099『多摩川を渡る』
くノ一その一今のうち 閑話休題編
099『多摩川を渡る』そのいち
等々力渓谷を南に出ると多摩川。
土手道は車がビュンビュン通るから、しばらくは河川敷を通る。
「川の向こうは神奈川県なんよね?」
「そうだよ、このまま東に進むと東急の鉄橋を潜るんだけど、手前で土手道に上がる」
「なんで、そのまま行かへんの? あ、東京弁の感じで喋った方がええかな?」
「いいよ、自然な感じだし」
実は、本物の等々力高校生たちが前を歩いていた。
試しに追い越してみたら違和感なし。学年章も同じだったけど、ごく普通に追い越せた。同じ制服だからバレないというのは素人の考え、同じ装いをしていても、所属の空気を纏っていないと「あれ?」っと感づかれてしまうことがあるからね。渋谷とか歩いていてもテンプラ(衣だけ着けたやつ)は分かるもんだ。
高原の国以来、忍びらしい仕事をやっていないので、まあね、お試しだ。
「「あ」」
同時に声をあげてしまった。
二人のスマホが同時に鳴ったんだ。
メールが入っている。
——宝来山古墳に寄っていきな——
「ホウライヤマ古墳……なんや豚まんみたいな名前やなあ」
「え、なんで豚まん?」
「アハハ、大阪でホウライいうたら豚まんなんよ」
「豚まんて?」
「あ、ええと……中華まんのこと」
忍者と言っても地域性があって、案外、こういうことが分からなかったりする。
で、硬式野球場を過ぎたところで土手に上がって寄り道。
土手道を跨ぐと、ちょっとした森みたくなっていて、森全体が古墳群。七つほどの古墳があって、一番大きいのが宝来山古墳。むかしむかし、このあたりを治めていた族長のお墓らしい。
「うん、やっぱり豚まんに似てる」
百花の感想に「なるほどぉ」と頷いて半周する。
「「あ……」」
同時に声を上げてしまった。
豚まんは半分齧られたように無くなっている。
百花と顔を見かわす。
古墳と言っても復元されているわけじゃなくて、普通に見たらコンモリと木が茂ってる小山なんだけど、カタチがいびつで切り崩されているのが分かってしまう。二人とも忍者だからね。
案内板を見ると昭和の初めに土を取るために切り崩したらしい。
「それでぇ……なんで、ここに寄るわけ?」
「ちょっと待ってね……」
懐から勾玉を出してみると、はっきり熱を持っている。
「ソノッチ、体温高いねんねえ」
「ちがうよ、これが熱もってるんだ」
「え、あ、ちょ……」
なんと勾玉が光り始めた。
そして、柵の向こう墳丘の上に人影が現れて、静々と降りてきて、柵のところで立ち止まった。
ウンウンと頷く人影、頷くと人影は姿がハッキリして、日本神話に出てくる男神みたい。
勾玉も、小さいけども白い人影になってる。
人影というだけで容ははっきりしない。やっぱり力が衰えてるんだ。
男神の方は二度頷くと、ぼんやりしてしまい、墳丘の方に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「こっちも消えてしもた」
「古墳と勾玉の人、縁があったんだね」
「うちらみたいにぃ?」
「あ、その目は気持ち悪いかも(^^;)」
「アハハ、ほな、いこか」
「そだね」
わたしは、ちょっとシミジミしてしまったけど、百花はキリっと締めたツインテールのようにサバサバ。
自分で言うのもなんだけど、いい組み合わせだと思うよ。
土手道に戻って五分ほど、鉄橋の丸子橋を渡って神奈川県に入る。
「え、まだ等々力だ!?」
「え、ほんま!」
狐につままれたみたい、橋を渡ってしばらく行くと『等々力緑地』というところに出てしまった。
「神奈川県だよね?」
「うん、川崎市や!」
百花が指さした住居表示は川崎市。
検索すると、明治の末までは多摩川が湾曲して、ここいらは東京だった。多摩川を真っすぐに付け替えたので等々力の、この一角だけが取り残されて川崎に編入されてしまったんだ。
「切れかけた縁を名前でつなぎ留めてるんだねえ」
「うん、うちらの旅を暗示してるみたいやねえ」
シミジミしていると視線を感じた。
小学生たち……もう下校時間なんだ。
で、自分たちは、このあたりで見かけない制服なんで——あれ?——って感じ。
そもそも西に寄り過ぎていたんで、横丁に入って制服をチェンジ。
今度は、武蔵小杉高校の明るい制服に替わった、そのまま南に歩いて、陽が落ちるころ横浜の手前、幕末の事件で有名な生麦に着いた。
その夜は、お祖母ちゃんから連絡があって、地元のお寺に泊った。
☆彡 主な登場人物
風間 その(そのっち) 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
中村 百花 薩摩の山潜衆の忍者
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟




