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求婚ですか、魔王さま!?  作者: よみせん
天使と悪魔と生け贄プロポーズ
13/39

俺、災厄とエンカウントする

 アパレルショップに入ったら迷っちゃって、いつのまにかカラフルな一本道を歩いていました。

 しかも帰れません。はい、今ココ。


「……え?」


 いやいやいや、え?


 お店どこいった?

 そもそも何でこんなとこに……いや、いいわ。適当にいけばなんとかなるだろ、もう。めんどくせえ。


 慣れって怖い。


 ここしばらく不思議なことに巻き込まれ過ぎて、あきらめと耐性がつきつつある。俺は考えることを放棄した。


「はるひと、どうしたの?」


「いや、なんでもない」


 こそっと肩にのるタヌキに耳打ちする。


「おい、引き返して帰れると思うか?」


『無理じゃな。ここは一種の結界のようなもんじゃ』


 タヌキの答えはにべもない。


『結界の起点となる、物なり人なりが居るはずじゃ。先に進んで確かめた方が賢明じゃの』


「やっぱ行くしかないか……ぐしゅっ」


『ほお、風邪か?』


「んー、なんか調子悪いというか」


 喉がイガイガして、軽く咳きこむ。


「はるひとー! はやくいこー!」


 通路の先で無邪気な声が反響する。銀のツインテールがわくわくと飛びはねていた。

 幼女はこんなときでも元気である。


 静まりかえっているのが不気味といえば不気味だが、天井の高い通路は広くて一本道だし、カラフルで明るい。

 何より、追いかけてくるものが無いのがデカイ。どっかのクソだぬきにやられた黒い手とかな。


 安心して進むことができるので、つい他愛ない話がこぼれる。


「そういえばベル、最近お嫁さんにしてって言わなくなったよな。諦めたのか?」


 からかうように問えば、幼女ははっとして固まった。「忘れていた」とでも言いたげな顔だ。


「べ、ベル、言わないであげただけだもん。わわわ、忘れてた訳じゃないもん」


 アメジストの瞳が空中をいったり来たりする。

 それは忘れてたヤツですね、うん。


「ギョーザがおいしくて、クマさんもかわいくて、楽しかったから忘れてたわけじゃないもん!!」


 うんうん、楽しかったのね。


 買い物袋と風船をもち、肩にはタヌキをのせて、カラフルな道をどこまでも進む。


「お? これは……」


 エジプトの壁画のような、鮮やかなイラストが、壁一面に描かれている。

 全部で三場面あった。


 一枚目は、なにやら玉座に座った人物が、白い生き物に指図をしている。生き物には大きな二本の角が生えていた。すみっこに太陽がかかれている。

 二枚目には、生き物の足元に何人かヒトが倒れている。空の中央には隅から移動してきた太陽が。

 三枚目、真ん中にぽつりと白い二本角の生き物が立っている。空には月がかかっていた。


「ひとりぼっちだね」


 最後の絵をみて、ベルがいった。

 頭上で同意するように風船がゆれる。


「……そうだな」


 うっ、心が痛い。純粋なキラキラしたものが、まっすぐに俺を射抜く。黙って胸に手をあてた。


 この状況だぞ? フラグを立てたい訳じゃないけども。

 こういうのって、悪い怪物か何かがヒトを食い殺すために、じっとやって来るのを待っているのかなあ、とか普通に想像していた。


「かわいそうだねえ。はやくお迎えがくるといいねえ」


「う"っ」


 サクサクと追加で突き刺さる。

 さすが幼女。俺の真っ黒で汚れた思考とは大違いだ。

 全身をなんともいえない疲労感が襲う。ズキズキする頭に手をあてた。


「さ、行くぞー」


 幼女の歩みが遅い。

 ぼんやりと胸元のドクロがゆれる。

 疲れたのだろう。なにせずっと歩いているのだ。


『ふぎゃ!?』


 口数の減っていたタヌキをつかんで頭に移す。


「お前はこっちな」


 続いて、眠そうにしている幼女を抱き上げた。


「着いたら起こすから、寝てていいぞ」


「んにゃ……」


 とろんとした瞳が閉じかかっている。優しく銀のさらさらな髪をなでた。

 小さな頭を肩に(あず)け、ゆるゆると柔らかい手が肩にまわる。ぷくぷくのほっぺたが押しつけられて、ふにゃりと形をかえた。


「ベルは、はるひとに好きになってもらわなきゃいけないのに……」


 寝ぼけた幼い声がいった。

 少しだけ、苦しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。

 落ちないようにしっかりとちびっこを抱きなおした。


「……そんなに頑張らなくても、お前は十分いいやつだと思うよ」


 静かになった通路をひたすら歩く。

 それにしても。


「この迷路、いつまで続くんだか……」




 昔話をしよう。


 古代ギリシャの迷宮、クノッソス宮殿。

 名工ダイダロスが手掛(てが)けたとされる、数多(あまた)の部屋と複雑な構造を(ほこ)った建築物である。

 伝承において、ミノス王とその妃は九年に一度、生け(にえ)を宮殿に送った。


 なぜなら、彼らがそこに閉じ込めていたのは、


「!」


 硬いものを噛み砕くような音。

 この先から聞こえてくる。

 カーブした通路の終わりが見えた。明らかに(ひら)けた場所がそこにある。


 いったん様子を見にいった方が良いだろう。


 寝ている幼女と荷物を壁際に下ろし、頭のタヌキも引きはがす。見上げるつぶらな瞳に声をかけた。


「ベルを頼むな」


 通路のギリギリまでにじり寄り、その先を垣間見(かいまみ)る。ひろがる光景に息を飲んだ。


「人……?」


 円形の広間だった。

 そいつは背を向けて、何かを食っていた。鈍い咀嚼(そしゃく)音がすべてを食らわんと響く。

 五メートル以上あると思われる、白い頭、白い巨体。

 頭から生える、巨大な二本の角。


 心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。フラグをバッチリ回収してしまった。


「逃、げな、」


 足元に落ちた、何かの欠片を踏みつける。


 小さな音に、勢いよくヤツが振り向いた。

 飛び出しそうな、ぎょろりとした目。長い舌。

 カパリと歯が()き出しの口もとを大きくひらく。



 牛の頭をした、顔で。





 牛人(ミノタウロス)咆哮(ほうこう)した。

 空気が震え、地面が鳴動する。

 あまりの威圧感に足がその場に()いとめられた。


 体が、動かない。


 声も出ない。


 そこからは早かった。

 あっさりと地を蹴った怪物が距離を詰め、筋肉で膨れ上がった拳が顔面にせまり──────






 衝撃と、凄まじい風圧。

 吹き飛んだのは、怪物の方だった。


 黒い半透明の壁に跳ね返されたのだ。


「はるひと!!」


 目の前でゆれる、フリルたっぷりの黒いドレス。

 幼女は振り返ると、心配そうにこちらを見つめる。


「だいじょうぶ?」

「あ、ああ」


 こちらを心配するということは、金髪女のときに比べてまだ余裕があるのだろう。紫紺(しこん)の瞳には変わらない無邪気さが宿っている。


「よかったあ」


 へにゃりと幼女は笑みを浮かべた。

 ぺったんこの胸元で、ドクロのネックレスが頼もしげに揺れる。


 肩にタヌキが飛びのってくる。疲れたようにグチった。


『あの小娘、ワシが起こしてやっておるというのに、気持ち良さそうに寝おって』


 なるほど、幼女を連れてきてくれたらしい。あとで桜もち、サービスしてやらないとな。


 再度、咆哮。

 怪物が、白煙のなかから瓦礫(ガレキ)を踏みしめて姿を現す。

 幼女は怪物に目を向けた。


「はるひとを、殴ろうとしたの?」


 可愛らしい笑顔がすっと消える。


 あたりの温度が、下がった。


 小さな背中からドス黒いオーラが(にじ)み出る。

 幼女のまわりに黒い物体がいくつも現れた。

 長剣(ロングソード)だ。切っ先すべてが怪物を向いている。



「はるひとに、痛いおもいをさせようとしたの?」


 舌ったらずの声に(けん)が混じる。

 幾多(いくた)の長剣が、電流の弾ける音と共に黒雷を(まと)った。



「ベルに、かくれて?」


 怒りに震える声。

 強い風が吹き荒れた。

 銀のツインテールが宙へと舞い上がる。

 明滅する黒い光。


 ほおを膨らませた幼女は、怪物に指を突きつけた。


「わるいことしちゃ、ダメなんだよ」



 黒い(つるぎ)が、流星のごとく飛び出した。

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