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まだ名もなき怪物達 第4部ー神代蒼真ー  作者: HANA


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第16話 国家の黎明

夜は赤色灯だけが、暗闇を切り裂くように街を照らしていた。

停電、火災、崩落。

鳴り止まないサイレン。

泣き叫ぶ子供、動かない信号。

途切れた通信、倒壊した高速道路。


そして

「……繋がった!!」

唯一、生き残った回線があった。


国家特殊救助組織 黎明。

黎明本部地下二階、中央指揮統括室。

大型モニターには全国各地の被害映像が映し出され続けている。

崩落、延焼区域、孤立地区。

数字が増えるたび、空気が重くなる。

それでも統括室だけは止まらない。


「東北ブロック、通信回復!!」

「九州、避難所支援要請!!」

「関西圏、広域火災拡大中!!」

オペレーター達の声が飛び交う。

その中心の赤く染まる地図を前に、蒼真は立っていた。

シュー……

静かな酸素音が統括室へ響く。

誰も、その音に触れない。

触れられない。

高濃度酸素マスク。

胸部固定ユニット。

流量制御ライン。

全部“現場装備”のはずだった。

なのに今、それを着けている場所は安全な地下指揮室だ。


「各県の市町村、自家発電のない医療施設に黎明と自衛隊の大型発電機を輸送しろ」


それは、停電で真っ先に電気を必要とする生命維持装置。

人工呼吸器。


その指示を聞いた黎明の若手隊員達の喉が静かに鳴る。

それを必要とする自分と同じ人を停電ごときで死なせはしない。とその目が語っている。


全員、理解してしまっていた。

蒼真が酸素マスクを着用してから外そうとしないことを。


この人はもう普通に呼吸すら出来ない。

それでも立っている。

それでも 全国を動かしている。


シュー……

蒼真は大型モニターから視線を外さない。

その横で蓮が慣れた手つきで酸素流量を調整する。

迷いが無く、確認も無い。

自然すぎる動き。

その事実が さらに周囲を静かに震えさせていた。


“いつから”

“隠してたのか”

誰も聞けない。

聞いてはいけない気がした。


その時。

『第一、現場入ります!!』

奏の声が統括室へ響く。

蒼真の視線が第一が映し出されるモニター画面に止まる。

シュー……

静かに統括室に響く酸素音。


第一は超高難度救助区域担当。

未だ余震が続いている中での救助となる。

再崩落の危険が高い場所という事だ。

それでも、そこに居る人を帰す為に。


「奏」

低い声が奏の通信機へ響いた。

奏が即座に背筋を伸ばすのがモニターから見えた。

『はい!!』

「レスキューで止まった場所をこじ開けろ」

『……了解!!』

返事をした瞬間のモニターに映る奏の目は「全員、帰します」と蒼真に訴えていた。

モニター画面を見つめる蒼真の眼を見た葛城は背筋が凍りつくような感覚だった。


ー怖い。

そのはずなのに目を離せない。

立っているだけで周囲を圧倒している。

まるで“人間じゃない何か”になってしまったような。




大規模停電の中で1棟だけ灯りの灯る家があった。

だが、その灯りは小さく絞られていた。

それは蒼真の自宅だった。

「……TVは…ダメね。悠真、ラジオはどう?」

「……ラジオは大丈夫みたいだよ!でも、途切れ途切れで…」

「それで大丈夫、ありがとうね」

麗華はようやく落ち着いてきた華凛を抱きながらラジオに耳を傾けた。

ノイズの中から、避難情報や救助活動が聞こえてくる。

「…お父さん…蒼志、大丈夫かな…」

蒼志は友達と出掛けていた。

夕飯前にはちゃんと帰る。と言っていたが、そのタイミングでの本震。

未だスマホでの連絡は取れず、無事かどうかの確認も取れていない状況だった。

蒼真は自宅から見える黎明本部の灯りが機能している所を見るに救助活動の指揮に入って居るのだろうと麗華は分かっていた。

「お父さんは大丈夫よ…蒼志もきっと大丈夫。お腹空いたでしょ?ちょっと食べなさい」

「……うん」

その時、玄関のドアがドンドンドンッ。と強く叩かれた。

俯いていた悠真が顔をあげた。

麗華の腕の中の華凛も表情を明るくした。

「パパッ!!」

蒼真が帰って来た。と子供達は思い、玄関へ走り出していた。

追い掛け、麗華が玄関の扉を開くと、そこには天音と澪の姿があった。

「ぇ……お義父さん?」

「孫は無事か?!」

息を切らして天音が叫ぶと澪が落ち着いて。と天音の肩に手を置いた。

「麗華ちゃん、大丈夫?」

「ぁ……はい…」

こんな中、駆けつけた2人に麗華は目を丸くしていた。

ホコリ塗れで、所々破けている服…。

どれだけ急いで来てくれたのかが一目で分かった。

「どうやって…」

「規制線が張られてたからな車がダメだったから、走って来たよ」

微笑む天音と澪の額には汗が滲んでいた。

「おじいちゃん…」

華凛が天音に飛びつくと天音は目を細めた。

「パパじゃなくてごめんね、華凛ちゃん。……悠真も……あれ、蒼志は?」

「今日…友達と出掛けてて…まだ連絡も取れなくて…」

麗華が不安そうに伝えると天音は失礼するよ。と蒼真の書斎へと向かう。

「蒼真が繋げた回線は生きてるか?」

天音のその言葉に麗華はハッとする。


蒼真が…万が一の時に使えと引いた回線…。

そこまでしなくても、と麗華が苦笑いしてしまった…黎明本部、総統室直通神代家専用通信回線。


それは、神代家と蒼真の総統室を繋ぐ回線。


天音は蒼真の書斎に設置された回線スイッチを切り替え、自身のスマホの確認をする。

「……よし、回線繋がったな。蒼志に連絡してみなさい。あの子のスマホにも繋げてるだろ、蒼真の事だから」

天音の言葉に麗華はすぐにスマホの画面を開き、蒼志に着信を試みる。


(……お願い…繋がって…)


祈りを込め、両手でスマホを押さえていた。

ープルル…。

何コール目かのあと、おかけになった電話番号は…と聞こえてくる電子音声。

一瞬、麗華の目の前が真っ暗になりかけた、その時だった。

『母さん!』

蒼志の声がスマホから聞こえる。

「……蒼志…無事なのね?!怪我してない?!」

『…大丈夫だよ、怪我もしてない』

「……良かった…。周りの大人の言うこと聞いてね、大丈夫よね?」

『うん、大丈夫だよ。……ちゃんと帰るね』

「……うん」

通話を切ると、麗華は天音と澪に蒼志の無事を伝え、再び電話を掛けた。



黎明本部地下二階、中央指揮統括室の通信回線の総統室経由の回線が点灯する。

少し遅れて、蓮のスマホに着信が入った。

「……はい、わかりました。伝えます」

要件だけを聞くと蓮は電話をすぐに切り、蒼真の近くへ寄る。

蒼真にしか聞こえない声で

「自宅は無事、家族も無事、だそうだ。ついでに天音さんと澪さんも居るらしい」

と伝えると、一瞬だけ蒼真の肩の力が抜けた。

「……そうか」

蓮にだけ聞こえる声で蒼真は返事をする。

短い声、それだけだった。

だが蓮だけは分かった。

今、 この男は一瞬だけ“総統”を降りた。


夫に。

父親に。

戻ったのだと。

だが次の瞬間。


「総統!!東側延焼区域拡大!!」

「第二より崩落予測更新!!」

怒号が統括室へ飛び交い、蒼真の目が即座に切り替わる。

「東側は消防優先」

「陸自重機班を回せ」

「第二、再崩落予測を第一へ共有」

低い声が統括室へ響く。

シュー……

酸素音だけを残しながら。

神代蒼真は再び、国家の怪物へ戻っていた。



夜明け前それでも、日本はまだ暗かった。

停電区域、延焼、余震。

鳴り止まないサイレン、崩落現場。

だが

『こちら黎明』

その声だけは国中に届き続けていた。



黎明本部地下二階、中央指揮統括室。

「警察庁より広域避難誘導ルート更新!!」

「海自より孤立地域海上搬送準備完了!!」

「空自、広域空撮データ共有開始!!」

「陸自重機部隊、東北ブロック投入完了!!」

怒号のような報告が飛び交う。

だがそれは混乱ではなく“統括”だった。


国。

警察。

消防。

自衛隊。

医療。

その全てが黎明の指揮で動き始めている。

つまり、この国は神代蒼真を中心に動いている。


シュー……

静かな酸素音が統括室へ響く。

蒼真は赤く染まる地図を見つめたまま口を開く。

「第二」

『はい』

「再崩落危険区域を更新」

「消防へ即共有しろ」

『了解』

「第一」

『こちら第一!!』

奏の声が響くその後ろから騒音と瓦礫音。

現場の空気がそのまま聞こえてくる。

「生存率の高い区域を優先しろ。無理に潜るな」

数秒の間が空き、通信の向こうで奏が笑った気配がした。

『……誰に言ってるんですか』

統括室の空気が僅かに緩んだ。

だが蒼真の表情は緩まない。

「お前ら、第一だ」

即答だった。

『了解!!』

通信が切れたその横で葛城が静かに息を吐く。

「……本当に回り始めやがった」

誰も返さなかった。

だが統括室の全員が同じ事を思っていた。


国家機能が崩れた夜。

日本を動かしていたのは 黎明だった。





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