第1話 アインハルト皇立学園入学式
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ヴァルハイト帝国で最も大きな学園――アインハルト皇立魔法学園の入学式。
新入生たちの華やかな歓声と、仕立てのいい制服に身を包んだ貴族の子女たちが、日本の満開の桜に似た魔導桜の下を行き交っている。
そんな春の陽気に満ちた学園の敷地内で、一つ、ひときわ重苦しい小さなため息が響いた。
「はぁ……。ヴァルハイト帝国で最も大きくて、平民より魔力のある貴族のほとんどが通う学園のアインハルト皇立魔法学園かぁぁ……」
なんで、私がこんな大層なところにいるんだろう。
私はただの平民で、ちょっと(?)腕の立つ冒険者として、目立たないように普通に暮らしていたはずなんだけどなぁ。
「でも、もうここまで来ちゃったら、前世の分まで青春を謳歌してやる!」って意気込みたいところだけど……私は今も昔も筋金入りの陰キャだ。一体どうやって友達を作ればいいっていうの……。
さっきから独り言を言っているけれど、私は転生者だ。
前世は日本という国で「彩音」として生きていた。転生したばかりの頃は魔法のある世界に驚きがいっぱいだったけれど、まだ幼い時だったから、幸いにも周囲に変に思われることもなく生きてこられた。それに目立たないように、細心の注意を払っていたはずだった。
なのに、何故か。
平民であり、貴族たちからはあまり良く思われていない(と思う)冒険者の私が、この超絶豪華な貴族学園に通っている。
もう、今できることはただ一つ。
――そう、全力の現実逃避!!!!!!
「……数ある伝説の中でも有名なあの魔導桜。この帝国を立ち上げた英雄、初代皇帝が愛用していたとされる聖剣『シュヴェールト』を、帝国が一つになった証としてこの地に突き刺した場所。そこからこの魔導桜が咲いたことにより、ヴァルハイト帝国では桜がああぁぁ…」
「ねえ、あの娘が噂の平民……?」
「気味が悪いわ……」
「さっきからブツブツと何を言っているのかしら……」
嫌なことを考えないために、脳内の図書館で読んだ「魔導桜の歴史」を必死に音読していたのだけれど、周囲の上品な貴族令嬢、令息たちからの冷たい視線に耐えきれなくなった。
私はすぐに音読を中止し、その場で周りを見ないように小さくしゃがみこんだ。
……結局、膝を抱えても嫌な考えしか出てこない。
「まだ初日なのに…もうやだよぉ」
しかし、このまま引きこもっているわけにはいかない。
ここで心を折れさせてしまっては、与えられた「仕事」をまともに果たせぬまま、ボスの元へ帰ることになってしまうから。
もちろん、私がこの学園に来たのは、純粋に魔法を学ぶためなんかじゃない。
私はもうすでに自立しているし、それはもう素晴らしいギルドに加入していてお給金もものすごいのだ。
目的は、去年この学園に入学した、第二皇子にして皇太子――レーヴェン・ゼフェラ・ヴァルハイト殿下の護衛だ。
私の仕事ぶりは、元々「まだ幼いが高ランク冒険者として相応しい実力」と同じ冒険者達からも評価されていたから、任務自体に不安はない。けれど、これはその冒険者としての仕事じゃない。
守るための表の仕事ではなく排除するほうの裏の仕事としてボスは掲示してきたのだ。
それに私のような人間がしている仕事は、何よりも「信頼」が大切だ。学園に馴染めず怪しまれて 「mission failed(任務失敗)」なんてことになれば、ボスとの信頼関係が悪化しかねない。
もう、学校での平民としての評判なんて気にしている場合じゃない。
とにかく皇子様を守るために、徹する他ないのだ。
そんな風に、頭の中でプロの冒険者(?)としての意識に切り替えていた、その時だった。
「きゃっ……!」
すぐ近くで、小さな悲鳴が聞こえた。
私はすぐに転移魔法を使い彼女の転ぶ先に周り抱きかかえた。
まぁ、お姫様抱っこになってしまったけれど……
とりあえず、女の子の安否を確認しよう。って思ったけど声ってどうかければいいの…?とりあえず無難な言葉かければいいよね…?
「……大丈夫ですか?」
声をかけ、私の腕の中で呆然としている子の顔を覗き込む。
ふわりと広がったひだまりのような柔らかな金髪の隙間から、私を見上げる、太陽の光を受けて神秘的な碧緑にきらめくアレキサンドライトのような瞳。それはもう、繊細で可愛らしい顔をした女の子だった。
彼女はジーっと私を見つめていたけれど、「はっ」と頭の上のぴょこんと跳ねた毛先まで震わせる勢いで我に返ったようにすぐに顔を真っ赤にした。
「ご、ごめんなさいっ! 助けてくれてありがとうございました!」
慌てて立ち上がり、ぺこぺこと頭を下げながら制服の裾を払い出す彼女。
その姿を見て、私は内心で盛大に頭を抱えていた。
(ジー……って、周りからの視線が痛すぎるよぉぉぉぉ!!)
やってしまった。完全に目立ちすぎた。
一応、学園内での魔法は攻撃魔法以外なら許可されているはずだし、私は何も悪いことはしていない。していないけれど……女の子が転ぶ瞬間に、無詠唱で背後に「転移」してお姫様抱っこでキャッチする平民の特待生の新入生なんて、目立つなと言う方が無理がある。
彼女の着ている制服は、私と同じ、装飾の一切ないシンプルなものだった。おそらく私と同じ平民の新入生なのだろう。
それにしても大きい荷物だ。
周りに集まった人だかりは、「まあ、可哀想に」「怪我はなくて良かったわ」と心配そうな顔をしている。誰かに意地悪で転ばされたわけではなさそうなのが、せめてもの救いだ。
ただ、このアインハルト学園は5年制。新入生の私達を含めても、今この学園にいる平民の生徒はたったの『4人』しかいない。
同じ平民のよしみもあるけれど、私は護衛任務がある身だ。何か別の企みや、私をハメるための罠という可能性もゼロじゃない。一応、彼女のことは頭の片隅に留めておいたほうがいいだろう。
◇ ◇ ◇
「――以上の心得を胸に、ぜひ充実した学園生活を楽しんでください」
壇上の偉い先生の長い長ーーいお話の締めくくりが聞こえる。
「……ふわぁ」
私は入学式中ということもあって、口元を手で隠しながら、声を極限まで抑えて欠伸をした。
私自身、魔力を身体に回していれば寝なくても平気な体質なのだが、いかんせんこの学園には帝国最高峰の強力な結界が張られている。ここで下手に魔力を練れば、私の他とは違う異様な魔力や技術などなどがバレてしまうかもしれない。
そんな不安から一切の魔法を使わずに大人しく座っていたせいで、どうやら私は入学式中に本気で寝落ちしかけていたみたいだ。
とりあえず、特待生という立場を維持するためには、成績をトップクラスで維持しなければならない。しっかり話を聞こうと前を向いたけれど、時すでに遅し。どうやら式は完全に終了し、もうクラスごとに分かれて移動する時間になっていた。
寝ながらも何故か耳に入ってきた校長先生の長い話の中の説明によると、この場所に入る前に配られたバッジに、自分の所属クラスが自動で浮かび上がる仕組みらしい。
ポケットから、配られた時はただのひし形のキラキラしていたたバッジを取り出してみる。
その表面には、いつの間にか、禍々しいほど綺麗な銀色の文字が刻まれていた。
――『 S 』。
「魔法がかけられてるのには配られた時に気付いてたけど、こういう演出のためのものだったんだ。……って、感心してる場合じゃない。もっとこういう細かい魔道具の仕様に一瞬で気付けるようにならないと、護衛の手落ちに繋がっちゃうな」
私は指先でバッジの表面をなぞり、そこに残るかすかな魔力の残滓を分析する。
「……それにしても、この魔力。どこかで見たような気がするんだよね。えーっと……あ、もしかして、ミラ姉の魔力? いやいや、あの人がこういう学園の行事に裏で関わってるなんて聞いたことないし、そもそも他人に協力するような殊勝な性格の人じゃないんだけどなぁ。でも、この独特な魔力の変調のさせ方は……」
「はーい。Sクラスの方は全員集まりましたかぁ?」
バッジに刻まれた魔力を早口(脳内)で分析していると、前方の広場から、妙にふわっとしたこの場には合わなそうな緊張感のない声が響いた。
声の主は、どうやら私達新入生のどこかのクラスの担任らしき先生だ。その背後には、すでに何人かの生徒が集まり始めている。
Sクラス。
つまり、私のクラス。
「……ってことは、あそこにいるのが、これから5年間一緒に過ごす同じクラスの人たち?」
「あれぇ?一人居ませんねぇ。あぁ、あの子は…アーネさぁんこちらですよぉ!遅れてしまいますよお急ぎくださぁい」
「あっ…すみません!」
私はバッジを強く握りしめ、その集団へと足を向けた。
これから始まる、表向きはお気楽な学園生活。そして裏では、皇太子の命を狙う闇との化かし合い。
胃が痛くなるのを必死に堪えながら、私は一歩、踏み出す。
読んでくださりありがとうございます
少しギャグよりの展開になってしまいましたが題名のことなどもあるので、少しづつアーネの過去などに触れて行こうと思います
これからアーネの物語を広げていくので楽しんで頂けたら嬉しいです
1話は大体3000〜5000文字
投稿は金曜日、16:30の週1投稿しようと思っていますが学校もあるので投稿できない週があるかもしれません
最後まで読んでくださりありがとうございます
次も見てくれると嬉しいです
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