第3話 パーティーと協力者
アインハルト皇立学園 歓迎パーティー会場
「うわぁ……!凄いねアーネちゃん、とっても広くてキラキラしてる!」
そう興奮気味に言い、天使は私に本当の天使のように笑顔を向けてくれた。
「ルルアのほうが綺麗だよ…!」
そう心のままに言うとルルアは困ったようにしながらまた新たにはにかむような笑顔をして照れながら言葉をつなげてくれた。
「えへへ、でもユノリアーノ様がくれた飾りのおかげだよ……///」
そう言って照れくさそうに笑うルルアが身にまとっているのは、彼女の大きな紫色の瞳によく似合う、淡いパステルパープルの可憐なドレスだ。
フリルが何層にも重なった裾が、彼女が動くたびにふわりと優しく広がっている。
そして、ハーフツインのお団子の結び目には、ユノリアーノ様から贈られた袋に入っていたという、繊細な銀細工のヘアクリップがキラキラと輝いていた。揺れるたびに小さな鈴のようなチャームがチリンと鳴り、彼女の愛らしさをこれでもかと引き立てている。
しかも、ルルアの愛らしい顔を隠していた前髪、そして揃っていなかった後ろの髪も、私が許可を貰って自らの手で切り、自らの手でお団子に結ったのだ。
……まぁ私は、容姿などに関してのことはほぼほぼ分からないので魔法でなんとかしたが……。
どこか愛しい我が子を見守る母親のような感情が湧いてくる。
そして、そして!
今までの話とあんまり関係ないかもしれないが、髪を切っている最中、ルルアが突然小さな勇気を振り絞るように、
『アーネちゃんと呼んでも良いでしょうか……!』
と言ってくれたのだ!
天使からのお願いだ、断る理由がない。だがそこで私はあるお願いをしたのだ。
そう! そこで呼び捨ての許可を貰ったのだ!
最初助けたときは目立ちすぎて、残りの学園生活を諦めようと思ったが、今はただこの天使に感謝をしている。
私は興奮を抑えるため考えるのを止め少し遅れてしまったがルルアの言葉に噛みしめるように返事をする。
「確かにそうかもしれないけど、ルルアのお顔とかが元々可愛かったのが最大の理由だよ…!」
「……ありがとう、アーネちゃん。アーネちゃんも可愛いよ…!すっごく似合ってる。」
ルルアがまたも、はにかむ様に笑顔を浮かべたおかげで、私の♡は、既に保てなさそうだ。
しかも、ルルアは興奮しすぎて先ほどまでは使っていたはずの敬語を忘れている。
―――可愛すぎて、今夜、私は倒れてしまうかもしれない……。
……ごほん。
護衛任務のために私はずっと興奮していた心を静めた。
「……ん、これぐらいなら失礼じゃないよね。」
私は小声で呟き、近くにある窓に反射している自分を見て自分の装いを確認する。
窓に映る私は、余計な飾りを一切削ぎ落とした、シックでシンプルなドレスに身を包んでいた。
形は少し単純なような気がするが、私の瞳と髪の色の水色と青色のグラデーションによって、海にも夜空にも見えるデザインだ。
服がシンプルな分、ユノリアーノ様からプレゼントされた上品な星空のような髪飾りだけが、私の髪筋で特別な存在感を放っている。
武器も隠しやすいし、ある程度は着飾っているので失礼だと思われる心配は恐らくないだろう。
そして、先程から言っているようになんとユノリアーノ様が私たちに髪飾りをプレゼントしてくれたのだ。
時間で言うとパーティーの前に私の部屋に来た時、
『恥ずかしくてルルアに直接渡せないから、変わりに渡してくれないか』
とお願いしてきたのだ。公爵令嬢(護衛対象)からのお願いだ断る理由がない。
ユノリアーノ様の気持ちは分からないがユノリアーノ様もきっとルルアと同じで可愛らしい方なのだろう。
「―――それでは皆様ぜひ楽しんで下さい。」
先ほどから話していた(はずの)、生徒会長と学園長、理事長の3人からの始めの挨拶が終わったようだ。
他の人達は慣れたように食事や談笑をしているが私たち平民は当然、パーティーなんてほぼ行ったことはない。あったとしても誕生日会などの小さな家族や友人だけの楽しいパーティーだろう。
そして、このパーティーも身分関係なく新入生達を歓迎し楽しむパーティーという名目だが、実際は実力をはかったり、弱みを握ろうとしたり―――こんなのただの腹の探り合いだ。
きらびやかなシャンデリアの光の下、親の真似なのか笑顔の仮面を貼り付けた子女たちが、互いの出方を探るように視線を交わしている。そのドロドロとした空気感は、ギルドの酒場とはまた違った種類の気味悪さがあった。
当然、膨大な女神から与えられた力『神聖力』を持つルルアは、そんな貴族たちにとって格好の『獲物』だ。挨拶が終わるや否や、彼女の周囲には下心を隠しもしない貴族の令息や令嬢たちが群がり始めていた。
「あ、あの、アーネちゃん……っ」
困ったように助けを求めてくる天使の視線が痛いほど突き刺さる。今すぐその華奢な肩を抱き寄せて連れ去りたい衝動に駆られるが、私はぐっと理性を保った。
私の表の立場は、ただの平民特待生。ここで私がしゃしゃり出れば、かえってルルアに変な噂が立ち、彼女の立場を悪くしてしまうかもしれない。それに、私にはもう一つ、これからこなさなければならない大事な『予定』がある。
「ルルア、少し喉が渇いちゃったから、あっちの飲み物を取ってくるね。………大丈夫、すぐ戻るから」
なるべく安心させるような笑みを浮かべてそう告げると、ルルアは少し寂しそうにしながらも「うん、わかった!」と小さく頷いてくれた。
押し寄せる貴族の波にルルアを任せ、私は護衛対象である第二王子・レーヴェン殿下の位置を目線でサッと確認する。
学園の位置は決して特定出来ない場所にあるため狙われるような事はないと思うが、内通者が居るかもしれない。
皇子様の周りには令嬢達が群がって居るが殺意のようなものを抱く者はいない。それに、周りの皇子様の側近が令嬢達を抑えているのでこのパーティーで皇子様が狙われることはないだろう。
さて、約束の時間まであと少し。
人混みをすり抜け、熱気と毒気の立ち込める会場から逃れるように、私はひと気の少ない静かな廊下へと足を向けた。
――その直後だった。
「っ……!」
誰も居ないはずの廊下から突如として気配を感じ後ろを即座に振り向くと、頭の後ろから制服を着た上級生と思われる腕が現れ私を後ろから包み込んだ。
「警戒心が足りないんじゃないの特待生さん?」
「何でいるの…」
そう発せられた声は聴き慣れた声をしていた。
「ベリト……」
「あら?あたしがこの学園に居たって別に不思議じゃないわよ?協力者の話聞いてるはずでしょ」
『ベリト』チューベローズと同じギルドの実行役。そして帝国に6人しか居ないSランク冒険者。
その最年少である『アーネ・クラウン』と同時期、同年にSランク冒険者になった『リルーラ・フレイム』。
「聞いてはいたけどベリトなのは聞いてない」
私の背後から腕を引いた彼女が、悪戯が成功した子供のようにくすくすと笑いながら私の前に回り込む。
丁寧に後ろで三つ編みされた炎を想起させる鮮やかな赤髪が、廊下のわずかな灯りを反射してきらめいている。冒険者ではなく騎士らしい凛とした佇まいで、制服姿も完璧に着こなしている絶世の美少女――なのだが、今はあからさまに眉間に皺が寄っており、不機嫌オーラが全開だ。
「残念だけど、今のあたしはベリトじゃなくてリルーラ・フレイムよ」
「リルーラ……なんで名前を変えていないの?そのまんま。Sランク、バレないの?」
そう言うと少し機嫌が良くなかったのか先ほどより少し明るくなった声でリルーラが答える。
「お貴族様達が冒険者について知ってるとは思えないけど…それにボスは別にバレても構わないって言ってたし、あたし的にはバレてくれた方が実践できて良いのよね」
リルーラはそう言いながら「ファイア」と短縮詠唱で小さな炎を出した。
リルーラはこれまでの事だけで分かるように、火を思わせる深紅の髪の通り、彼女は火魔法の申し子だ。
その好戦的なセリフからも、戦うことを愉しむいわゆる『戦闘狂』の類なのだとよく分かる。
リルーラは思ったことをすぐ口にするようなタイプだが、それは仕事と関係ないときだけだ。仕事となれば私より慎重になる。
そのせいで、何故か周りからリルーラは私の母親だと言われている。そのことだけがどうにも解せないのである。
とりあえず「そう言うこと」と私が納得のを見てリルーラも何か不思議に思ったのか聞いてきた。
「で。今のあんたはどっち?ローズ?それともアーネ?」
「学園に居るのはアーネ・ミージア。今リルーラの前に居るのはチューベローズ」
そう答えると満足いったのかリルーラは自分の後ろを指差し楽しそうに話してきた。
「ふふ、じゃあローズなら、もう気づいてるよね?」
「分かってる――」
◇ ◇ ◇
同時刻
2人の少女が居た場所には1人の少年が立っていた。
「気の所為か?声が聞こえた気が……」
風にそよぐ淡い銀の髪に、どこか現実味を感じさせない涼しげな琥珀色の瞳。
「……風が見慣れない色を、微かにだけど運んでいる―――」
風魔法を得意とする家、スカイスティル辺境伯家の三男であり、その整った容姿とは裏腹に、どこか掴みどころのない学究肌のオーラをまとっている少年――リノアル・ディア・スカイスティルだ。
ある程度書いて予約投稿→少しずつ文を追加という書き方をしてるので中途半端なところで投稿していたらごめんなさい。
最後まで読んでくださりありがとうございます
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