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まだ名もなき怪物達 第4部ー神代蒼真ー  作者: HANA


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第22話 怪物達の殴り込み

大型商業施設崩落現場。

瓦礫の前で奏が空を見上げる。

律も小さく息を吐いた。

聞こえてくる。

遠くから近付く重いローター音。

ドドドドドド……

奏が小さく呟く。


「……来た」


その声に第一隊員達の空気が変わった。

恐怖ではなく安堵だった。

“あの2人が来る”

それは“帰せる可能性”が来た。と言うこと。


崩落の中継をしていたマスコミが騒然とし、マットブラックへとカメラを向ける。

『待ってください!!』

『総統機ですかあれ!?』

『救助に来た絵面じゃないんですが!!』


この映像が後にネットへ流出する事態となる。

ダースベイダーのマーチを合わせた最悪に格好良すぎる映像となる。


マットブラックが瓦礫地帯上空へ到達する。

ドォォォォ……

重いローター音と共に吹き荒れる粉塵の中で現場の誰もが空を見上げていた。

黒い巨体。

異様な存在感。

その機体側面へ刻まれた小さな《REIMEIー00》。


「地上まで25mだ。本当にファストロープでいいのか」

真壁が降下方法の最終確認を蒼真と蓮に向ける。

「ああ」

「問題ない」

2人は即答だった。

「了解、零式統括機ホバリング開始する」

『本部、了解』

真壁が黎明と通信し、ホバリングの了解を得る。

マットブラックが低空静止へ入った次の瞬間。


ハッチが開かれた。

吹き荒れる風の中で黒い耐火装備にファストロープ用のハーネス装備。

高濃度酸素マスクをつけた蒼真の姿。

その姿を見た瞬間、現場の空気が変わる。


マットブラックからファストロープが投下され、蒼真が降下しようとした瞬間、奏のマットブラックと繋がる零回線から蓮の怒鳴り声が聞こえた。

『メット締めろ、ボケぇぇ!!!!』

『あ』

思わず奏は小さく吹き出してしまう。


こんな地獄みたいな場所でも、2人は2人なのだと。


吹き出した奏を律がどうしたのかと見ると

「蒼真さん、またメットで蓮さんに怒られた」

「ああ……」

律がいつものやつか。と少し笑うと、桐谷と藍沢も吹き出してしまう。

まだ若い鷹野と瀬戸は意味が分かっていない様子だ。

そんな第一の様子を他機関の隊員達は不思議そうに見つめていた。


「降下っ!!」


ヒュンと蒼真がマットブラック機内から飛び出し25mをファストロープ降下でいとも簡単に降りてくる。

そのすぐ後を蓮が高濃度酸素の予備が入れられた機材バッグを持ち、素早く降下してくる。


2人の降下を見た警察消防、自衛隊隊員達は後にマスコミにコメントを残している。


災害に殴り込みに来た怪物のようだった。と。


真壁は2人の降下を確認すると、本部へと一時帰投した。


蒼真と蓮が降下し、瓦礫の中を歩き第一に近づくと、マスコミカメラがその姿をより近くで映そうとする。

蒼真は自分に近づいてきたカメラを無言のまま、地面へ叩き落とし、鋭く冷たい視線を向けた。

蓮はまた呆れた顔をしていた。


統括室にいたはずの“黎明のトップが来た”と現場に居る全員が理解した。

だが、黎明の隊員達は誰も敬礼をしなかった。

現場に居る黎明隊員全員が、ただ短く視線を向け、即座に持ち場へ戻る。

若い自衛隊員が困惑した顔で呟いた。

「……え」

「総統、ですよね……?」

隣の消防隊員も戸惑っている。

「敬礼……しないのか……?」

自衛隊の現場指揮の隊員が後ろで小さく鼻を鳴らした。

その男は蒼真と国家会議でも面識があり、1度質問をしていた。

なぜ、黎明は現場で上官へ敬礼をしないのかと。

そして、黎明の目指す場所はどこなのかと。


「あいつらは軍じゃねぇ」

短い言葉に自衛隊員が振り返る。

自衛隊指揮官は瓦礫の先を見ながら続けた。


「黎明は元々、国家組織じゃない」

「財閥、企業、政治屋——自分達を守る為に作った私設武装組織だ」


若い隊員達の目が見開かれる。

その男の声は淡々としていた。


「要人警護、海外救出、裏仕事。国家が表で出来ねぇ事をやる組織だった。だから軍礼文化も無ぇ」


その視線の先では蒼真と蓮は既に瓦礫の前へ歩いている。


誰も敬礼しない。

誰も立ち止まらない。

短く頷き。

短く返し。

即、動く。

それだけ。


男は小さく笑う。

「生きて帰る為の組織らしい」

その言葉に消防隊員が小さく息を呑む。

「昔の黎明は、“選ばれた奴だけ守る組織”だった。だが神代天音前総統が変えた」

風の中、遠くで瓦礫を見上げる蒼真の背中を男は見つめた。

「怪物と呼ばれる世代が“全員を帰す”組織に変えた」

そして男は小さく目を細める。

「今の総統はさらに変えた。怪物を作るなってな」


休養。

交代制。

家族優先。

後遺症ケア。

分散指揮。

生体反応デバイス。


全て壊れた怪物自身が作った制度だった。


若い自衛隊員が呆然と蒼真を見る。

酸素マスクを付けたまま最前線へ立つ総統。


その姿は英雄のように見えたはずなのに、もう英雄には見えなかった。

命を削って命を帰してきた人間の姿だった。


「黎明は怪物達が——全員で帰る為に作った場所だ」


吹き荒れる粉塵の中。

蒼真は瓦礫の前で足を止めた。

崩落した大型商業施設。

中層が完全に潰れている。

上層、下層の双方に孤立した要救助者。

余震は継続しており最悪の現場だった。

シュー……

黒い酸素マスクから静かに酸素音が響く。

その姿を、現場の警察、消防、自衛隊の若手隊員達は呆然と見つめていた。


誰も声を出せない。

国家会議や過去の災害救助資料で名前しか見た事のない存在。


黎明総統 神代蒼真。


それが今、自分達と同じ瓦礫の前に立っている。

しかも最前線で。

蒼真は崩落を見上げながら静かに口を開いた。

「奏」

「はい!!」

即答した奏が瓦礫地図を開く。

律も隣でタブレットを操作しながら状況共有へ入る。

「上層南側、親子含む孤立要救助者6名」

「下層西側、圧迫空間内に複数反応」

「生体反応、徐々に低下してます」

短く頷く蒼真のその視線は既に瓦礫全体を見ていた。


どこが危険か。

どこが落ちるか。

どこが死ぬか。

全部。

蓮が横から小さく呟く。

「中央梁、次の余震で落ちる」

「ああ」

蓮と蒼真のやり取りに周囲の若手達が固まる。

会話が短すぎる。

だが2人の中では既に共有が終わっていた。

蒼真が瓦礫の奥を見ながら低く言う。

「空自と消防航空レスキューで上層要救助者、救助。第二が支援入れ」

「消防の地上レスキュー、西側空間確保、進入口の支点確保と救助者搬送に備えろ」

「警察は半径50m立入制限かけろ」

「陸自は重機支援待機」

「下層、黎明入るぞ」

矢継ぎ早に飛ぶ指示だが混乱はない。

誰もが即座に動き出していく。

若い自衛隊員が指示に従い動き出し思わず呟く。

「……速ぇ」

その隣で先程の指揮官が小さく笑った。

「怪物だからな」

その瞬間。


ゴゴゴゴゴ……

再びの余震。

崩落音と共に上層瓦礫が嫌な音を立てる。

周囲が息を呑む中、蒼真は動かなかった。

瓦礫を睨み、崩落方向を読む。

そして低く呟く。

「……3秒後、右落ちる」

直後。

ガァァァンッ!!

本当に右側瓦礫が崩落した。

若い消防隊員が絶句する。

「は……?」

蒼真は振り返りもしない。

「今の内に左通路使え」

その一言で消防隊員達が一斉に走った。

蓮が小さく息を吐く。

「相変わらず勘が気持ち悪い」

「うるせぇ」

シュー……

酸素音。

だが呼吸はまだ浅い。

ヘリ移動に降下と体への負担は大きかった。

蓮は横目で蒼真の呼吸と顔色を確認し端末も確認する。

SpO2 93。

まだ危険域、苦しいはずの蒼真はそれでも止まらない。

この場の全員を帰すまで止まることはないだろう。


その時。

「総統!!」

消防レスキューと共に進入口の瓦礫の支点を作る隊員の叫びが聞こえた。

「子供の声がします!!」

空気が変わり蒼真の視線が一瞬で鋭くなった。


だが。

まだ。

この時の蒼真は知らない。

その瓦礫の奥に。


自分の息子が居る事を。






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