第三話 友達の色と潮風(3)
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昼休みのチャイムが鳴り、溜息を吐きながら世界史の教科書を閉じる。わいわいと騒ぐクラスメイトを気怠げに見ていると、いつものように若葉と日菜子が近づいてきた。
コンビニの袋を手に下げた若葉が、着くなり「そういえば」と首を傾げる。まんまるな瞳が揺れていて、それはなんとも可愛らしい仕草だった。
「……美奈氏は、松波奏と一緒に食べないの?」
「えっ?」
突然の名前に、どきりと心臓が跳ねる。若葉と日菜子はそんなわたしの反応に気付かずに、二人で顔を見合わせた。
「松波さんって、人といるところ見たことないよね。確かに、美奈ちゃんが行ったら……喜ぶんじゃない?」
「そうだよねー、松波奏って孤高の一匹狼って感じだし……。これを機に私も仲良くなって、テストのヤマとか教えてほしいわー」
二人は空いた椅子を引き寄せて、わたしの机に昼食を並べていく。その様子を眺めていると、日菜子がふんわりと笑ってわたしを見た。茶色い優しげな瞳と目が合って、ついどきりとしてしまう。
「美奈ちゃん、松波さんのところに行ってみたら?」
「松波奏、もしかしたらボッチで悲しんでるかもしれないしねー。美奈氏の机は、ちゃんと私たちが見ておいてあげるからさ~。ついでに私の売り込みもしておいてよー」
若葉が笑いながら、「いってらー」と手を振った。わたしはつい、「ええ?」と顔をしかめてしまう。スマートフォンを取り出して画面を付けてみても、何も通知は届いていなかった。
「そんなこと、言われても……」
指先でメッセージアプリを起動し、一番上に並んだカナデとのトークルームをじっと見つめる。今日は一日学校にいると言っていたから、カナデは校内のどこかにはいるはずだ。でも、もしかしたら一人で過ごすのが好きかもしれないし。そんな中で会いに行って、いいのかな。どうしよう。いや、でも……わたしはカナデに会いたい、かも。
そう思ったとき、スマートフォンを握っていたままの右手がそっと包まれる。顔を上げると、日菜子が両手でわたしの手を握っていた。
「美奈ちゃん。美奈ちゃんが行ったら、きっと、松波さん……嬉しいと思うよ」
ぎゅっと掌に力を込めて、日菜子は優しくわたしを見つめている。その仕草はまるで、恋を応援されているみたいだった。そんなんじゃないんだけどなと思って、わたしは苦笑する。
お節介なクラスメイト二人に手を振られ、わたしは弁当を持って教室を後にした。そんなこと言われても……カナデが一人で居たいと思っていたらどうするの。