表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/187

第四話 恋の尾行と金色の影(1)

 カナデから『寝坊したし、夕方レッスンで練習できてないから学校サボるね』と連絡がきて、今日は若葉と日菜子と共に昼休みを過ごしていた。わたしの練習に付き合ってくれていたせいかと詫びると、『曲が好みじゃなくて、面倒だっただけ。気にしないで』と返ってきた。その言葉は気遣いかなと思いつつも、この間「気を遣わなくていい」と言ってくれた優しい声が頭に響いて、信じようと思った。だけど――慣れていないせいか、やっぱりまだ心がざわついてしまう。


 昼休み、松波奏に振られたのかと若葉は笑っていたけれど、二人は変わらず受け入れてくれて、少し安心してしまった。他愛もない、どうでもいいような話をしながら時間を浪費し、弁当を食べ終わった日菜子がお手洗いに行くと言って席を立った。


 日菜子の姿を見送ると、若葉が急に身を乗り出してわたしに顔を近づけてきた。距離が一気に縮まって、若葉の息が頬にかかる。いつもの唐突さだったけれど、まん丸な瞳に見つめられてついどぎまぎしてしまう。


「……今日の日菜子氏、なんか可愛くない?」


「えっ?」


 若葉は目を細めつつ、ひそひそと耳元で囁いた。予想外の言葉に、つい変な声が出てしまう。わたしは若葉の言葉を飲み込んで、おずおずと口を開く。


「……日菜子ちゃんはいつも、可愛いけど?」


「いやいや違うんだよ美奈氏。日菜子氏がいつも可愛いのは認めるけど! 今日は……いつにも増して可愛いってこと!」


「はあ……」


 わたしから顔を離した若葉は、ぶんぶんと頭を振って反論する。小さい身体でよくもまあこんなオーバーリアクションができるよなあと感心していると、再度若葉の顔がぐっと近づく。まるで悪党のような顔をしながら、わたしの耳元に口を寄せてきた。


「……日菜子氏はスカート、いつも二回巻きで清楚に決めてるじゃん。でも今日、短いよ。あれは三回巻きだよ! それに髪、可愛いリボンで結んでる! いつもゴムなのに! あと近づくと、なんかいい香りまでするし!」


 若葉は最初こそこそと話していたのに、だんだん声が大きくなって熱弁モードになっている。わたしは身を引いて耳を塞ぎながら、その様子を眺めていた。本当、日菜子の変化に気づくなんて鋭いな。スカートの長さとか、リボンとか、全く気が付かなかったけれど……。確かに言われてみれば、今日の日菜子はいつもとは違う、ピンク色のリボンで髪を結っていたかもしれない。


「これは絶対なにかある! こないだ言ってた、本命とやらとデートをするのかもしれない! ……というわけで美奈氏、今日放課後暇?」


「えっ」


 ぼんやりとしていると唐突に名前を呼ばれ、意識が引き戻される。今日の放課後が暇かって? 今日はカナデもいないし、思い当たる予定は何もない。


「暇だけど、若葉ちゃん、部活は……」


「創作のネタ集めって言って休む! こんな身近にネタが落ちてるとは思わなかったよ~!」


 両目をきらきらさせてガッツポーズを取る若葉を、つい呆れて見てしまう。ネタ探しって便利な言い訳だなと思いながら、わたしは机に頬杖を付く。そんなことをしているうちに、何も知らない日菜子がにこにこしながら戻ってきた。若葉の指摘を思い出して見ると、スカートから覗く白い太ももがいつもより大胆で、ふわふわの髪をピンクのリボンで二つに結んだ姿は、息を呑む可愛さだった。


 日菜子の本命。こんなに可愛い女の子が好きになる人って、一体どんな人なんだろう。そういえば、カナデのことをかっこいいと言っていた気がするけれど……カナデみたいな人がタイプなのかな。そう思うと、胸が一瞬ちくりとする。だけど、カナデのことは見る専って言ってたし、カナデじゃないはず。日菜子のことを眺めながら、こっそりと思考を巡らせる。


「二人とも、どうしたの?」


 何も気付かず、にっこり微笑むその頬は、柔らかなピンク色に染まっている。その姿は、若葉が言うとおりいつもより可愛さが増している気がした。小鳥のさえずりみたいな声が耳孔をくすぐり、少しむずむずとしてしまう。


「なんでもないよ。ね、若葉ちゃん」


「うん、日菜子氏はかわいいな~って話をしていただけで」


「えっ、や、やだあ。そんな……突然どうしちゃったの?」


 若葉の言葉で耳まで真っ赤になった日菜子は、頬を両手で隠し焦るような仕草をする。どういう食べ物を食べたら、こんなに可愛くなれるんだろう。そもそもわたしとは人種が違うのかもしれないなと思いながら、わたしは一つ息を吐く。


 横から何か熱い視線を感じて顔を向けると、若葉がこくんと頷いた。その顔はまるで「尾行だ!」とでも言いたげで、わたしはちょっと引いてしまう。日菜子に気付かれないように「本気?」と呟くと、若葉が「あったりまえじゃん!」と目をキラキラさせていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ