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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第6章

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第165話 その想いは……

 毛布やら、木材を抱えたオリーブが教会の地下牢へと戻ると、持ち込んだ物々を床へと置き、一番外枠の鉄格子の鍵を開錠に取り掛かる。


 地下牢の経過年数に対し、鉄格子に用いられている南京錠だけが、目新しい物に映る。もしかしたら、今回の使用に際し南京錠だけは、枢機卿であるビネガーが新しい物に取り換えていたのかもしれない。それを証明するかの如く、南京錠は鍵を差し込むと抵抗なくすんなりと開錠した。


 外枠の鉄格子、そして内枠の鉄格子。この二つの間には人一人が入れるほどの距離が空いている。オリーブはその空間へと身体を滑り込ませると、持ち込んだ荷物も同様に空間内に収める。そして、持ち込んだ荷物を全て空間内に収めた事を確認すると、鉄格子の間から腕を伸ばし、再度外枠の南京錠の鍵を掛ける。


 南京錠のガチャリという音が、そのままオリーブの心を閉じ込めてしまうのではないかと錯覚してしまう程、嫌な音が静かな地下牢内を木霊(こだま)する。


 外枠の鍵を掛け直したのは、いわゆる保険だった。その保険とは、もちろんアルスを牢から逃がさない為の保険である。


 オリーブ自身、気が進まないとはいえ、自身が席を置く教会の最高責任者たるビネガーから直々にアルスの世話役を言い渡されていた……。世話をする以上、対象者が身近に居てこそ成立する関係性になる。


 オリーブは、本当にこれは正しい事なのかと、未だ心が決められないまま、この場に足を運んでいた……。ただ、自分が食事を持ち込まねばアルス少年がひもじい思いをしてしまうに違いない。その事だけは明確に理解出来ているがゆえ、食事を運ぶという行動を取ったに過ぎない。


 そして、いざ食事を地下牢へと運んでみると、対象者であるアルス少年は、ビネガー枢機卿から拷問を受けた後らしかった。濡れた地下牢の床がその事を如実に証明している。


 春の気配が近づいて来たとはいえ、まだまだ寒い日が続いている。今朝起きた時も身震いを感じてしまう程、寒々しい朝であった。しかも、この場は日が碌に差し込みもしない地下牢である。朝の寒々しさはオリーブが感じた物とは比べようもないものであろう。そんな状況下に置かれているにも関わらず、ビネガー枢機卿は文字通りアルス少年に冷や水を浴びせたのである。


 ハッキリ言って人間にする事とは思えない! 血も涙もないとは正しくこんな事をいうのであろうと断言出来る! ビネガー枢機卿の行いは、狂気の沙汰以外の何者でもないであろう……。


 本当に、私はこのままで良いのだろうか……。

 ここに席を置いたままで良いのだろうか……。


 私自身、ビネガー枢機卿の本質が判らなくなっていた。


 ビネガー枢機卿が王都内の教会に赴任してきた一年半ほど前、当時の当人の瞳はこれからの教会の行く末を憂い、人々の生活に寄り添うべく舵を切ろうと意気込みに燃えていた。


 そんな思いを感じられたからこそ、オリーブもその考え、及び政策に賛同したのである。


 だが、民衆の対応は思いの外、冷たい物であった。


 数々の打ち出した新たな政策が(ことごと)く身を結ばない。その度に、枢機卿の補佐を買って出たオリーブがその報告を挙げる為、足を運ぶ。そして、その度にビネガー枢機卿の瞳に落胆の色が浮かぶ。


 ビネガー枢機卿のみでなく、新たな政策を打ち出す度、オリーブ自身も民衆の態度に打ちのめされてきた。


 もう、報告に挙がるのが嫌で嫌で仕方なかった!

 もう、あの瞳の落胆を目にするのが嫌で嫌で仕方なかった!

 もう、枢機卿ご自身で結果の確認をなさって下さい! と、言ってしまいたかった……。


 でも、二人は常に共にあった。


 枢機卿の想いに賛同出来るゆえ、この王都の民衆の支えになるべく、オリーブ自身も色々と意見を出したものだ。時には、意見の食い違いから枢機卿と対立してしまった事も一度や二度でない。でも、それは今のこの状況を変えようという思いが根底にあるという事が分かるゆえ、夢中になった。そして、それは楽しい日々だった。


 そして、遂に報われる日がやってきた。


 教会に未登録の精霊師を発掘する為、王都内の広場へと足を向けた二人。だが、その行動も実を結ぶ結果へと至る事は無かった。だが、その時枢機卿の頭の中にある閃きが舞い降りる。


 それこそが、指輪であった。


 そして、私は枢機卿に告げたのだ。指輪のデザイン性を追求すれば、貴族にとっては人気アイテムにすら成り得るかもしれないと。


 その言葉を告げた時の枢機卿が浮かべた笑顔……。あの笑顔が、未だに頭から離れない。


(ああ……。私が求めていたのは、これだったのかもしれない……)


 そう思った事を今でもハッキリと覚えている。


 だからこそ、余計に今の枢機卿の姿が見えなくなった……。何を求め、行動を起こしているのか分からなくなった……。でも、理解したいと思う自分も居た。


 ビネガー枢機卿が悪いのではない!

 ビネガー枢機卿を変えてしまった民衆こそが悪いのだ!


 そう思う自分も居た。


 ゆえに、オリーブ自身、自分の心が定まらないまま、今この場を迎えていた。


 そして、ビネガー枢機卿の予想外の行動に打ちのめされた。


 だが、自分は無意識の内に、先ほどアルス少年の逃げ道を塞ぐべく、外枠の鉄格子に南京錠で再び鍵を掛けていた……。


 本当に、無意識だった……。

 何故か、そうすべきだと思ってしまっていたのかもしれない。


(私自身がやはりビネガー枢機卿の考えに賛同しているのだという事?)


 ここに来て、ビネガー枢機卿の考えだけでなく、自分自身の事すら判らなくなってしまう状況に陥ってしまうオリーブ。


 そして、未だオリーブは気付いていなかった。自分がいつの間にか、ビネガーに恋してしまっていたという事に……。

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