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まだ名もなき怪物達 第4部ー神代蒼真ー  作者: HANA


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第1話 総統室

廊下は静かだった。

さっきまでの拍手が嘘みたいに消えている。

黒の礼装のまま歩く蒼真と蓮の足音だけが響く。


何も言わず、ただ並んで歩く。

前から来た幹部と一瞬だけ目が合ったが逸らされる視線。

立ち止まる事はなく、そのまますれ違う。


「……歓迎されてねぇな」

蒼真が小さく言うと蓮は肩をすくめる。

「最初から期待すんな」

「元々、期待してない」

蒼真が言い切ると蓮はふっと笑った。


2人はひとつの扉の前で立ち止まる。


「総統室」


蒼真が一瞬だけその札へ視線を送った。




机の上に、一枚の書類が置かれていた。


任命書


蒼真は立ったままその書類を見つめていた。

部屋の中の全員の視線だけが鋭い。

しばらく誰も喋らず時計の音だけが落ちる。


「決まった」


天音が口を開いた。

「断るなら、今だ。まだ戻れる」

静かに蒼真を試すかのように言う。


「戻る場所は、もうないだろ」

蒼真は小さく言い切った。

天音の目が、わずかに細くなる。

「……そうか」

蒼真が書類を持ち上げ目を通す。

内容は分かっているけれど読み飛ばす事なく最後までその書類の重みを感じ取る。

蒼真は何も言わず机の上に置かれたペンを手に取り書類の上に走らせた。


神代蒼真



「補佐官は蓮を付ける」

天音が決定事項のように告げた。

「……勝手に決めたのか」

「異論があるのか」

「……ない」

天音が鼻で笑った。



「なぁ、この椅子、似合ってるか?」

「全然」

蒼真は部屋に入ると椅子に座って背もたれに体を預け、その感触を確かめた。

息を吐いた胸が、少し痛む。

痛みを無視して机の上の書類に手を伸ばし、めくっていく。

一枚、二枚、三枚…。

蒼真の書類を数える手が止まり、椅子に背中を預けるようにした。

「……多すぎ」

蓮は棚に置かれている資料ファイルを手に取りながら呟いた。

「総統だからな」

「辞めるか」

「1日で?」

蓮の問いかけに蒼真が笑う。

「記録更新だな」


蒼真の笑みはすぐに消え、また書類に目を通し始めた時、ノックもなく扉が開いた。

小さな足音と共に静かな総統室に響く、元気な声。

「パパー!」

蒼志と後ろから悠真が少し遅れて入ってきた。

麗華は困った表情で華凛を抱いて入ってきた。

「……ここは仕事場だぞ」

蓮がため息混じりに蒼志に声を掛けた。

蒼志はそんな蓮に一瞬視線を向けたが無視して机の前までやってきた。

「まだ終わんないの?」

蒼志の問い掛けに蒼真は顔を上げた。

少し柔らかな表情だ。

「終わらない」

悠真が首をかしげ残念そうな顔をした。

「じゃあ帰れない?」

蒼真が少しだけ間を置いた。

「帰るよ」

「こんなにあるのに?」

蒼志が書類の束に目を向けた。

「やるだけだ」

蒼真は蒼志と悠真に呟いた。

「家でママと待っててな」

そういうと椅子から立ち上がり、2人の前に来ると頭にぽんっと手を置き、麗華へと向いた。

「長居はしないから」

麗華がそういうと蒼真は頷いて、華凛の頭を優しく撫でた。

「よし…じゃあ子供たち頼んだ」

蒼真がそういうと麗華は蒼志と悠真を部屋の外へと連れ出した。

「パパ、待ってるね!」

悠真が大きな声で言うと蒼志と笑顔で手を振ってくれたのに、蒼真は手を振り返し答えた。


扉が閉まると蓮がため息を吐く。

「いいのか」

「何が」

「公私混同」

蒼真は机に戻り書類に視線を落としたまま言う。

「今日だけだ」


就任初日の今日だけ。

子供達に父親がここに居ることを教えたかった。



外は太陽が完全に沈み暗くなっている。

総統室の部屋の灯りだけが残っていた。

最後の1枚の書類に蒼真の手が止まった。

「……これ」

明日の予定の確認をしていた蓮が顔を上げる。

「どうした」

蒼真は紙を机に置くと指で軽く叩く。

「この遠征現場の出動数、増えすぎてる」

「人員足りてねぇな」

蓮が近づき一緒に書類を覗き込む。

「……休養、回ってないな」

蒼真の目が少しだけ細くなる。

「……壊す気か」

この遠征出動の承認者の名前を蒼真は確認した。

「なぁこの承認者名、さっきも若手の報告書に名前あったやつだ…パワハラの報告が上がってんだよ」

「パワハラか…」

根性論、現場叩き上げの時代の幹部はまだ組織の中枢に多くいる。

「……蓮、明日の朝一で資料室抑えろ。それから」

「パワハラの報告書上げた隊員のヒアリングな」

蒼真が言い切る前に蓮が被せてきた。

蒼真はふんっと鼻で笑うと、使える補佐官様だな。と軽口を叩いた。


「よし…じゃあ今日は帰るわ」

蒼真は椅子から立ち上がり帰り支度を始めた。

「待て、まだ第一が帰還してねぇ。帰還報告待ちだ」

「なぁ、帰還報告辞めようぜ。ここに来る時間あんなら真っ直ぐ部隊室に戻らせて、休める時に休ませねぇと」

どうせ報告書も上がってくる。

総統直属部隊として、確かに帰還報告は必要かもしれない。けれど、それ以上に第一、第二特務遊撃隊は少数精鋭、休みが回しにくい。加えて出動率も相変わらず高い。

「それは分かる。けど、帰還報告は辞めない」

「なんで」

「今の第一、第二にとって、お前と俺は象徴みたいなもんだからだよ」


英雄になったつもりもない。

だけど、誰かが第一の隊長、副隊長伝説!だなんて騒いだ。


黎明 第一特務遊撃隊の象徴。

壊れて立ち上がった2人。


「その象徴、ぶっ壊してぇ」

「まぁ、そうだな」


壊れさせたくない。

もう誰も。


ーコンコン。


ノックと共に第一特務遊撃隊が中へ入ってくる。

隊長を引き継いだのは奏。

「第一、6名全員帰還しました」

なんか蒼真さんがそこに居るのは新鮮ですね。と笑う。

副隊長に律。暴走しがちな奏を支えてくれている。

他に桐谷、藍沢、鷹野、瀬戸の4名、20代前半から後半の若手と中堅だ。


新しいチーム。


15年間、自分が背負い続けた場所が後輩達に継承された。


蒼真はその光景を、何も言わずに見ていた。






3部で産まれた赤ちゃんは蒼志

その後、年子の悠真

産まれたばかりの末っ子で女の子華凛

蒼真と麗華は3人の子宝に恵まれました。


蒼志と華凛は黒髪

悠真は銀髪で産まれました。

蒼真の遺伝でしょうか……?


なお、蒼真は華凛ちゃんにデレデレです。

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