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まだ名もなき怪物達 第4部ー神代蒼真ー  作者: HANA


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19/32

第18話 全国緊急中継

未だ余震が続き、増え続ける孤立区域。

鳴り止まない救助要請。

それでも。

『こちら黎明』

その声だけは全国へ届き続けていた。



⸻大型モニターには夜通し更新され続けた被害情報が映し出されている。

赤く染まる地図、警告表示、生存反応、崩落予測。

その中心に神代蒼真は立っていた。


長時間稼働による疲労はもう隠し切れていなかった。

椅子に座っては立ち上がりを繰り返しながら指揮を続けていた。

それでも蒼真の視線だけは止まらない。


「東北ブロック、再余震発生!!」

「海自より海上孤立者搬送開始!!」

「北陸延焼区域、縮小!!」

怒号が飛び交う統括室は止まらない。

その時だった。

国家回線が点灯し空気が変わった。


葛城が即座に応答へ入る。

深く息を吐いてから蒼真へ声をかけた。

「……総統」

蒼真は視線を地図から外さない。

「なんだ」

「国が会見を要求している」

近くの数人の隊員が顔を上げた蒼真は動かない。

「断れ」

即答だった。

葛城が頭を押さえる。

「そう言うと思ったよ」

だが葛城は続けた。

「通信障害、デマ、避難パニック……全部、限界来てる」

「今、“まだ指揮が生きてる”って国民へ見せる必要があるそうだ」

シュー……

静かな酸素音。

蒼真は数秒黙ったまま赤く染まる地図を見つめていた。

その横で蓮が低い声で言う。

「ここでやれ」

蒼真の視線が僅かに動く。

「……は?」

「統括室から中継を繋がせろ」

蓮はモニター群へ視線を向けたまま続けた。

「その方がロスが最小で済む」

その瞬間、葛城が小さく息を飲む。


確かにそうだ。

今、必要なのは形式だけの会見じゃない。


“まだこの国は動いている”


その事実だった。

蒼真は数秒黙ったまま統括室を見渡した。

怒号と無線。

走り回る隊員。

赤く染まるモニターの地図。

そして。

シュー……

自分の酸素音。

隠せない。

だけど隠してる場合じゃない。


蒼真は小さく息を吐いた。

「……三分。三分だけ繋げ」

その返事と同時に統括室が一気に動き出す。

「国家中継回線接続!!」

「映像ライン確保!!」

「音声チェック急げ!!」

オペレーター達の確認が走り出す。

だが誰も統括を止めない。

指揮は続行されたままだ。

数分後、統括室一角へカメラが設置される。

その後ろでは今も無線と怒号が飛び交っていた。


「第一、再崩落区域更新!!」

「消防、東側延焼拡大!!」

「空自、孤立地区空撮更新!!」

カメラスタッフですら空気に飲まれている。

そんな中、蒼真は静かに立っていた。


本震発生時と同じ黒いスーツ姿。

酸素マスクと胸部固定ユニット。

流量制御ライン。

災害の中心。

国家統括の中心。


それでも神代蒼真は立つ。

シュー……

静かな酸素音だけを響かせながら。


全国中継ランプが赤く点灯した。


『——全国緊急中継です』

その声が流れた瞬間。

国中の避難所。

車内ラジオ。

スマホ。

残された通信端末へ映像が切り替わる。


そこに映ったのは会見室ではなかった。

怒号と無線が飛び交い赤く染まる大型モニターの前を走り回る隊員達。

そしてその中心に立つ、銀髪の男。

シュー……

静かな酸素音が全国へ流れた。

避難所の空気が止まる。

神代家の居間も静まり返った。

華凛と悠真が小さくテレビを見上げる。

澪の手が震える。

天音だけが静かに目を細めていた。


統括室でカメラが向けられる中でも、蒼真はモニターから完全には視線を外さない。

その横では今も怒号が飛び交っている。

「東側延焼区域更新!!」

「第一より生存者発見報告!!」

「陸自重機班、現場到着!!」

会見の為に何一つ止まっていなかった。


蒼真がゆっくり口を開く。

『……現在、黎明が災害統括指揮を執っています』

その低い声はマスク越しなのに不思議なほど真っ直ぐ届く。

『警察、消防、自衛隊、医療機関との連携を開始しています』

シュー……

静かな酸素音。

その間にも蒼真の背後では隊員達が走り続ける。

『避難指示区域の方は、必ず自治体及び警察の指示に従って下さい』

『余震が続いています』

『単独行動は避けて下さい』

その声は異様なほど落ち着いていた。

だが長時間稼働による疲労は隠し切れていない。

呼吸が浅く、少し顔色が悪い。


それでも蒼真は止まらない。


その時だった。

「総統!!」

統括室へ怒号が飛ぶ。

「東側火災区域、風向き変化!!」

蒼真の視線が即座に横へ動く。

「現在風速、毎秒八!!」

蒼真は即座に判断する。

『失礼』

国民へ一言だけ落とすとそのまま横の回線へ向き直った。

「消防へ伝達」

「東側は延焼遮断優先」

「陸自重機班を追加投入」

「警察は避難区域を二百拡張」

『了解!!』

怒号、無線、走る隊員。

そのやり取り全部が全国へ流れていく。


避難所で見ていた人々は息を飲んだ。

この人は“喋る為” に立ってるんじゃない。

“動かす為”に立っている。


蒼真は再びカメラへ向き直る。

『……必ず、助けに行きます』


その瞬間。

神代家の居間で澪の目から涙が零れ落ちた。

麗華が澪の肩を抱いていた。


蒼真は止まらない。

全国へ向け。

真っ直ぐ前を見据えたまま静かに言い切った。


『——全員、帰します』


シュー……

酸素音だけを残しながら。

国中が神代蒼真を見ていた。




神代家の灯りだけは消えていなかった。

停電区域の中でそこだけが小さく明かりを残している。

最初は近所の人間も遠巻きに見ているだけだった。

しかし時間が経つにつれ、少しずつ人が集まり始める。

「……すみません、水……」

「子供が熱出してて……」

「携帯だけでも充電を……」

不安そうな声と疲れ切った顔。

避難所へ辿り着けなかった人達だった。

麗華は玄関を開けると迷わず頷いた。

「どうぞ、中へ」

その声に後ろから澪がタオルを持ってくる。

「寒かったでしょう?これ使って」

「ありがとうございます……」

避難してきた女性が涙ぐむ。

その横を悠真が避難者を誘導していく。

「こっち空いてるよ!」

神代家のリビングには既に数人の近隣住民が集まっていた。

子供。

高齢者。

毛布に包まる人。

皆、疲弊していた。


それでもここへ来ると少しだけ空気が違った。

灯りが灯り、温かいお湯がある。

人が居る。

“終わってない”

そう思えた。


その時だった。

ガタッ。重い音と共に大量の水のケースが玄関へ置かれる。

「……っと」

鷹宮だった。

近所の人が一斉に固まる。

デカい。

怖い。

でも本人は普通に息を吐きながら言った。


「追加持って来たぞ」

ニカッ。といつものように笑う鷹宮。

リビング手前で橘が避難してきた人達の人数を確認している。

2人は神代本邸にいない天音と澪を追い掛け、蒼真の自宅へと辿り着いていた。

「高齢者優先で奥に。…毛布足りねぇな……」

完全に避難所運営だった。


麗華の父が呆然と呟く。

「……なんなんだ、この人達……」

一夜明けて、麗華と孫を心配した麗華の父も蒼真の自宅までやって来ていた。

正しい反応だった。


すぐに駆けつけた天音達4人の動きは被災者側ではなかった。

その中心に居るのは、元総統 神代天音。

これほどの安心感があるだろうか。


普通に子供へおにぎりを配り、微笑んでいる。

怖いくらい自然な動きだった。

華凛はその横で避難してきた小さい子へ毛布を渡していた。

「どうぞ」

「……ありがとう」

その姿を見て澪が小さく笑う。

「優しい子ね」

だが、その穏やかな空気の中でも。

リビングのテレビだけはずっとニュース中継を流し続けていた。

時折、中継される黎明、統括室の映像。

シュー……静かな酸素音と怒号と飛び交う無線。


そこにはまだ帰れない男が居る。

麗華は避難者へお茶を渡しながら一瞬だけ画面へ視線を向けた。


昨日の朝、着て行ったスーツ姿のまま。

酸素マスクをつけ立ち続ける蒼真。

麗華はそんな蒼真の姿を見て小さく笑う。

「……ちゃんと帰って来なさいよ」

その声は誰にも聞こえないほど小さかった。


神代家へ集まり始めた人達はまだ知らない。

この家が“怪物達が命を削って守ろうとしている帰る場所”そのものだという事を。


避難者の一人がテレビを見つめながら小さく呟く。

「……旦那さん、凄いわ……」

リビングの空気が少し静かになる。

テレビの向こうでは酸素音を響かせながら、蒼真が全国へ指示を飛ばし続けていた。

時折、中継を切れ!映像で回線の負荷になってる!と蒼真が叫んでいる。


誰が見ても異常だった。

国家を動かしている。

命を背負っている。

まるで人間じゃないみたいに。

その言葉を聞いた麗華は少しだけ困ったように笑った。

「……凄いんじゃないんです」

避難者が顔を上げる。

麗華はテレビを見つめたまま、静かに続けた。

「あの人……ただ、帰したいだけなんです」


その瞬間、天音が小さく目を伏せた。

橘も鷹宮も何も言わない。

だってそれが、神代蒼真だから。


名誉も権力も欲しい訳でもない。

英雄願望でもない。

ただ“帰したい”だけ。

そのために自分を削り続けている。


麗華は小さく笑ったが、その目は少しだけ寂しそうだった。

「……だから困るんですけどね」

その瞬間リビングの空気が少しだけ柔らかくなった。

避難してきた人達も初めて少し笑った。


テレビの向こうでは今も怒号と無線が飛び交っていたが、ホンットに中継切れぇぇ!と今にも暴れ出しそうな蒼真を蓮が押さえつけ、テレビクルーが慌てているようだ。

数秒して、テレビが黎明中継から各地の被害状況映像に切り替わった。

そんなやり取りに澪や天音も少し笑ってしまった。


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