第160話 足が遠のいていた実家
一方、マーレ。
マーレはまずは実家である、カロッツェ武具店へと足を向ける。
だが、マーレ自身があまり実家へと寄り付きたくないという思いもあり、グロック一家が王都へと越して以降、アルスをカロッツェ武具店へと連れていっていないという事に気付く。
家出同然で飛び出した実家であるとはいえ、それでも身内だ。
父カロッツェと、母サラにとって、アルスは孫に当たる。その孫の行方がしれなくなったというのに、その事を知らせないのは、流石に不義理になってしまうだろう。それゆえ、事が起こってから顔を出すという事で、向かう足も重くなるが、店へと辿り着くと、その扉を開けた。
「あら。マーレじゃないのさ。あんた、こっちに帰って来たというのに全然顔も見せないで! ホント、親不孝もんだよ、あんたは! で、今日はアルスを連れて来てくれたのかい?」
店に顔を出すと、早速母親であるサラからお叱りの言葉を頂戴する。
「お母さん、ごめんなさい。そのアルスの事で話があるの……。仕事中だという事は分かっているのだけれど、お父さんと、兄さんにも話があるの。無理を承知で時間を作って貰えないかしら?」
「アルスの事で? まあ、可愛い孫の話となればあの人も聞こうとするかもだね。じゃあ、ちょっと確認するから奥の商談部屋で待っててくれるかい」
サラはマーレの言葉に訝しんだものの、カロッツェとジオに声を掛ける為、作業場へと場所を移していった。
そして、サラから声を掛けられた事で、グダグダと文句を言いながらも、カロッツェ、サラ、ジオの三人が商談部屋へと顔を出す。
マーレは勝手知ったる我が家という事で、用意したお茶を三人へと渡していく。そして、全員の聞く体制が整った所で話始めた。
三人に、アルスがアルミラ様以来の六属性が扱える精霊師である事。アルスの身の安全を考え、一属性の精霊師として登録した事。登録に疑問を抱いた枢機卿がアルスの身柄を教会へと連れ去られた事。連れ去られたアルスが、自力で教会から抜け出した事を伝える。
今まで聞いた事もない話が次々に飛び出し、秘密にしていた事を非難する一同。これに関しては、完全にマーレの落ち度であった。何度も何度も頭を下げ、謝った上で話を続ける。
「お父さん、お母さん、兄さんに隠し事をしていた私が言える義理ではない事は重々承知です。でも、これにはアルスの命が掛かっています。もし、昨日の内にアルスが逃げ出したという事であれば、アルスはこの寒空の下、一夜を越したという事もあり得るの。母である私としては、今夜もそうさせる訳にはいかない。だから、無理を承知でお願いします。アルスの捜索に手を貸して下さい」
マーレは、家族ではあるものの、今は足が遠のいてしまっている実家の面々に深々と頭を下げる。その行為に、どう反応するのかと、サラとジオの視線がカロッツェへと集中した。
「確かに自分勝手な話だ。勝手に出ていったお前が今更どの面下げて願い事なんてしてくるんだって話ではある。ただ、王都で共に暮らさないかと打診したのは、他ならぬ俺自身だ。それに、アルスは俺にとっても。かけがえのない孫である事に変わりはない。その孫の命が掛かっていると言うのに、ここで動かないのは家族でも何でもねぇ! ジオ、お前にとっちゃあ、義理の甥っ子って事になるだろうが、義理でも甥は甥だ。お前も力を貸してくれるな?」
「ああ。もちろんだ、親父。俺の命は親父に救われた命だ。今、動かなかったら、俺は親父に顔向けが出来んよ。マーレ、俺たちはどうすればいい?」
「お父さん、兄さん、ありがとう。出来れば可能な限り人手を借りたいの。教会もアルスの行方を追っています。教会に先に出し抜かれる訳にはいかないわ!」
「あい、分かった! 今日はもう営業は閉めえだ。職人全員でもってアルスの捜索に当たる! サラ、お前はここに残って客が来たらお断りの言葉を伝えてくれ。そして、納期が近い相手には、納入が遅れる可能性がある事を予め伝えておいてくれ。先方にはその分、代金は値引きすると伝えろ。ジオ、お前は職人連中の陣頭指揮を執ってくれ。人の振り分けなんかの細々した事は、お前に任せる! 俺でさえ、成長したアルスの現在の姿は分からねぇ。なので、一人で歩いてる子供が居たら、片っ端から声を掛けろ! そうすりゃあ、間違いは無い筈だ」
カロッツェの言葉に、サラとジオが頷く。そして、早速行動に移す為、立ち上がった。
「ありがとう。私は、この後更に協力を仰ぐため、夫の居る兵舎塔へと向かいます。もし、アルスを見つけたら、ここに伝えに来て頂だい」
そう言って、マーレは自宅の住所が書かれた紙をサラに渡す。そして、自身はゼストの下へ向かう為、カロッツェ武具店を後にする。
店を抜け出たマーレは、王宮の隣に併設された兵舎塔へと赴く為、駆け出す。カロッツェ武具店は、王都でも指折りの武器屋ではあるとはいえ、店は市街地に店を出している。
それゆえ、こらから向かう兵舎塔まではかなりの距離がある事になり、向かっている最中に、何人もの司教の姿を目撃する。その姿を視界に収める度、心底穏やかな心持ちを抱けないマーレ。
(アルス! アルス! 頑張って! もうすぐ、お母さんも探しに行くわ!)
そうして、マーレは兵舎塔へと入っていったのだった。




