第十九話 雨の日と恋心(6)
四人で店を見てまわり、歩き疲れたわたしたちはフードコートに腰を落ち着けた。若葉は片手にタピオカ、もう片方にクレープ。あっちを食べ、こっちを飲み、目まぐるしく動き回っていて、まるで疲れていないみたいだった。一方の日菜子は、両手で冷たいフローズンドリンクを抱えながら、椅子に沈み込むようにしてため息をつく。
「三人とも……ごめんね。せっかく付き合ってもらったのに、結局、何も決められなくて……」
しょんぼりと俯く声が、プラスチックのコップのふちで小さく震えた。わたしは慌てて前のめりになり、日菜子の手に触れるようにして言葉をかける。
「全然大丈夫だよ……! それに、そんなに悩むってことは……それだけ日菜子ちゃんが蒼さんのこと、大切に想ってる証拠だと思うし……!」
そう励ましながらも、わたしの中にも小さく沈むような疲れが残っていた。カナデへのプレゼントも、なにも決められていない。ただ心ばかりが空回っていて、吸い込んだタピオカの弾力だけが、やけにリアルだった。
「轟さんが選んだものなら、ええと……作草部さんだっけ。何でも喜んでくれると思うけど」
カナデの声が、フードコートの喧騒の中で静かに響く。確かに、蒼は優しい。日菜子のプレゼントなら、どんなものであっても笑顔で受け取るだろう。だけど、それが逆にプレッシャーになることもあるのだろうと、日菜子は苦笑した。
「……だからこそ、悩んじゃうんだよね。どうせなら、一番喜んでくれるものを贈りたいなって思っちゃうの。ほんと、困っちゃう」
その素直な言葉に、息が詰まった。わたしには、あんなふうに真正面から想いを向ける勇気なんて、ない。
「日菜子氏は真面目だなあ……。私は柊氏へのプレゼント、即決しちゃったからなあ」
若葉が笑いながら、自慢げに雑貨屋の福袋を掲げる。中身はきっと、いろんな売れ残りの詰め合わせなんだと思うけど――なんだかんだで、若葉らしい選び方だった。
でももし、わたしがカナデからそんな福袋をもらったとしたら……? たぶん、どんなにいらなくても、わたしはきっと宝物みたいに抱きしめてしまうんだろう。中身が空っぽでも、笑って受け取ってしまう。だって、それがカナデからの贈り物だから。
「クリスマスに行く場所も、まだ全然決まらなくて……美奈ちゃんは、どこがいいと思う?」
「えっ、わたし? うーん……そうだなあ……」
急に話を振られて戸惑いながらも、想像してみる。カナデと過ごす、クリスマス。もし夢が叶うのなら――。
「……無難だけど、ツリーとか、イルミネーションとか……?」
「やっぱり? ロマンチックだよね!」
スマートフォンを取り出した日菜子が、次々とスポットをスクロールしては「ここどう思う?」と画面を見せてくる。その横顔は、まるで恋に染まった少女漫画のヒロインみたいで、きちんと幸せの形を持っていて――ほんの少し、寂しかった。
「……なんか、そういう話してるミナって……新鮮だね」
隣から、カナデの声が飛んでくる。ミルクティーのストローをくわえたまま、わたしをちらりと見て、茶化すように口元を緩めた。
「私とふたりだと、恋バナ? みたいなのって、全然しないから」
その言葉に、わたしは固まった。できるわけがない。カナデの前で、恋の話なんて。だって、今まさにその恋の相手が、目の前にいるんだから。
「……でも、ふうん。イルミネーションか……。やっぱりミナは、乙女だね」
その軽口に、息が浅くなる。わかっていない。何も気づいていない。それなのに、わたしの心をこんなにも揺らして――こんなにも、好きにさせて。
友達って、こんなに残酷だったっけ。
「カナデったら……やめてよ。またからかってるの……?」
肩を小突いて笑い返しながら――息を詰めたまま、心が軋むように痛んでいた。
わたしのことを、カナデはただの友達だと思っている。恋愛対象には……なっていない。確実に。
友達として過ごす時間がいちばん幸せで――いちばん残酷だった。この距離は心地いいのに、壊れるのは怖くて、それでももっと近づきたくて仕方なかった。
フードコートのざわめきが、どこか遠のいていくような気がした。カナデの笑顔を見ているだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。この想いを伝えることは、きっとできない。でも――それでもわたしは、カナデの隣にいたい。「友達」としてでもいいから、あなたの隣にいられたら。
……クリスマス。わたしの浮かれは誰にも届かないまま、胸の奥に浮いたままだった。まるで、飛ばすことさえできない風船みたいに。わたしとカナデは、日菜子と蒼みたいな恋人同士には、なれない。なれなくても――友達として隣にいられた時間が、きっとわたしの宝物になる。




