第2話 予期せぬ新たな友人
「はーい。これでSクラスの方は全員集まりましたねぇ?」
……胃が痛い。今すぐ実家に帰って、前世の緑茶でも飲んで寝転びたい。
集まっていたSクラスの面々を見渡すと、案の定、帝国屈指の高位貴族たちの仕立ての良い豪奢な制服が並んでいる。
でもその中に着飾っていないシンプルな制服も混ざっていて少し安心する。
それにしても今ここに集まっている新入生の中で平民は私を入れて3人。
この学園に居る平民は私達、新入生を入れて合計4人だから今年は凄い子がいっぱい居るなぁ。
私の目的はただ一つ。ボス――「皇弟」様から直々に受けた、皇太子レーヴェン殿下たちの護衛任務を全うすること。プロの冒険者(?)として、不審者に目を光らせようと周囲を観察した、その時だった。
ひときわ冷徹で、美しい姿勢で佇む公爵令嬢と、バチリと視線がぶつかった。
品格を感じさせるゆるやかなウェーブのかかった紫髪に、サイドを上品に編み込んだ三つ編みとお団子。一目で最高級の令嬢だと分かる洗練された佇まいだ。
事前に教えてもらった情報の通りなら彼女の名前はユノリアーノ・シャノア・シェイドメア様。
(………私の記憶に、あんな平民の女の子なんていたかしら……?)
ユノリアーノ様は、扇を口元に当てながら、品定めをするような鋭い視線で私をじっと睨みつけてきている。 だけど、その瞳にはどこか困惑が滲んでいるようにも見えた。
そして、受難はそれだけでは終わらなかった。
「あ、あの……さっきの、」
私と同じ平民のルルア・ヘイズちゃんが私に気づき、小さな顔をぽっと赤く染めた。
おそらくさっき魔導桜の下で、転ぶ彼女を助けるためにお姫様抱っこしてしまったせいだ。
彼女はいまだにソワソワと私を見ていて、周囲の貴族たちから「なにあの子……」とさらに不審な視線が飛んでくる。
「はーい。それじゃあ行きましょうかぁ」
今回は流石にアノマリーズ先生に感謝だ……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「大体の施設は案内し終わりましたので、この皆さんSクラスの教室で最後ですねぇ!
皆さん後はお喋りなどしてもらって構いませんので、パーティーに遅れないように早めに寮に戻ってくださいねぇ。それでは!」
アノマリーズ先生はそう言い、すぐに教室に私達をおいてどこかに行ってしまった。
「……やっと終わった」
教室は講堂のような作りになっていて、とても広かった。
私は情報のとおりか、ここに居る人達の顔を確認するために教室の一番上一番端の席に座った。
……正直言うともう寮の自分の部屋に戻って実っけ――荷物整理をしたかった。
「それにしても広いな、今居る人達が全員着席してもめちゃくちゃ場所があまるんじゃないのぉ……?」
「…………え、Sクラスは…どの学年も人が少ないから、他の学年の人と一緒に授業を受けるって、ほ、他の人たちがいってました……」
謎に思っていると何故か遠くに居たはずのルルアちゃんが小走りで私のところまで来て少し息を整えてから教えてくれた。
「えっと、ありがとう…?」
「あ、あ…うぅ」
教えてくれたので感謝を伝えるとルルアちゃんはまた顔を真っ赤にしてその場にうずくまってしまった。
私が困惑していると、カツカツと上品な音を立ててユノリアーノ様が近づいてきた。
すると、ユノリアーノ様は一息つき、
「⋯⋯――ルルアさん。言いたい事があるのならハッキリとおっしゃりなさい!」
「ご、ごめんなさ――」
ユノリアーノ様はそう言いルルアちゃんの返事を待たず素早く立たせ私のところに押し出してきた。
「……………あ、あのアーネさん…ルーとお友だちになってくれませんか……!」
「えっ…!私でい、いいの…?」
まさかのお願いで戸惑って居ると、突然ルルアちゃんの瞳から大粒の涙が流れ出した。
それを何も出来ず、ただ見ているとふとルルアちゃんの後ろのユノリアーノ様から鋭い視線を感じた。
「あ、ありがとう…!これからよろしくね」
「ほ、ほんとですか?」
「もちろん」
私が了承するとルルアちゃんは笑顔になったが瞳からは絶えず大粒の涙が出ていた。
すると、ユノリアーノ様が繊細ですごく綺麗なハンカチを取り出しルルアちゃんに突き出した。
「っ…?」
ルルアちゃんが困惑の表情をしてユノリアーノ様を見上げると、ユノリアーノ様は扇で自分の口元を隠したまま突然早口で喋りだした。
「それ、あ、あげる…ますわ!私の制服には合わないデザインでしたもの。早くその涙をおさめなさい。私そのようなものを見るのは嫌ですわ!もうこれ以上、へ、平民なんかとお喋りなんてしたくないので私は寮に戻りますわ!それでは!!!」
「え…」
ユノリアーノ様はそう言い扇を『パチンッ』と音を立てて閉じ宣言通り嵐のように教室を出ていった。
私はユノリアーノ様が教室を出ていくのを眺めたあと、周りを見てみるとほとんどの生徒様達の顔は私達の方に向けられていた。
私はすぐにこのめんどうな状況から抜け出すため、必死に涙を止めようとするルルアちゃんに声をかけた。
「ねぇ、ルルアちゃん。私達、平民だからあんまりドレスとか着たことないと思うんだけど、着替えに時間かかるかもしれないから、これから一緒に寮にいかない?荷物整理とかもあると思うし…どうかな?」
「ルーで良いなら一緒に行きたいです…!」
「じゃあ、行こっか!」
ルルアちゃんがOKしてくれたため、私は少し急ぎ足でルルアちゃんと一緒に寮に向かった。
「私の部屋はここみたい。ルルアちゃんの部屋は?」
「ルーはアーネさんのお隣のお部屋です……」
「……いや?」
「い、いえ!嬉しいです」
可愛すぎて少しからかって見ると、慌てて少し困ったようにしたと思ったらはにかむように笑ってくれて私の♡は大爆発してしまった。
「だ、大丈夫ですか…?」
……ふむ、ルルアちゃんが可愛すぎて少しフリーズしてしまったようだ。
これ以上ルルアちゃんに心配をかけるわけにはいかないし、これからはしっかりせねば。
私は呼吸を整えてルルアちゃんに答える。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。あ、そうだ、着替えで何かあったら聞いてもいいかな?私スカートとかワンピースほとんど着ないんだけどドレスだともっと分からなくて……」
「ルーが出来ることならご協力します…!」
「ありがとう。それじゃあまた後でね!」
「わかりました」
私とルルアちゃんはそう言ってそれぞれの部屋へ入っていく。
「よしっ!これで荷物整理終わり。……あれ?」
終わった、と一息付くとふと机に置いてある花が目に入った。
部屋に花があると聞いたことがないので、おそらくボスが入学する前にくれると言っていたプレゼントだろう。
でも、気になるのはそこじゃない。その置いてある花だ…。
「チューベローズ………任務を忘れるなってことなのかなぁ」
チューベローズは夜になると一層強くなる濃厚で官能的な甘い芳香と、すっと伸びた茎に咲く乳白色の蝋細工のような花だ。
そして花言葉は危険な快楽。
「別に、あの子に害を加えさえしなければ、命令に逆らうつもりはないのに。
………任務遂行のためにパーティーに行ってアーネ・ミージアのキャラを確定する前に変更点を聞きたかったけどしょうがないか、はぁ、私が魔法を使わなければ対等に戦えそうな子が居たから近づきたかったけどやっぱり難しそうだな。」
私は先ほど部屋に置いた沢山のぬいぐるみの中から1つを選んで抱きしめる。
……チューベローズというのは劇団での私の呼び名……。
私が殺しをしているのは、ボスからの命令だからだ。決して自分の意思で傷つけ、殺している訳では無い、それに、殺せと命令されているのは恩を仇で返したり、自分の利益のためなら親兄弟でも裏切るなど、人間としての最低限の倫理すら無い者や、傷つけらたり、殺されるところを見て楽しむ外道達だけだ。だから私はこの仕事は帝国のためのものだとまぁまぁ誇りに思っている。
世間的に組織は、裏ギルドなどと言われているが、この組織は帝国のために作られた正式な組織なのだから。
劇団も帝国に利益があるように物語のように語るからと付けられた名前だ。
それなのに、私のチューベローズという名は裏社会に留まらず、最近では死に愉悦を求める死香の魔女として表社会にまでその悪名が広がり始めている。
だから、その悪名の広がりを止める良い機会だと気楽に思っていたが…ボスがこうも示して来るとなると相当大事な仕事なのだろう。……まぁ皇太子様の命に関わる問題だから当たり前だが、
バチッ
「………また」
考え事をやめ手元を見ると先ほどまではぬいぐるみだったものが無惨な姿になっていた。どうやら力み過ぎてしまったようだ。
これを見ても何も感情が湧いてこない。
いつもの事だ、でも今は感情を理解しなければならない。そうしないと私達の計画は失敗に終わってしまう可能性がある。
あの子のために計画を必ず成功させなければならない。例え、命の恩人を裏切る必要があるとしても。
それにしても、『ルルア・ヘイズ』あの娘は使える。
あの化物達のように感が良いわけでもないし、身体能力が良いわけでも魔力が多いわけでもない。特別なのはこの学園に入学できたこと。それだけ。それ以外はただのどこにでも居るような平民の少女。
でも、特待生という訳でもない。普通の平民ならもし試験が受かったとしても、入学金や授業料が払えず特待生試験を受ける。それが落ちたのならもう学園は諦めるだろう。それだけの金を払う価値がこの学園にはあるのだ。
彼女がこの学園に入学出来たのは膨大な『神聖力』を持っていたこと。そして現当主が枢機卿であるフェリシタス侯爵家が引き取ってくれたからだ。
ルルア・ヘイズという存在は恐らくフェリシタス侯爵家の力と後々関係が出てくる。
フェリシタス侯爵家という高位貴族を操れるのはかなり便利だ。
「計画を成功させるまでには力を制御出来るようにしないと……」
そう独り言を言いぬいぐるみの後片付けをしようとすると、
部屋の外からずっと聞こえていた足音が止まり、部屋に控えめなノックが響いた。
「あ、あの、アーネさん…!少し良いかしら?」
何の感情も籠っていない私の声とは対照的な、人らしい柔らかさと穏やかさを孕んだ声が聞こえてきた。
ユノリアーノ様だ。元々情報と性格がかなり違うから確かめようと思っていたが、自分から来てくれるとはありがたい。
扉を中が見えない角度に開け、『アーネ・ミージア』が返事をする。
「ユノリアーノ様……!?何かあったんですか?」
ある程度書いて予約投稿→少しずつ文を追加という書き方をしてるので中途半端なところで投稿していたらごめんなさい。
最後まで読んでくださりありがとうございます
次も見てくれると嬉しいです
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