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求婚ですか、魔王さま!?  作者: よみせん
天使と悪魔と生け贄プロポーズ
14/39

俺、迷宮の謎を解く

 次々と、剣が床に突き刺さる。


 電流が弾け、閃光と共に、地面が()ぜた。


 牛人(ミノタウロス)は巨体ながら、素早く横に転がって攻撃をかわしていた。だんだんこちらに近づいてくる。

 更に、手にはいつの間にか棍棒のようなものを持っていた。


「恐ろしいな……」


 あそこにいれば、間違いなく潰されてしまうだろう。悪寒が走った。

 俺は、通路脇の壁に立ち、幼女の後ろで戦いの様子を見ている。


 見ているだけ。


 俺には、ベルのような力はない。こんな場面ではまったく役に立たない、無能。

 なぜなら、ただの人間だから。


 こんな時に限って、頼られるべき時に。俺はただ、小さな背中にかばわれて立っているだけだ。

 手のひらに、握りしめたツメが食い込んだ。


「俺に出来ること……」


 考えろ。守ってもらうばかりではいられない。自分に出来ることはなにか?


 考えろ、考えろ、かんがえろ。


 双角の怪物を見つめる。

 腰布を巻いた白い巨体。

 筋肉でこれでもかと膨れている。


『おい、小僧』


「あれは……」


 首元には……鉄の首輪か? しかも、カギみたいなのがぶら下がってる。


「カギ……となれば、開けるものがあるはず」


 広間の奥に目をやると、扉が見えた。


「あれか」


 決まりだろう。怪物からカギを奪い、扉にさしこまなければ開かない。


『小僧!』


 戦闘の爆発音は続いている。


 部屋全体を見渡した。何か使えるものはないのか。役にたてるものは? 互いの攻撃で壊れた床にガレキが散乱している。

 あとは、白い物体。怪物がボリボリかじっていたやつだ。……骨とかじゃ、ないよな?


『前じゃ、前!』


 タヌキが頭から飛び降りていく。



 思考の海に沈んでいたからか。


 幼女をすり抜け、目の前に迫る影に、気づかなかった。


「──はるひとっ!」


 切羽詰まった幼女の声に顔をあげたときには、唸り声と拳が間近にあった。巨体が影を落とす。


「しまっ、」




 轟音。





 爆風がおさまった。

 耳元でガラリと何かが落ちる音がする。


「痛く、ない?…………っ!」


 恐るおそる目を開けると、眼前に牛の顔があった。


 瞳の中に怯える俺がうつっている。


 時間が止まった。

 大きな瞳と、じっと見つめあう。


 低い息づかい。

 長いまつ毛。

 意外と柔らかそうな、白い毛並みまでしっかりと確認できる。


 あれ、もうちょっと小さければ、普通に可愛いような……



 それも束の間。


 風圧とともに、牛人は遠くに吹き飛ばされた。


「はるひとに触らないで!」


 可愛らしくむくれた幼女が俺の足に抱きつく。彼女が怪物を吹き飛ばしたのだろう。ひっついてきた小さな体を受けとめた。


 横を見ると、一メートルほど離れた所の壁が、大きく陥没(かんぼつ)していた。怪物が拳を撃ちこんだところだろう。


「攻撃が、外れた?」


 いや、



「外した……か」


 何の力も持たない俺を狙うのはまだ分かる。


 だが、あの距離で当たらないなど考えられない。

 つまり、あの怪物はわざと攻撃を外したのだ。なぜ?



 何のために?


 三十メートルほど先で、白い巨体が身を起こす。脅威が再び迫っていた。


「いいかげんに……」


 むっとしたような幼女の呟きと共に、再び雷を(まと)った剣がいくつも現れる。


 さっきと違うのは、数。

 明らかに大量の黒剣が空中に展開されていた。広間いっぱいに並んでいる。


 点で狙えないなら、面で。



 そして、今にも剣が降り注がんとした時。



 怪物が持っていた棍棒を地面に叩きつけた。


 あたりに爆音が(とどろ)く。地鳴りが起こったかのように足元が揺れた。


 灰塵(かいじん)が舞い上がる。あたりは茶色い砂煙に覆われた。

 もちろん、怪物の姿も(ちり)に隠れて見えない。



「かくれんぼしても、かんけいないよ?」


 逃がすつもりはないというように、幼女は紫紺(しこん)の瞳をすがめた。



 その言葉と同時、串刺しの雨が降る。


 壁や床が崩れる音が轟いた。

 そのインパクトは、さきほどの比ではない。

 広間がガレキで埋まってしまうのではと思うほどだ。


 煙の中から咆哮がひびく。


「やったか……?」


 地響きにあわせて、高い天井から欠片がふってくる。崩落が始まっていた。


「このままじゃ下敷きになるぞ」


 あわててちびっこを抱え、もと来た通路の奥まで退避する。ここまで逃げても通路が埋もれてしまえば終わりだ。出来るだけ遠く、荷物を置いていたあたりまで下がる。


「あの怪物、さっき考えて動いてやがったぞ」


 力を持たない俺を狙った。塵をまいあげて自分の姿を消し、視界から外れようとした。明らかに、合理的な行動。


『知性を持っておるのう。高等な魔物じゃ』


 頭に乗ってきたタヌキがぷるぷると毛を逆立てた。先ほどの攻撃のときには頭から飛び降りて逃げていた。ちゃっかりしたやつめ。


「厄介な……」


 全く、怖いヤ○ザのお兄さんよりもヤバいやつに絡まれてしまった。わりと想像できない、あり得ない感じのヤバいやつ。


 なんでちょっと服見に来ただけなのにこんな……いや、考えるだけ無駄だったな。巻き込まれたら脱出するしかない。うん。

 遠い目になってしまったのはしょうがない。


 低い唸り声。

 怪物の巨大な影が、薄くなった塵の中に映る。


「もう! はるひとに嫌なことしないで!!」


 くちびるを尖らせた幼女がゆびを影に向かって突きつける。アメジストの瞳が暗く光った。


「あんまり暴れるなら、殺しちゃうよ?」

「ちょっ、それは!」


 それは、なんというか。



 怪物はともかく。



『自称さんびゃくさい』とはいえ、幼女に守ってもらって、()()()()()()()()()()()()()()()()のはどうよ?


「ベル、落ち着け」


 幼女を後ろから抱えあげる。


「やだ! はなして!!」

「うっ」


 ……そう言われると、俺めっちゃ悪いことしてる気になるんだけど。殺すって叫んでるちびっこの暴走を止めてるんだよ? ノーポリスメン。


 幼女はなおも影をにらみつける。 


 そして、とっってもイイお顔でのたまった。




「はるひとはベルが一生幸せにするの! 永遠の愛を誓うの!! だから、はるひとはあげないの!!!」


「え」


 あっけにとられる。



 それ、むしろ俺のセリフ ──────!


 ちびっこにプロポーズの言葉カッコよく決められるってどうよ!?

 しかも、涙目でキッと前を見据える幼女の様子はけっこう様になっている。


「悪いけど、はるひとはベルがもらっていくから! あきらめて!!」

「ゲホゴホゴホっ!?」


 俺、さらわれて駆け落ちパターン!?


『小僧、いっそ、お主が嫁にもらわれてやったらどうじゃ』

「ですよねー!?」


 タヌキからの視線が痛い。


 幼女は振り返ると、小さなこぶしを握りしめて力強く言った。



「だからはるひと、結婚して!!!」

「ブフォッ!?」


 シンプルプロポーズ来た ──────!!!!


 男前すぎるだろ。


 俺、ちょっとキュンキュンしたもん。胸のドキドキが止まらない。犯罪的に、ひやっとする意味で。


 怪物が迫るのも忘れて口をはさむ。


「ちょっ、お前は結婚の順序というものをだな!?」


 順序が整っていれば結婚してもいいのか、とのツッコミはこの際おいておく。


 幼女はぷいっと横を向いた。


「ベルしらない」

「知ってくれぇえええええ!!!」


 幼女は両手のひとさし指をチョンとくっつけながら、さくらんぼのようにつやつやの唇をほころばせる。


 柔らかそうなほっぺたがゆるんだ。


「将来はね? はるひとのお嫁さんになって……んふふ、ギョーザいっぱい作ってもらうんだあ」


 だめだ、可愛い野望がすけて見える。可愛い。あー、可愛い。……あ、まってまって違う、ノット通報案件。オーケー?


 肩の力が抜ける。

 苦笑しつつ幼女の頭をポンポンとなでた。


「そのくらい結婚しないでも作ってやるよ」


「ほんと!?」


 アメジストの瞳が期待でかがやく。

 キラキラとあたりにエフェクトがかかった。


「ほんとほんと」


 壁が崩れ、灰塵を含んだ風が吹く。口の中にざらざらとした感触が入り込んだ。

 幼女に殺させず、怪物からカギをゲットするにはどうしたらいいか?


 視界の端で、ちらちらと何かが動く。


「ベルが街でもらってきた……」


 灰色の(ちり)にまみれて、ぽつんと荷物にくくりつけた風船がゆれていた。



 ────『ひとりぼっちだねえ』


 ────『はやくお迎えがくるといいねえ』



「一人ぼっち……」



 まさか、


 本当に()()()()()()可能性は?


 崩壊は落ち着いてきた。幸い、天井が丸ごと落ちる、なんてことにはならなかったようだ。広間の損傷は酷いが原型はとどめている。




 三枚の壁画。

 あれを、『怪物が人を食べてしまうためにずっと待ち続けている』のではなく、『命令していた主を含め、周りから人がいなくなってしまった』と解釈するなら?


 長く閉じ込められているにしては綺麗な毛並みと、引き締まった体格。


 所有権を示すようにつけられた首輪。


 きちんと提供されている食事。


 しかし、ここにいるのは怪物だけ。


「えへへ、はるひと、すき!」


 幼女が笑顔で飛びついてくる。さらさらの髪からあまい香りがした。


 脳裏にセーラー服の少女が浮かぶ。叶わない恋をする乙女のような、甘酸っぱい表情。



 ────『好きな人には見ていて欲しいじゃないですか。認めてほしくなりません?』


 フルスピードで脳が回転する。頭が熱い。じんじんと視界が歪む。


 あり得ないけど。

 もし、コイツが理性を持っているとするならば。

 感情があるのならば。


 崩落のおさまった広間を、凪いだ風がぬけてゆく。



 体から幾筋(いくすじ)か赤い色を流し、牛人(ミノタウロス)は立っていた。


「ベル、あいつを捕まえられるか? 殺さなくていいから。いいか、殺しちゃダメだぞ」


 幼女は頷くと、視線を怪物へ向けた。

 地面から黒い鎖が伸びて、たちまち巨体を縛り上げる。


 わずかな(うめ)き声をあげ、ズシンという音とともに怪物は部屋の中央に伏した。


「意外と大人しくしてるな……」


 怖いのを我慢して、そろそろと傍まで歩みよった。拘束された怪物と目を合わせる。

 理知的な眼が見返した。



 なぜコイツは攻撃をわざと外し、俺を殺さなかったのか?




「なあ、もしかしてお前──────」


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