↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まだ名もなき怪物達 第4部ー神代蒼真ー  作者: HANA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/32

第14話 静寂の先に

薄曇りの空だった。

群発地震は、ここ数週間で目に見えて回数を減らしている。

ニュースも少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。

“収束傾向”

そんな言葉が、朝の情報番組でも流れ始めている。

だが黎明だけは、まだ空気が違っていた。



国家危機対策合同会議。

警察。

消防。

自衛隊。

各省庁。

大型モニターが並ぶ会議室には、全国の被害推移データが映し出されている。

「観測上も活動回数は減少傾向です」

内閣府の担当官が資料を切り替える。

「このまま推移すれば、大規模災害対応レベルの縮小も——」

その言葉を、誰も遮らなかった。

だが、黎明側だけ、反応が無い。

長机の中央に座る黒い公務スーツ姿の蒼真が静かに資料へ目を落としていた。


表情は変わらない。

けれど近くで見れば分かる、その呼吸は浅い。


長時間会議の前に短時間だけ高濃度酸素を使用して来た事を知っているのは、隣に居る蓮と葛城だけだった。

蓮は腕を組んだまま、無言でモニターを見ている。

葛城も黙ったままだった。

その空気に、国側の若い官僚が少し困惑したように視線を泳がせる。

「……神代総統?」

蒼真は数秒遅れて顔を上げた。

「まだ浅い」

低い声に会議室が静まりかえる。

「……浅い、とは?」

蒼真は映し出された震源分布を見たまま答える。

「減ったんじゃない。動いてるだけだ」

空気が変わった。

警察側の幹部が僅かに眉を寄せる。

「ですが、観測データでは——」

「だから浅い」

今度は蓮だった。

静かな声なのに、妙に重い。

「歪みが抜けてない」

モニターに表示された地下断層図。

蓮の視線は一点を見ていた。

「ここ数日の沈静化は逆に不自然だ」

会議室の空気が少しだけ張る。警察消防、自衛隊は「確かに…」とざわつき出す。

だが国側の人間だけが、まだ“収束”を見ている。

けれど黎明だけは違っていた。

“止まる前”を見ている。

蒼真は小さく息を吐く。

その瞬間だけ喉奥で僅かに呼吸が乱れた。

「……こほッ…」

小さな、本当に小さな咳をした蒼真の様子に蓮の視線が一瞬だけ動く。

だが蒼真は何事も無かったかのように資料を閉じ口を開く。

「警戒レベルは下げない」

短く、断定する。

「黎明は現行体制を維持する」

その言葉に、葛城も静かに頷いた。


誰もまだ知らない。

この静けさの先に。

“本震”が待っている事を。



黎明本部、総統室。


「国の危機感はどうなってんだよ」

総統室へ入ると蒼真は蓮と葛城へ吐き捨てた。

会議中の温度差に蒼真がイライラしながら帰ってきたことは2人も車内で気が付いていた。

蒼真は雑に荷物を置くと椅子に腰掛け、酸素吸入をする。

何度か吸い込み、呼吸を落ち着かせていく。


「まぁでも、本震発生時の救助初動権限を取ってきたんだから良かっただろ」

葛城が肩をすくめて言う。

「うちの第三権限までの流れの理解も得られたしな」

蓮がコーヒーをいれながら呟く。

蒼真は深いため息をついた。

ー救助初動権限。

今回の会議で今後、全ての災害発生時の初動発令が国から黎明に権限が移譲された。

何度もかけあってきた案件だったが、それがようやく承認されたのだ。

さらに黎明内部の権限移行。

第一権限者、蒼真。

第二権限者、蓮。

第三権限者、葛城。

3人のうち誰かに何かが起きたとしても、黎明内部が止まらないことを国に示唆するためだ。


「まぁ…初動権限とれたのはデカいか…」

国からの通達で各機関が動くのでは遅い。

助けられる命も取りこぼす可能性がある。と蒼真の考えから勝ち取った権限だった。



合同会議の資料をまとめ終える頃には外は暗くなっていた。

「蓮、飯いこ」

「…珍しいな」

「今日は大将の飯が食いたいだけだ」

いつも麗華が夕食を作って待っているのでよほどの事がなければ蒼真は帰宅する。

蓮は今日は会議でイライラしていたし、大将が恋しくなったか。と思っていた。

大将と呼ぶその人の店は第一隊員時代からの行きつけの定食屋だ。

“大将”なんて呼んでいるけれど、蒼真や蓮とそう年は離れてはいない。


「まぁ、良いけど…車回してくるから、酸素でも吸ってろ」

そういうと蓮は総統室から出ていく。

「……やっぱ忘れてる」

蒼真はひとり呟くと総統室に備えられている酸素キットで酸素吸入をする。

部屋から出る前はいつもこうだ。

歩行時に息が切れることも出てきてしまったため、歩行前は必ず吸入時間をとる。

車の運転も危険だと1年程前から禁止されてしまい毎日、蓮が送り迎えをしてくれている。


確実に奪われ、下がっていく自分の限界値。

「……ダサいな、神代蒼真」

目を閉じながら、蒼真は1人自分の名前を呟いた。

まるで自分を鼓舞するかのように。


まだだ。

まだ崩れるわけにはいかない。

立ち続けろ、進め。




「いらっしゃーい!」

暖簾をくぐると大将の陽気な声が2人を迎えてくれた。

そして、聞きなれた男たちの声も耳に届く。

「遅い」

「この仕事人間どもー」

「お疲れ様です」

「蒼真さぁぁぁん!!!蓮さーん!!!」

「奏、うるせぇ」

いつもの座敷席に葛城、白石、雨宮、奏、律がすでにできあがった状態で座っていた。

その時、ようやく蓮が思い出したように呟いた。

「……あ、今日か。……俺の誕生日」

数秒、静かになる座敷席の面々。

蓮はコートを脱ぎながら呆れたようにため息をついた。

「別に祝う歳じゃねぇよ」

蒼真もコートを脱ぎ、少しだけ目を細める。

「独り身放置すると寂しくて死ぬだろ」

「誰のせいで忙しいと思ってんだ」

「俺」

蒼真が即答すると全員が揃って吹き出す。

「認めるんかいっ」


まだ誰も、“その日”が来る事を知らない。

だから今だけは。

怪物達は、ほんの少しだけ昔に戻る。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。