第六話 夕暮れと二人の絆(1)
土曜日、主要駅の改札付近は人でごった返している。大きな時計の下のベンチは満席で、仕方なく近くの柱に寄りかかり、スマートフォンで時間を確認した。
待ち合わせの十五分前。ちょっと早すぎたかな……?
いつかの日菜子みたいに、スマートフォンの画面を反射させて前髪を直してみる。見た目なんてどうでもいいはずなのに、手が少し震えて、どきどきしていた。心臓がうるさくて、わたしは大きく深呼吸をしながら今日の予定を復習する。若葉と日菜子の協力もあり、遊びに行くプランは完璧だった。きっと、カナデも楽しんでくれると信じたい。
インターネットで調べてみても結局よく分からなくて、昨日の昼休み、思い切って若葉と日菜子に『二人は友達と遊びに行く時、どこに行く?』と聞いてみた。
『えっ! ……何? まさか、松波奏とデート?』
なんて言って若葉は大袈裟に驚いたけれど、人差し指をぴんと立てて、真面目な顔で答えてくれた。
『私は柊氏とよく遊ぶけど、ゲーセンで音ゲーしたり、アニメショップ行ったりかな~。それで松波奏が楽しんでくれるかは、分からないけどねん』
『……音ゲー?』
『有名なのだと、太鼓叩くヤツとか。他にも色々種類があるんだけどねー。ハマると結構楽しいよ。松波奏、音楽好きなら得意なんじゃね?』
なるほどと相槌を打ちながら、わたしは手元に用意していた小さなメモ帳に記録をしていく。“ゲーセン 音ゲー 太鼓、アニメショップ”……。続けて、日菜子は友達と遊ぶときじゃないけどと前置きをした上で、自身のプランを語ってくれた。
『私は蒼ちゃんと、駅ビルで雑貨を見たりとか、甘いものを食べたりとかが多いかな? 先週、新作のフラペチーノを一緒に飲んだけど、美味しかったからおすすめだよ』
にこりと笑った日菜子を見ながら、“駅ビル、甘いもの フラペチーノ”と付け足す。並んだ言葉はどれもなんだか高校生っぽくて、胸が少しだけ高鳴っていた。
『あ、あとゲームセンターで……。私は、若葉ちゃんみたいに音ゲーはやらないんだけど。プリクラ撮ったりとか。ほら、これとか……』
そう言って日菜子はスマートフォンを取り出し、背面を見せる。透明なカバーの向こう側に、日菜子と蒼が写ったプリクラが一枚挟まれていた。大変仲睦まじい写真で、見ているこちらが照れてしまいそうだった。だけど、プリクラをスマートフォンに貼るのは、なんだか高校生感があって魅力的かも。“ゲーセン”と書いた横に、“プリクラ”と並べてみる。
『……ま、そんなに難しく考えなくても、美奈氏と遊びに行けば、きっとどこでも楽しいよ』
若葉は笑いながら、励ますようにわたしの背中を叩いた。あっけらかんとしたその笑い方は、まるで悩み過ぎだと言うように、わたしの気持ちを少し軽くしてくれる。
『そうだね、結局……どこに行くかは、そんなに重要じゃなかったりするよね。大切なのは、その人と一緒に時間を過ごしたっていうことなんだと思う』
日菜子も微笑みながら、なんだか深い言葉を口にした。カナデと一緒に時間を過ごすことが、大切……わたしは二人の言葉を飲み込みながら、手元のメモ帳を見つめる。このプランだと、主要駅に行けば大抵のことはこなせそうだった。
そういうこともあって、今日は午後イチの時間に主要駅での待ち合わせを指定した。昨日のうちに、それぞれの店の場所は大体把握済みだけど……ちゃんと連れて行けるのかな。スマートフォンがある時代に生まれて良かったと、つくづく思う。地図アプリが無かったら、たどり着ける自信が全然ない。鞄の中から昨日書いたメモの切れ端を取り出して、じっと見つめてみる。指先に力を込めると、くしゃりと紙に皺が寄った。