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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第6章

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第158話 ベティスの声に応えないドライアド

「アドー! アドー! 近くに居るんでしょう? お願いがあるの! 出て来て下さらないー?」


 諦めず森へと声を張り上げるベティス。だが、その声に応え、森の精霊ドライアドが姿を見せる気配がない。


 だが、今行っている事に間違いは無いはずだ。


 ベティスは間違いなく精霊界で、アルス様がドライアドを呼び出す所を目撃している。あの時のアルス様は、現状と同様、森でドライアドの名を呼んだだけだった。とはいえ、その時と面子が違う事は確かだ。


 最初にアルス様が、精霊界へと赴いた時の事自体はベティスは知らない。その時のベティスは、初めての森での狩りで疲れてしまい、森の一角にある広場で身体を休めていただけだったのであるから。


 ベティスが知っているのは二回目以降だ。正確には、三回目以降と言うべきなのかもしれないが……。


 その三回目にアルスがドライアドを呼び出した時には、ベティス自身も居た。そして、正確な面子としては、アルス様、アルミラ様、そしてわたくしベティスだ。


 ただ、その時も近くにアルミラ様が居たとはいえ、アルス様は森の傍でドライアドの名を呼んだだけに過ぎない。にも拘わらず、アルス様の声に応え、ドライアドは姿を見せている。


 四回目の時も面子は少し違っている。その時の面子は、アルス様、風の精霊であるシルフィード、そしてわたくしベティス。その時も、アルス様が名を呼べば、その声に応えドライアドは姿を見せた。


 この点からの、今回との差異という事で、現時点で考えられるのは四つ。


 一つ、ドライアドを呼ぶ時には、精霊が近くにいる必要がある。

 二つ、ドライアドを呼ぶ時には、アルス様でないと、ドライアドが応えてくれない。

 三つ、そのどちらも必要。

 四つ、この森の中にドライアドが居ない。


 一か三という事になれば、正直お手上げだ。ここには精霊なんて居るはずもない。ただ、それは今後精霊界に赴く為、ドライアドを呼び出す際には、更に別の精霊の手助けが必要という事になってしまう。ゆえにこの可能性は限りなく否と言えるだろう。基本的に、人間界に精霊など居ないのであるから……。


 という事になると、残る選択肢は二か四。


 きっと、森の精霊であるドライアドは、アルス様に自分を呼び出す為の手順を説明した筈だ。だが、残念ながらベティスはその事をアルスから聞いてはいない。ゆえに、何か必要な手順的な物があるのであれば、ベティスには分からない。ただ、過去二回その場に立ち会ったベティスが目にしたのは、ただ単にドライアドの名を呼ぶアルス様の姿だった。そこに何かしらの手順めいた物があったようには見受けられなかった……。


 そして、今までの全てに共通している事……。それは、ドライアドを呼び出したのが、辺境地の森だったという事。その点を踏まえると、四という選択肢も有り得てしまう……。


 ただ、そうなるとドライアドの呼称として、森の精霊という事ではなく、○○の森の精霊と、限定的な呼び名になっていた筈だ。この事に関しては、ベティスはドライアドから直接自己紹介を受けている。自分は森の精霊である……と。


 その点で考えると、四も選択から外れる事になる。つまり、ドライアドは全ての森の管理者である。というのがベティスの結論だ。


 と、なると……。残る選択肢は二番目のみ。


 つまり、アルス様でないと、ドライアドは応じてくれない……。


 ただ、この事に関しては、アルス様とわたくしとで共通している事が一つある。それは、二人がドライアドから認められた友達であるという事だ。


 その事に望みを託し、必死にドライアドの名を叫ぶベティス。


「アド! 何でなのよ! どうしてなのよ! 近くに居るんでしょう? アド! わたくしの声に応えてよ!」


 かれこれ四半刻近く必死にドライアドの名を叫び続けるベティス。そんなベティスの姿を見かねて、ニッキが制止の言葉を投げかける。


「お嬢様、そろそろ館へと戻りませんと……」


「ごめんなさい、ニッキ。ここで引き返す訳にはいかない。精霊界にアルス様が赴いているかどうか。それは先ほどおば様が言っていたように、わたくしにしか確認出来ない事ですの。ですから、せめて居る、居ないだけでも確認出来なければ館などに引き返せるはずもありません。ここには、ドライアドが居るはずなのです! なので、わたくしは諦めません!」





「……やれやれ、やはり根っからの頑固者だね。キミは」


 森の中から根負けしたかのように、ドライアドの声が聴こえた。


「アド! 今までどうして応えてくれなかったのです!? わたくし、悲しくなりましてよ! 貴方から友だと認められたのは噓だったのかと……」


「それについては、ごめん。ボクが謝るよ。キミがボクの友達だという事に変わりはない。ただ、そこにはあくまでボク個人としてはという説明が必要になる。ただ……、キミは吸血姫(ヴァンパイア)。つまりは、魔族だ。ゆえに、魔族からの呼びかけに、おいそれとボクがその声に応える訳にはいかないんだよ……。今までキミの隣には、ボク達精霊の『……』たるアルスが居た。ゆえに、問題にはならなかったって事なんだ」


「アルス様が、あなた達精霊の『……』ですって!?」


 ドライアドから齎された情報にベティスが度肝を抜かされる。


(お嬢様は先ほどから誰かと会話をしているという風体ですけれど、一体どなたと会話をしているのでしょうか? まさかっ! お嬢様の気が触れてしまわれたとか!?)


 この場に共に立ち会っているニッキであるが、ニッキには森の精霊であるドライアドの声を聴きとる事が出来ない。ゆえに、その姿はベティスの一人芝居として映っていた。


「お嬢様、先ほどからどなたと……」


「ごめんなさい、ニッキ。今は説明している場合ではないの。今は黙って見てて頂だい。それで、アド。あなたがわたくしの声に素直に応じれないという事は分かりましたわ。ただ、あなた達精霊の『……』たるアルス様の行方が分からなくなってしまったの……。アド、あなたは何か知っていて?」


 ベティスの問い掛けに、この場で予想外の出来事が起こる。


 空から差し込む一筋の光。それが、地面へと到達するや、足元から徐々に人型の形状へと成していく。そして、その人物はベティスとしては三か月振りの、ニッキとしては初めて目にする、精霊女王アルミラの姿だった。


「ベティス、お久しぶりですね……。残念ながら、アルスを精霊界には招いて居ません」


「アルミラ様!」


(アルミラ様!? アルミラ様って、まさか……。あの三大英雄の……? まさか、まさか、そんな筈は……)


「アルミラ様、今おっしゃった事は本当ですか? アルス様は、精霊界に訪れている訳ではないと? それならば、それならば、お力をお借り出来ませんか? アルス様の行方が知れないのです!」


「ベティス、ごめんなさい。それは出来ないの。基本的に、精霊は人間界とは不干渉であるべきと定めらえているの。なので、状況は分かりましたが、ワタシから手助けをする事は出来ません」


 ベティスの申し出に、遺憾ながらもお断りの意を伝えるアルミラ。そんなアルミラの態度に、ベティスが喰って掛かる。


「アルミラ様は、精霊界でアルス様とは魂のレベルで繋がっていると言っておりましたわ! あれは……。あれは、その場しのぎの言葉だったのですか!?」


「いいえ。その場しのぎの言葉などではありません。アルスとは魂のレベルで繋がっています。でも、それでもワタシが手を貸す訳にはいかないのです。これはアナタ達に魔法を教えるという事とは訳が違います。ワタシが干渉すれば、運命の流れを変えてしまう不文律が起きてしまう。ゆえに、ワタシはアルスの所在を知っていますが、それをアナタに教える訳にはいかない。ごめんなさい……。判って頂戴、ベティス。……そこのアナタは初めましてですね。ワタシは精霊女王アルミラ。ただ、ワタシの事はくれぐれも内密に願いますね。それでは、ベティス。またアルスと共に逢える事を楽しみにしているわ」


 アルミラは一方的に話を打ち切ると、深々と頭を下げる。その行為には、手助けが出来ない悔しさも内包していたのかもしれない。


 そして、下げていた頭を上げた先。アルミラの姿は光となり空へと吸い込まれていく……。


「そんな……。アルミラ様! アルミラ様ーーー!」


 ただ、ベティスの叫び声も、光となって消えたアルミラ同様、空へと消えていくのみであった……。


 こうして、ベティスとニッキの二人は、アルスが精霊界には居ないという情報を携えて、館へと引き返していく。


 だが、その後ろ姿には、向かう時に感じさせた覇気は、微塵も感じさせないものだったのだった。

文中の『……』には、第96話『流れ星』で、シルフィードが発した言葉と同様の言葉が入りますが、現時点では伏字とさせて頂きます。


そして、その言葉はアルスが大人になるまで開示される事はないと、ご承知おきください。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや過去にアルミラ様は霧を出してがっつり干渉してたよ! 必然? また「……」か。ベティは驚いたってことは子供でも知る言葉か。二文字で「精霊達の…たる」から複数人との関係があり、たる、は資格の…
2023/04/11 23:51 退会済み
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