098『薩摩山潜衆中村百花と新任務』
くノ一その一今のうち 閑話休題編
098『薩摩山潜衆中村百花と新任務』そのいち
「薩摩の山潜衆の中村百花だ、仲良くやりな」
お祖母ちゃんが紹介すると、そいつはニッコリとお辞儀をした。
駆け出しのAKBっぽい丸顔のツインテール。への字の目がデフォルトみたいで、愛想がよさそう。
甘味処の店員としてはわたしよりも向いてる感じ……なんだけど、薩摩の山潜衆というのが気になる。
山潜衆は薩摩固有の忍者集団。伊賀や甲賀ほど有名じゃないけど、山伏を起原としていて、わたしの風魔流よりも神秘的。なによりも忍者の創始者・役小角に印象が近い。
「中村百花です、よろしくお願いしますね、風魔センパイ(⌒∇⌒)」
え?
のっけから驚かされる。
薩摩忍者と言いながら、言葉は関西弁。おそらくは大阪。
「アハハ、山潜衆言うても、代々大阪勤番。もう三百年は大阪住まいやから、99.99%大阪少女ですぅ」
「あ、そうなんだ。あ、わたし、風魔その。頭領を相続したから忍び名はそのいちなんだけどね、仲間や友達からは『そのっち』って呼ばれてる」
「そのっちさん」
「さんはいらない」
「じゃぁ、遠慮なくそのっちで。うんうん、この方が言いやすいわ」
「よろしくね。で、お祖母ちゃん、その勾玉は?」
下忍なら、任務に質問することは許されないけど、わたしは風魔の頭領、とうぜん上忍だ。百花も任務の内容は知っておきたいだろうから聞いておく。
お祖母ちゃんは、景色を見るようにそっぽを向いて忍び語りで教えてくれる。
「等々力衆のご先祖の一人なんだけどね、出身は出雲なのさ。もうかれこれ千六百年もこの地で祀られてきたんだけど、この度、出雲の稲杵にお戻りになることになったのさ」
「1600年ぶり!?」
驚くけど訳は聞かない。
わたしの本務はまあやを守って豊臣家の跡を継がせること。それ以外は余技。普通に言えばバイトだからね。
「ひとつ条件というか縛りがある」
「シバリ?」
「ああ、勾玉の本性は稲杵姫。1600年も等々力に居られて弱っておいでなんだ」
「ああ……丁重にお送りしなきゃいけないんだ」
まあ、お宝同然に運べばいいんだと思った。でも、そうじゃなかった。
「絶えず、地面から力を受けていないとお隠れになってしまう」
お隠れ……神さま用語で死んでしまうということだ。神仏は長年にわたって信仰とかお世話とかしてもらえないと消滅してしまうことがある。でも、絶えず地面から力を受けるって……?
「乗り物には乗れない。稲杵までは歩いていくしかないんだ」
「「ええ!?」」
「お前たちの足を通して地面と繋がっていれば問題ない」
「うう~~ん……」
まあ、草原の国高原の国を走り回ってきたんだ、文句は言わない。ただ、最初思ったよりも日数がかかりそうで、連休とかも遊べなさそう。
「それと、古墳時代の古い神さまだから、土地々々のあれこれが興味を持って寄ってきたり、ちょっかいを出してきたりということもある。しっかりお守りするんだ」
そうそう、それもある。余計な諍い戦いは勘弁してほしい。
「うん」「はい」
いちおう素直に返事しておく。
「泊りは、こちらから手配しておく。縁と理解のある神社とかお寺とかになるけど、そこは任せておけ。旅費は振り込んでやるから、ATMで下ろしな」
「カードやったらあかんのんですか?」
百花がカードを見せる。
「履歴が残る。ほんとうはATMも避けたいとこなんだよ」
「分かった」
「じゃあ、店に戻ろうか、必要なものを渡すから」
「うん」「はい」
パンパン
もう一度古墳に柏手打ってお辞儀。
店に戻ると、白のワンピと背負い式の鞄を渡される。
「目立つんじゃない、白のワンピなんて?」
「まあ、着てごらんな」
「う、うん」
忍者なんで、クルリとその場で着替える。
で、百花と二人揃って声を上げてしまった。
「「ええ?」」
被ったところまでは白だったワンピは見覚えのある高校の制服に変わってしまった!
「これって、等々力学院の?」
そう、このあたりでポピュラーな等々力学院高校の制服だった。
☆彡 主な登場人物
風間 その(そのっち) 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
中村 百花 薩摩の山潜衆の忍者
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟




