次回をお願いします。
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ありがとうございます。それでは第二回です。
今回は第一章の後半から第二章前半に当たり、リオが祖父の忠告に背いてエナと関わり始めること、そして星の川の幻想的な旅を中心に描きます。まだ大きな真相には踏み込みません。
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『星を編む渡し守』
第二章 願いの流れる川
翌朝、村はいつもと変わらぬ朝を迎えた。
煙突から白い煙が立ち上り、鶏が鳴き、畑へ向かう人々が笑顔で挨拶を交わす。
夜の出来事など、誰一人知らない。
リオだけが、昨夜見た少女のことを考えていた。
朝食の席で何度か祖父へ尋ねようと思ったが、オルドは黙ってパンをちぎり、温かな野菜の煮込みを口へ運ぶだけだった。
重い沈黙が食卓を包む。
耐えきれず、リオが口を開いた。
「昨日の子は、何だったんだ。」
祖父の手が止まる。
「忘れろ。」
「記憶がないだけじゃないか。」
「違う。」
それだけ言うと老人は椅子を引き、外へ出てしまった。
答えは得られなかった。
しかし「違う」という一言だけが、かえってリオの胸へ残った。
その夜、舟を出す時刻になっても、リオは決めかねていた。
祖父の言葉に従うべきなのか。
それとも、もう一度少女を訪ねるべきなのか。
結局、彼は櫂を握ったまま、小屋を出た。
舟は静かに夜の川へ滑り出す。
昨夜と同じ岸辺。
そこには、やはり少女が座っていた。
昼も夜も動かなかったかのように、同じ姿勢で水面を見つめている。
「また来た。」
エナは小さく微笑んだ。
「待ってた。」
「待ってた?」
「分からない。でも、来る気がした。」
その言葉に、リオは少しだけ笑う。
「昨日から何か思い出した?」
エナは首を横へ振る。
「名前だけ。」
「それ以外は?」
「何も。」
記憶を失ったというより、初めから何も持たず生まれたような声だった。
リオはしばらく迷い、やがて舟へ手を差し伸べた。
「少しだけ乗る?」
エナは驚いたように目を見開く。
「いいの?」
「……本当は駄目らしいけど。」
祖父には怒られるだろう。
それでも、一人で夜の岸辺へ残していくことはできなかった。
少女は恐る恐る舟へ乗り込む。
その瞬間だった。
川を流れていた光が、一斉に舟から距離を取る。
今まで穏やかに漂っていた願いたちは、水面へ小さな波紋を描きながら、まるで見えない壁を避けるように左右へ分かれて流れていった。
「……何これ。」
リオは初めて見る光景だった。
願いは人を恐れない。
舟も祖父も自分も避けたことなど一度もない。
なのにエナだけを避けている。
エナは申し訳なさそうに俯く。
「やっぱり降りる。」
「違う。」
リオは慌てて首を振った。
「君が悪いわけじゃない。」
そのまま舟を漕ぎ出す。
やがて夜は深まり、川幅が広がっていく。
岸辺の木々は姿を消し、水面と星空だけの世界になる。
エナは息を呑んだ。
「きれい……。」
「初めて見る?」
「うん。」
「ここが星の川。」
エナは身を乗り出し、流れる光へ手を伸ばす。
しかし光は指先へ触れる前にふわりと離れ、また静かに流れていく。
触れようとしない。
拒むでもなく、逃げるでもなく、ただ届かない。
リオは胸の奥に小さな痛みを覚えた。
「願いなんだ。」
「願い?」
「人が眠っている間だけ流れる。」
エナは一つ一つの光を目で追う。
「みんな、どこへ行くの?」
「空へ。」
「どうして?」
「……そういうものだから。」
答えながら、自分でも曖昧だと思った。
祖父に教わったことをそのまま口にしただけで、本当の理由は知らない。
舟はさらに上流へ進む。
すると霧の向こうに、一面の白い花が咲く丘が現れた。
月明かりを受け、無数の花弁が静かに揺れている。
「花?」
「願いだよ。」
リオが説明する。
「渡せなかった贈り物は花になる。」
風が吹く。
白い花びらが夜空へ舞い上がる。
その一枚一枚が小さな光を宿し、まるで星が咲いているようだった。
エナは花畑へ降り立つ。
一輪の花へそっと触れた。
その途端、花は淡い光を放ち、一人の若い女性の姿を映し出した。
女性は胸に抱えた小さな花束を見つめ、何かを言おうとして微笑み、そして光とともに消えていく。
「この人……。」
「渡せなかったんだろうね。」
「誰に?」
「分からない。」
リオは静かに答える。
「僕らは願いを運ぶだけだから。」
エナはしばらく花畑を見つめていた。
「悲しいね。」
「そうかな。」
「うん。でも、少し優しい。」
リオはその言葉を聞き、祖父なら絶対にそんな表現はしないと思った。
悲しい願い。
優しい願い。
運ぶだけでは見えないものを、エナは見ているのかもしれない。
二人は再び舟へ戻る。
花畑の光はゆっくり遠ざかり、夜の川だけが静かに続いていた。
そのはるか後方で、一艘の舟が音もなく流れを追っていることに、二人はまだ気付いていなかった。
舟の上には、白い髭を風に揺らすオルドが立っていた。
老人は何も言わない。
ただ、孫の背中を遠くから見守り続けていた。
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(第三章へ続く)




