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まだ名もなき怪物達 第4部ー神代蒼真ー  作者: HANA


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第25話 帰るぞ、クソ野郎

真っ暗だ。

体が動かない。

生暖かい物が流れていく。

息が吸えない…。


俺は、”死ぬ”のか。


粉塵の舞う暗闇で、蒼真は意識を手放した。



ガガガガガッ!!!!

細径ドリルが瓦礫へ打ち込まれる。

崩れないギリギリを攻めながら、自衛隊工兵班と消防レスキューが慎重に穴を広げていく。

「右側梁、まだ生きてる!」

「荷重逃がせ!!」


怒号が飛び交うその中心で蓮はずっと端末を見つめていた。

ピッ……

ピッ……

生体反応は微弱だった。

だが消えずに動き続けている。


白石が膝をつき、瓦礫隙間に向けて声を張り上げた。

「神代!! 聞こえるか!?」

返事は無い。

「神代!!」

白石の声が少しだけ震えていた。

すると。

ザッ……

ノイズ混じりに通信機から、小さく息を吐く音が聞こえた。

『……ッ……は…』

全員が呼吸を忘れたように止まった。

『……ん……』

蓮の目が見開かれる。

『……れ…ん…』

「っ!!」

蓮が瓦礫へ顔を寄せ、叫んだ。

「蒼真!!」

数秒、荒い呼吸音だけが響いてくる。

シュー……

シュー……


『……うる、せぇ……』

掠れた声が聞こえた。

それは確かに神代蒼真の声だった。


現場の空気が一気に変わる。

「生存確認!!」

「総統生存!!」

誰かが叫ぶと消防も自衛隊も一気に動き出し救出を急いだ。


その中で蓮は一度目を閉じた。

ほんの一瞬だけ。

張り詰めていた何かが切れそうになる。


しかし次の瞬間にはもう補佐官へ戻っていた。

「蒼真、状況話せ」

即座に切り替わる。

瓦礫の向こうで小さく咳き込む音。

『……右脚、潰れてる…』

周囲が静まる。

『あと……多分、骨盤と…肋骨…』

白石が顔を歪めた。


最悪だ。

圧迫位置的にも出血的にも長時間は保たない。


蓮が低く問う。

「呼吸は」

蒼真からすぐには返答はなくシュー…と酸素音だけが聞こえてくる。

『……ライン…死ん、だ……ッはッ...』


その瞬間、白石が鬼のような形相で怒鳴る。

「酸素ライン急げ!!!!」

工兵班が一気に作業速度を上げる。

蒼志が毛布を握り締めた。


聞こえてしまった。

父親の苦しそうな呼吸。


『……ゴホっ…そう…し』

瓦礫の向こうから小さく名前が呼ばれた。

蒼志の目が見開かれる。

『……無事、か…』

堪えていた涙が蒼志の目から溢れた。

「っ……う、ん……!」

声が震える。

すると蒼真は小さく息を吐いた。

シュー……

もう酸素音は弱かった。


『……ッ……よし』

たったそれだけ、それだけの言葉で

蒼志は泣き崩れていた。

父が他に伝えたい言葉の全てをそれで悟った。


蓮が顔を伏せ、白石も唇を噛む。

だが神代蒼真はまだ終わってはいなかった。

瓦礫の下から掠れた声が再び響く。


『……蓮』

「なんだ」

短い返答を蓮が返す。

『……全員、帰せよ』

その瞬間、蓮の顔が歪んだ。


「てめぇが最後だ、クソ野郎」



工兵ドリルの音は響き続けていた。

ガガガガガッ!!!!

瓦礫の隙間が僅かに広がっていた。


「右側、あと30センチ!!」

「梁動くな!! 支えろ!!」

怒号が飛ぶその中で蓮はずっと瓦礫へ向かって声を掛け続けていた。


「蒼真」

『……ぁ?』

「寝んな」

『……眠ぃ……』

「羊数えんなよ」

『……1匹……』

「数えんなって!!!!」

現場で何人かが吹き出してしまった。

白石が怒鳴った。

「笑ってる暇あんなら掘れ!!!!」

だがその空気のお陰で誰も止まらなかった。


誰も諦めていなかった。


ガガガガッ!!!!

工兵班が細径ドリルを押し込む。

「空間見えた!!」

「ライト!!」

ライトが瓦礫隙間へ滑り込み内部が見えた瞬間。

全員の息が止まった。


暗闇の中に見える血。

粉塵がライトで照らされる。

そして瓦礫へ半身を押し潰されながら酸素マスクが外れかけた蒼真が居た。


蒼志は息を呑んだ。

「……父さん……」

右脚は完全に挟まっていて、右腕も不自然な角度で瓦礫へ押し付けられていた。

白石の顔色が変わる。

「右腕も圧迫されてる……」

蓮も瓦礫の隙間から目を逸らさない。

「蒼真」

『……ん……』

「右手動くか」

少し沈黙したその後、指先が僅かに動く。

白石が即座に叫ぶ。

「神経まだ生きてる!!」


だが蒼真の呼吸がまた乱れ始めた。

『……ッ、は……』

シュー……

酸素が足りていなかった。

蒼真の生体反応デバイスのSpO2も低い。


白石が叫ぶ。

「酸素ライン、入れるぞ!!!!何とか吸え、神代!!」

消防レスキューが細いホースを瓦礫隙間へ押し込んでいく。


蓮は瓦礫に頬を押し付けながら蒼真に声を掛けた。

「蒼真、聞け」

『……ぁ?』

「次寝たらお前の黒歴史全部バラす」

数秒の間の後、蒼真の声が聞こえてくる。

『……やめろ……』

生き返ったかのような蒼真の反応だった。

「効くんすか、それ!?今?!」

訓練生時代からの蒼真の数々の黒歴史を知る奏が吹き出す。

蓮はそんな奏とは対照的に真顔だった。

「効くだろ」

すると瓦礫の奥から掠れた声が聞こえる。

『……蓮……』

「なんだ」

『……ッハ……ガードレール……』

その場には蒼真と蓮の同期生の一般部隊隊員が数名おり、その言葉に反応した。

「「「あ」」」

蓮の眉がピクリと動く。

『……お前も……共、犯……』

自衛隊の工兵班まで肩が震え始めていた。

この人達ガードレールに何をした?と気になっている。


蓮が低く返した。

「黙れ」

『……“戻せばバレねぇ”って……ッ』

「蒼真」

『……あと…煙草…ゴホッ…逃走……』

「黙れ!!!!」

真顔のようで少し恥ずかしそうな蓮の表情に現場が崩壊した。

だが笑い声の中でもドリルは止まらない。

作業の手を止める者は居なかった。


白石は小さく息を吐いた。

“喋れてる”うちはまだ、帰せる。

意識が落ちないように蓮がしてくれているのは白石も分かっていた。

蓮は再び瓦礫へ顔を寄せる。

「蒼真」

『……ぁ…』

「もう少しだ」

その瞬間、瓦礫の奥で蒼真が小さく笑った気がした。

『……遅ぇ…よ……』

「お前がデカいんだよ」

『……うるせぇ……』

その掠れた返事に。

誰もが、もう一度力を込めた。


ゴゴ……ッ……

瓦礫が軋む。

「止まれ!!」

「梁確認!!」

粉塵の中、その場の空気が凍った。

全員が息を止めた。


ここで再崩落が起きれば全てが終わってしまう。


工兵班の隊長が叫んだ。

「いや…いける!! 今なら抜ける!!」

蓮が即座に指示を飛ばす。

「ジャッキ維持して右側荷重逃がせ!!」

「白石、回収後即処置入れろ!!」

「言われなくてもやる!!!!」

白石が怒鳴り返すと蓮が狭い隙間へ身体を滑り込ませる。


「急げ!!!!」

工兵班がジャッキを押し込むと瓦礫が僅かに浮いた。

ミシ……ッ……

「今だ!!」

奏と律も蓮と共に一気に腕を伸ばした。

その時、蒼真の身体が僅かに揺れる。

『……ッ、ぁ……』

「神代!!」

白石が怒鳴る。

右脚の完全に圧迫されていた部位の瓦礫が動く。

出血とショック、全部が一気に来て蒼真の呼吸が乱れた。

シュー……ッ

ヒュ……ッ……

『……っ、は……』

「神代!あと少しだ!耐えろ!!」

だが蒼真の意識はまた沈み始め、視線がぼやけていた。

蓮が低く言う。


「蒼真、起きろ」

蒼真からの返事はなかった。


「お前が最後だ」


沈みかけた意識の奥でその声だけは届いてきた。


「……ぁ?」

少しだけ蒼真の視線が上がり、蓮の手が見えた。

蓮は瓦礫隙間へ手を伸ばし呟く。


「帰るぞ、クソ野郎」


その瞬間、蒼真の指先が僅かに動いた。


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