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まだ名もなき怪物達 第4部ー神代蒼真ー  作者: HANA


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第23話 全員、帰す

ゴゴゴゴゴ……

余震で崩落した大型商業施設全体が嫌な音を立てていた。


鉄骨の軋む音と遠くで鳴り続けるサイレン。

その地獄の中。

「……声、どこだ」

蒼真が低く問う。

消防レスキュー隊員が即座に瓦礫奥を指差した。

「下層西側です!」

「断続的ですが子供の声が!」

蒼真と蓮の視線が同時に向く。

崩落で潰れた通路の奥に完全閉塞されている所にわずかな隙間が開いている。

蓮が即座に周囲を見た。

「中央梁が近い、余震来たら潰れるぞ」

「分かってる」

蒼真が短く返し、瓦礫へ近づくと消防レスキュー隊員が焦ったように声を上げた。


「総統!危険です!次崩れたら――」

「だから行く」

即答する蒼真に現場の空気が止まる。

蒼真は崩落した瓦礫を見上げながら静かに言った。


「子供の声が聞こえる内は、生きてる」

その言葉に誰も何も返せなかった。

蓮が小さく息を吐く。

「……奏」

「はい!」

「俺と蒼真が入る。第一は進入口支えろ」

「……奏、お前は入れるか」

蒼真が瓦礫を見ながら奏に問い掛けた。

瓦礫の中の熱源反応には6名程度の反応がある。

万が一、全員を抱える事を考えれば搬送にもう1人は人間が欲しいとの判断だった。

「行けます」

少しだけ間を空けて、奏は返事を返した。

それは恐怖から空いた間ではなかった。

2人を帰すという、奏の覚悟の時間だった。


蒼真は奏に頷く。

その瞬間、第一の空気が変わり、奏が即座に怒鳴り指示を出す。

「桐谷!藍沢!支点補強!」

「鷹野、瀬戸!余震監視!」

「律、崩落予測地図の監視!変化あればすぐに総統に通信しろ!」

そして小さく息を吸って次の言葉を紡ぐ。

「てめぇら、ぜってぇに潰すな!!!!」

「了解!!」

第一の隊員達が返事をすると自衛隊重機部隊も動き出し、いつでも支援出来るように待機し消防レスキューが瓦礫固定の補助に入る。

警察が周囲規制を広げる。


全機関が一斉に“神代蒼真を通す為”に動き始めた。


若い自衛隊員が呆然と呟く。

「……マジか…誰も止めないのかよ……」

隣の指揮官が小さく笑った。

「あれが黎明総統だ」

その時だった。

瓦礫奥で微かに小さな声が聞こえた。


『……たすけて』


蒼真の目が鋭く細められた。

「生存確認」

蓮が即座に端末を確認する。

「反応複数、子供含む」


蒼真は迷わなかった。

グローブを強く締め直す。

「蓮、奏、行くぞ」

「……ああ」

「はいっ!!」


蓮は即座に医療バッグから小型酸素と生体反応端末を取り出す。


進入口は狭く、崩落寸前だ。

普通なら1人でも危険だ。

しかし、蓮は何も言わず蒼真の後ろへ入った。

その蓮の後へ奏も入る。


若い消防隊員が思わず叫ぶ。

「補佐官と隊長まで入るんですか!?」

蓮は振り返らない。

「1人じゃ酸素管理出来ない」

短い返答だった。

だがその本当の理由を第一は知っていた。


“蒼真を1人で行かせない”


ただそれだけ。

ゴゴゴゴゴ……

余震で鉄骨が軋む。

小さな瓦礫の崩落音がどこからか響いてくる。


それでも3人は止まらなかった。

蒼真が先頭、蓮と奏が後方支援。

まるで昔からそうだったみたいに。

当然のように。

地獄の中へ消えていく。


その背中を見ながら、律が小さく呟いた。

「……本当…俺には追いつけねぇな…」

第一隊員達が苦笑する。

「今更ですよ」


瓦礫の隙間へ身体を滑り込ませた瞬間、空気が変わった。

粉塵と近くまで迫って来たのか火災の熱を感じる。

鉄とコンクリートの臭い、そして――息苦しいほど薄い酸素。

ゴゴゴ……

余震で奥の鉄骨が軋む。

その狭い空間は大人が1人通るのが限界の空間だった。

先頭を進む蒼真が低く言う。

「……ライト」

後方の奏が即座にライトを向けた。

崩落した通路。

潰れたエスカレーター。

天井は斜めに沈み込み、鉄骨が辛うじて空間を支えている。

蓮が端末を確認する。

「熱源反応……右奥6……いや、7か」

蒼真は何も言わずにさらに奥へ進む。

ガリッ……

膝が瓦礫を擦った、その時、小さな泣き声が聞こえた。

「……っ」

奏が顔を上げて確認しようとするが蒼真は止まらない。

「声出せ」

静かだが強い低い声が瓦礫内へ響くと奥から震えた声が返ってきた。


「……た、すけ…て…」

子供の声だった。

震えた声で、しゃくり上げるのも聞こえた。

泣いている。


蓮が即座に反応する。

「生存確認」

蒼真が崩れた鉄板へ手を掛けた。

「奏、支えろ」

「はい!」

2人で鉄板を押し上げるとギギギ……嫌な音を立てながら僅かに隙間が開いた、その奥に小さな空間に子供達5人と大人2人が身を寄せ合っていた。

埃まみれの泣き腫らした顔の子供達。

大人もどうしていいか分からない表情だ。

その中心で、1人の少女がぐったりしていた。


蓮の目が鋭く変わり、オロオロする大人を一旦押しのけ少女の状態確認へと入る。


「……呼吸浅い、出血あり。先にこの子出すぞ」

蒼真も一瞬で理解し頷く。


一番危ない。

優先順位は明確だった。


蒼真は奏へ視線を向け指示を出す。

「搬送準備」

「はい!」

奏が担架代わりの搬送布を広げる。

その時だった。

奥の男の子が震えながら顔を上げた。

「……ねぇ」

蒼真が視線を向ける。


暗闇と埃のその中で。


小さなライトに照らされた黒髪の少年。

そして見慣れた、少しだけ切れ長の強い眼差し。


男の子は呆然と蒼真を見つめていた。


「……父、さん?」


空気が止まった。

奏の顔色が変わる。

蓮は動きこそ止めなかったが、その瞳は揺れていた。

「奏、この子固定」

蓮の冷静な声が空間に響く中、蒼真だけ動けなかった。


ほんの一瞬、本当に一瞬だけ。

シュー……と酸素音と共に父親の顔になる。


蒼志の瞳が揺れている。

「……父さん……っ」

助かった。

そう言い掛けた幼い声を蒼真は最後まで聞かず、視線を重症の少女へ戻す。

「……先にこの子だ」

低く、掠れた声だった。


蒼志の顔が止まる。

奏は小さく目を伏せる。


「蒼志が先だ」

蓮の低い声が空間に響くと蒼志の目が見開かれた。

「ダメだ。優先順位は変えない」

しかし、蒼真が折れる事もなかった。

1度、大きく酸素を吸い込む蒼真。

さっきから、上手く酸素が入って来てくれていない。

「この女の子優先。1名骨折疑い。他の要救助者は動けそうだ…」

空間にいる子供達と大人に視線をぐるっと向けると蒼真は静かに蓮を見る。


「全員を、帰す。それが黎明だ」


蒼真のまっすぐな視線に蓮は射抜かれた。

そして、何も言えない。

いや、言い返せなかった。

蒼真は息子が居るから、ここに来たんじゃない。

……全員を帰す為に踏み込んだ。

コイツは優先順位を絶対、変えない…。


「分かった…」

蓮が呟くと、蒼真は頷く。

そして蓮はその時、気がつく。

蒼真の高濃度酸素のボンベが破損していた事に。

進入の際に瓦礫でやられたか…..と蓮は持ってきていた予備ボンベと交換をする。

交換をしながら蓮がポツリと呟く。

「……悪ぃ」

「……いいよ」

それがボンベの事なのか、優先順位の事なのか…。

その場にいる奏にも分からなかった。

蓮は何も言わず、酸素流量をあげていた。

蒼真の呼吸は限界に近そうという判断だった。


シュー……

シュー……

蒼真は荒れた呼吸を整えた。


「奏、先頭、女の子を搬送優先しつつ退路確保。大人の方、搬送の手伝いをお願い出来ますか」

蒼真が大人達へ協力を仰ぐと頷く大人達。

「蓮、足の骨折疑いの男の子背負え。子供達誘導」

蓮も頷くと男の子を背に乗せた。

「…父さんっ!僕、この子支えるからっ!!」

声を上げたのは蒼志だった。

蒼志の上着をかけられた少女が蒼志の隣で目を腫らしていた。

頬には涙が流れた後が見える。

まだ不安で今にも泣き出しそうな少女の肩を蒼志が支える。


蒼真はただ、頷いた。


通信機の黎明独立回線から第二の隊長の声が響いた。

『上層、要救助者、全員回収終了!!無事です!!』

そして零回線から真壁の声も届く。

『零式統括機、現場付近に着陸完了。医療班、白石と他2名降機完了』


全てが、整っていた。


蒼真は大きく息を吸う。

肺に一気に酸素が回って行く。

まだ、呼吸が出来る。

体も、動く。

一度ほんの短い時間、蒼真は目を閉じ開けると全ての回線に向けて、通信を開いた。


「下層、これより脱出する!」







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