101『義経首洗の井戸』
くノ一その一今のうち 閑話休題編
101『義経首洗の井戸』 そのいち
お世話になった巫女さんにお礼を言って神社を出る。
鳥居を出たところで——地元の高校——と念じる。
出雲に着くまでは、その土地々々の高校生に化けているんだ。藤沢女学園から茅ヶ崎南高校に変わった。
「あ、爽やかぁ!」
海辺の高校らしく、薄い水色のワンピース。
「襟は白やさかい、汚れが目立つねえ」
「あ、でも取り外して洗えるみたいだよ」
「あ、ほんまや……本体も水洗いできるみたい(^▽^)」
カモフラージュなんだけど、そういうところが嬉しくなるのは、女だからだろうか。仲間の忍者は男が多い、あいつらは少し汚れても消臭スプレーでごまかしている。忍び用の消臭スプレーは強力なんだけど、揮発するまで微妙に匂う。その匂いを思い出す。
「ノッチも、消臭スプレー思い出したぁ?」
「え、百花も?」
「「アハハハ」」
百花は日常系アニメのサブキャラ女子高生。そんな感じの明るい子なんだけど、わたし同様のくノ一、思いはいっしょなんだろうね。
湘南JKの爽やかさを身にまとって旧東海道を西に進む。
交差点の表示が『白旗』になっている。
「爽やかになった思たら白旗かいな(^^;)」
出かけて直ぐの白旗に苦笑いの百花。
「この白旗は違う意味だと思う」
藤沢は鎌倉のすぐ近く。地理的にも歴史的にも源氏に縁がある。たぶん、これは源氏の白幡だ。
「ほんまや、近くに白幡神社がある」
素早くググって北を向く百花。ちょっと遠足気分になっていて、寄ってみようかという気持ちになるけど、グッとこらえる。今日は箱根の手前、少なくとも小田原には着きたい。
忍者なんだから、その気になれば箱根越えだってできるんだけど、なんせ女子高生に擬態している。箱根山を駅伝みたいなスピードで走るJKなんて逆に目立ってしまう。
「さ、前に進もうか(`・o・´)」「せやね(`・o・´)」
揃ってまなじりを上げる。
え…………?
なんだか人が見ているような気がして振り返ると『KOBAN』の看板。
白地に青、すぐ横が信用金庫……喫茶店、ひょっとしたら小判まんじゅうが売り物の甘味処?
少しだけ戻るとKOBANは交番のこと。
しかし、視線というか引力は、交番横の路地の奥。交番には誰もいなかったしね。
引き寄せられるように路地に入って四五十メートル。
『源義経首洗井戸』というのにぶち当たった。
石畳の向こうにガッチリした石の井戸があって、ごっつい木の格子が掛けられている。
首洗い……ちょっと縁起が悪い。
それでも、絶好の遠足日和、説明書きを読んでみる。
——平泉で討ち取られた義経の首は鎌倉に送られ、首実検されたあと、鎌倉の海に捨てられたのだが、地元の領民に拾われ、この井戸で清められ、その霊は白幡神社に祀られた——
周囲はきれいに掃き清められていて、藤沢の街でも大事にされているのが分かる。
「なるほど……」
「まあ、これも縁やなあ」
ということで、特にお祀りの標はないんだけど、百花と二人手を合わせる。
『どうも、ありがとう』
優しい声に振り返ると……小柄な鎧武者が人懐っこい笑顔で立っている。
「あ……」「え……」
『驚かせて申し訳ない。僕、源義経です(^^)』
「え、ええ!?」
『住まいは、白旗神社なんだけど、天照さんが——今日、お供の二人が着きます——とおっしゃるので待っていたんだ』
「え……」「ああ……」
『きみたち、等々力の塚から勾玉のお供をしている草の者だろ?』
「えと……」
絶好の遠足日和、人懐っこい笑顔……でも、うかつには答えられない。
☆彡 主な登場人物
風間 その(そのっち) 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
中村 百花 薩摩の山潜衆の忍者
義経 藤沢の首洗い井戸で出くわした。
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟




