第4話 もう1人の転生者の願い
パーティー会場
「あ、アーネちゃぁぁん……!」
ホールに戻ると、ルルアは相当絞られたのか泣きながら周りを気にせず抱きついてきた。
ルルアを落ち着かせるために心をなるべく内にしまって頭を撫でる。
「ルルア、大丈夫だよ」
そう言いながら、周りに礼をしてなるべく人目につかない壁側に移動し、落ち着くように言い飲み物を渡すす。
落ち着いて来たのを確認して何があったのか問いかけると、飲み物を飲みながらゆっくり話始めてくれた。
ルルアが話してくれた事を纏めると
ホールで私がルルアから目を離した直後、数人の貴族令嬢たちが彼女を取り囲んだらしい。
理由は、平民であるルルアが身につけている、ユノリアーノ様から贈られたあの美しい銀細工のヘアクリップだ。
『平民の身の丈に合わない』『どこかから盗み出したのではないか』と根も葉もない言葉で責め立てられ、周囲の貴族の子女たちもそれを娯楽のように笑って見ていたという。
「……そっか。ルルア、怖かったね。もう大丈夫だよ」
ぽんぽんとルルアの頭を撫でながら、私の頭の中は急速に冷えていく。
私の愛する天使の心を傷つけた。その罪は重い。
表向きはただの平民特待生アーネ・ミージアとして穏便に済ませるしかない。
だってこの感情はアーネ・ミージアの感情なのだから――
会場の壁際に目をやると、深紅の髪の少女――リルーラが、ワイングラスを片手にニヤリと不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
彼女の目は『あいつら、いつ消す?』と語っている。
私はリルーラにだけ分かるように、小さく首を横に振った。
ここは神聖な学園のパーティー会場だ。血を流すのは、もう少し夜が更けてからでいい。
ルルアが落ち着いてから少し経ち、令嬢達がまた不快な笑顔を向け私達の方へ向かって来ていた時、先程遠くで見えていた深紅の髪が私達の前でなびいた。
「――ねぇ、ルルア・ヘイズさん。あたしとも友達にならない?」
凛とした、けれどどこか楽しげな声が響く。
ルルアの前に突然現れ、友達にならないかと主張した深紅の髪の少女を見て、ルルアに再び不快な笑顔を向けようとしていた令嬢たちが一瞬で硬直した。
リルーラは後ろを気にかけることもなく、さらに言葉を続けた。
「リルーラ・フレイムよ。よろしくね?」
「え、あ…」
私はリルーラに対しての呆れを言葉全面に出しながらもルルアに言葉をかける。
「ルルア。リルーラ私の友達だし、大丈夫だよ。それに同じSクラスだからこれからも顔をあわせるときはある筈だし良い機会なんじゃない?」
「⋯⋯。」
私が説明するとルルアは私の目を見てきた。が、ルルアはすぐに黙ったまま自分の手元を見ていた。
ふむ、このままじゃ強制して居るようにも見えるのか⋯⋯?
一応ルルアの意思を尊重することは伝えて置いた方がいいだろう。
「手を取るかはルルアの自由だよ。それにルルアには私が居るから!」
私はそうルルアの瞳を見て語る。
「あの子、平民なんでしょ?」
「同じ平民とはいえ上級生からの誘いを断るなんてことは⋯⋯」
「あの赤髪の方って入学以来からずっと首席を取っている方ではなくて⋯⋯?」
関係のない周りからはリルーラや私に対する困惑の声が聞こえる。
⋯⋯それでも、ルルアは私を見た。
ルルアから見て、アーネ・ミージアは立場関係なく友人の言葉を聞き、自分の立場が悪くなるような状況でも友人をとる優しい子にでも見えているのだろうか。
――きっと、周りから見てもアーネ・ミージアの瞳は友人を心配する優しい瞳にでも見えているのだろう。
アーネ・ミージアがこの感情を抱けたとしても”私”が理解出来ないと意味はないというのに⋯⋯。
私から見るとアーネ・ミージアは今までの私と同じ無機質な瞳を持った人形だ。
「っ⋯⋯よ、よろしくお願いしますっ!」
そう考えているとルルアの声がした。
覚悟を決めたようだ。
「えぇ。これからよろしくね♪」
リルーラはそのようすを見て満足したのか楽しそうな声を響かせた。
「⋯⋯はいっ!」
「じゃあ、これからリズに挨拶に行かない?―――2人で。」
「え⋯⋯。」
「え……っ」
ルルアが小さく身をすくめ、私をぎこちなく見る。彼女は極度の人見知りで、今は私以外の人とはまともに会話すらできない状態だ。
それに、Sクラス担任の『アノマリーズ』は、いつもどこかふんわりとした空気を纏っていて、この厳格な学園の雰囲気にはお世辞にも似合わないような人だ。けれど、私やリルーラにとってはボス側の人間だと分かっているからこそ、リルーラも親しげに『リズ』と呼んでいる。ルルアにとっては、その掴みどころのない雰囲気が余計に怖いのかもしれない。
「じゃあ、私はここで待ってるから、二人で行っておいでよ」
私がそう声をかけると、リルーラがニヤリと不敵な笑みを深くした。
――ああ、そういうことか。
そこでようやく、私はリルーラの意図に気づく。
実は、ユノリアーノ様が髪飾りをくれたとき、私の袋にだけ一通の手紙が入っていたのだ。
リルーラは、ユノリアーノ様が私に何か用事があるのをなんとなく察していたのだろう。そして、私から離れられないルルアをその場から連れ出して気まずい思いをさせないように、あえて『リズに挨拶に行く』という口実を作ってくれたのだ。ぶっきらぼうに見えて、本当に気の回る相棒だ。
「じゃあ、ちょっとルルアを借りていくわね」
「……う、うん。アーネちゃん、また後でね……っ」
ぎこちなく手を振るルルアの背中を押し、リルーラが彼女を連れて人混みの向こうへと消えていく。
一人になった私は、会場の壁際に身を寄せ、ポケットからユノリアーノ様に渡された手紙を取り出した。
周囲の目を盗み、そっと中の便箋をもう一度開く。
そこには奇妙な文字列が並んでいた。
『これが読めるなら、パーティーの最初の挨拶が終わった後中庭の時計塔へ来てほしい』
――世界の誰も読めないはずの、前世の言葉。
そこに書かれていたのは、まぎれもない『日本語』だった。
溢れ出しそうな疑問を無理やり胸の奥に押し込み、私は手紙を強く握りしめた。
私は壁の時計を見上げ、約束の時間が訪れるのを静かに待ち続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パーティーの最初の挨拶が終わり、会場の熱気が一段落した頃を見計らって、私は静かにそこを抜け出した。
夜の中庭は、パーティー会場の喧騒が嘘のように静まり返っている。冷たい夜風が私の髪を揺らし、足元の芝生が微かに擦れる音だけが響いていた。
闇の中に佇む時計塔のふもと。そこへ近付くと、手紙の主はすでにそこに立っていた。
『……本当に、来てくれたのね』
振り返ったユノリアーノ様は、月光を浴びてルルアに向けていた意地悪そうな笑みではなく話に聞いていたような完璧な貴族令嬢としての笑みを浮かべていた。けれど、その口から紡がれた音は、この世界の言語ではない。
――まぎれもない、流暢な『日本語』だった。
私は小さく息を呑み、彼女との距離を保ったまま、鋭い視線を投げかける。
「ユノリアーノ様は何者なんですか。⋯⋯⋯その言葉を知っているということは私と同じと考えても良いんですよね。」
「えぇ。私もあなたと同じ⋯⋯。転生者よ」
そう言うユノリアーノ様は、どこか悲しそうだった。
でも、そんなの私には関係ない。
「何で私を呼び出したんですか?ただお喋りしたい訳ではありませんよね。」
「⋯⋯――私があなたを呼び出したのは、私を処刑から助けて欲しいからなのっ⋯⋯!」
「は?⋯⋯どういうことですか?」
「あなた、冒険者なんでしょ!?報酬はいくらでも払うわ!お願い!」
「いや、そっちじゃなくて⋯⋯」
そう泣きそうになりながらユノリアーノ様は語る。
「ルルアさんと殿下のカプを特等席で拝めるためには、悪役令嬢が必要なのっ!だから私はこれから悪役令嬢としてルルアさんを虐めないといけないの⋯⋯。でも、でもでも!ルルアさんを虐めるのは心が痛むし、ゲーム道りに進むなら私は国外追放、悪ければ、処刑されてしまうの!」
「⋯⋯大変な状況なのはわかりますが、ゲームってどういうことですか?」
私は、必死に語るユノリアーノ様は諌めながら、疑問を口にする。
「え⋯⋯?だ、だから、この世界は乙女ゲームの⋯⋯」
「乙女ゲームの……何ですか?」
首を傾げる私に、ユノリアーノ様は口をパクパクと開閉させた後、がっくりと肩を落とした。
完璧な公爵令嬢の威厳はどこへやら、完全に魂が抜けたような顔をしている。
「うそ、でしょ……。知識なしの転生者なの……? じゃあ、私のこの溢れんばかりの推しへのパッションを、一体誰と共有すればいいのよぉ……!」
頭を抱えてまたしても斜め上の絶望をし始めた前世の同志に、私は深いため息を吐く。
パッション=英語で情熱や激情
ある程度書いて予約投稿→少しずつ文を追加という書き方をしてるので中途半端なところで投稿していたらごめんなさい。
最後まで読んでくださりありがとうございます
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