには、魔術と魔法は違うらしい。

 大まかに、魔術はヒトが使うもの、魔法はヒト以外が使うものだそうだ。知らんけど。


『人間は、ワシらが使う魔法より細かい手順を踏みよるでな。なんであんなに道具や長い唱え文句が必要なのやら。ワシならお主を一息に殺すがのう』


 タヌキがブツブツ言ってるけど、要は、俺がかけられた呪いは魔術に分類されるということだろう。


 だって、わざわざ腕に文字を刻み、手順を踏んで殺そうとしてくるのだから。手順の途中で手を加えて、結果を変えやすいらしい。


 その点、魔法は大味で強力なのだという。一発で即死みたいなやつ。知らんけど。


「で、解く方法は?」


『うむ、因果を把握して、忘れることじゃ』


「くわしく」


『呪いはどこでもらったのか、誰からかけられたのか、なぜかけられたのか、を理解した上で、それらに関係することを忘れるのじゃな。つまり、原因は分かったけど気にするな、ということじゃろう』


「どこでもらったか?」


 知らないなあ。


 では、誰にかけられたか? 


 これも心当たりがない。なぜ呪いをかけられたか?……そんなん俺が聞きたいわ!!


 結論。


「全部わかんね」


『……ふむ、蠱毒(こどく)は壷のなかで百の虫を共食いさせるのであろう? こう、慰霊というか、生き物の墓地のようなものを見に行ってみるのはどうじゃ?』


「そうだな……」


 とりあえずキッチンにあった食卓塩を腕にかけてみたが、変化はない。


「これでお清めとかは……ダメかあ」


 死にたい訳ではない。なにもしなければ呪いは進む。何か、俺でも出来そうなものは。それこそ神頼みくらいしか……


「!」

 手で膝を打つ。見上げるタヌキのつぶらな瞳に向かって叫んだ。


「そうだ、神頼みだよ!」


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