第二十話 大好きな君と(4)
映画館を出ると、カナデが「次は私の番だね」と言って、手を引いてお洒落なカフェに連れてきてくれた。ファンシーな雰囲気の店内はカップルや女性客でいっぱいで、胸の奥が少しきゅっとする。――こういう可愛いお店、カナデは本当は得意じゃないはずなのに。
「ネットで調べて、ミナが好きそうだなって思ったから……」
カナデは居心地悪そうにメニューを眺め、苦笑していた。メニューに載った写真は、可愛いスイーツやドリンクばかり。わたしの好みにぴったりで、無理して連れてきてくれたのが分かる。身体がじんわり熱くなって、思わず笑みが漏れてしまった。ウエイトレスのお姉さんを呼んで、二人ともパンケーキとカフェラテを注文した。
「……そういえばミナって、コーヒー飲めたんだっけ」
「えっ。カナデが飲んでて、かっこいいなって思って真似したら……飲めるようになったの」
「何それ、私の真似してくれてたんだ。ミナってほんと可愛いね」
雑談を交わしながら待っていると、動物のラテアートが描かれたカフェラテが運ばれてくる。あまりの可愛さにマグカップを前に震えていると、カナデは「すごいね」と一言言って、容赦なく自分のカフェラテを飲み始めた。カナデって、本当に可愛いものに興味ないんだなあとびっくりする。もう少し、余韻とか情緒とか……ないのだろうか。そういうところも、カナデらしいと言えばカナデらしいんだけど。
それぞれが頼んだパンケーキを半分こし、一緒に食べる。こういう行為なら、友達っぽくてちょうどいい。カナデは「めちゃくちゃ甘い。食べきれるかな……」と言いつつも、パンケーキを全て平らげたし、何ならわたしがギブアップした分も食べてくれた。その細い身体の一体どこに吸収されているんだろうと、カナデのお腹を盗み見る。線の細い身体を羨ましいなと思いつつ、わたしは自分の贅肉を摘まむしかなかった。
パンケーキでお腹がいっぱいになり、今日の晩御飯はいらないなと思いながら店を出る。夕方のまだ早い時間なのに、空はすっかり暗くなっていた。早すぎる夜のムードに驚きながら、わたしはカナデのコートの裾をそっと摘む。友達同士なら、この後どこに行くんだろう。普通の友達は、こんなふうにドキドキなんかしないのに。
「……もう一か所、連れて行ってもいい?」
カナデの手が伸びてきて、有無を言わさず引っ張られる。そのままカナデのコートのポケットの中に、わたしの手が包まれた。
「えっ? か、カナデ……!」
店内の温もりを僅かに残したコートの中で、カナデの手がわたしの手を握っている。しかも――いつもの握り方じゃない。五本の指の間にカナデの指がしっかりと入り、逃げないようにホールドされている。あまりのことに心臓が暴れ、身体の芯からどくどくと熱が伝わってくる。
「ミナ、真っ赤じゃん。大丈夫?」
「大丈夫も何も……カナデが、変なことするからでしょ……!」
「今日、ずっと様子がおかしかったから。でも良かった、ちゃんと照れてくれるんだ」
悪戯っぽく笑うカナデを、思わず睨みつける。なにそれ、どういうこと? 気付かれていたの? 余裕ぶって、無理して友達っぽく振る舞うわたしが――変だったってことなの? だって、そうでもしないと……隠した気持ちが溢れそうで、怖いんだ。カナデのことを意識してしまったら、わたしはいつか、自分が止められなくなってしまいそうだった。
「やっぱ、ミナは照れてる方が似合ってるよ。私を照れさせるには、まだまだだね」
「ちょっと、それどういうこと? カナデのバカ……!」
軽い笑い声が、クリスマスの夜空に落ちていく。カナデは友達のはずなのに、いつもこんなにも無邪気にわたしを惑わせて。本当にずるいと思う。こんなことをされてしまったら、また好きになってしまうじゃん。もうこれ以上、好きになりたくなんて、ないのに。