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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第5章

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第139話 お料理教室

「母さん、ちょっとお願いがあるんだけど……。いい?」


 精霊師の再登録が全員終わり、(うれ)いが無くなったある日の午後、昼食が終わり、洗い物をしているマーレに、アルスが話しかける。





 共に暮らす家族が増え、以前とは変わった事の一つに、家事の分担が挙げられる。


 エマール家からの心遣いで、ニッキが派遣される事になったのだが、ニッキが派遣された当初、マーレとの間でどちらが家事を担うかで、揉めに揉める事になってしまった。


 揉めたと言っても口論になったという事ではなく、どちらも自分が家事を担うと言って譲らなかったと言った方が正しいかもしれない。


 家事を誰かに担って貰うなど、あまりに心苦しく自分がやると主張するマーレ。


 そもそも自分が派遣されたのは、家事を担う為だと言って、譲らないニッキ。


 そんな両者譲らない平行線の中、アルスが鶴の一声を発する。『それなら、母さんとニッキさんで、半分こするしかないんじゃない?』と。


 アルスの一声にお互い顔を見合わせたものの、『まあ、そうなりますかね……』と、分担する形で平和的解決にて落ち着く。


 役割としては、マーレが食事全般と洗濯。ニッキが掃除全般という事になったのであった。





「アルスがお願いなんて珍しいわね。どうしたの?」


 と、洗い物で濡れてしまっている手をタオルで拭いながら、アルスと向き合うマーレ。


「うん。実は、前に僕とベティスでミラ様と共に精霊界に行ったじゃない? 向こうでの食事は、もぎ取ってきた果実や野菜をそのまま食べるっていう生活だったんだよね……。そこで改めて、食事の大切さ、母さんが普段料理を作ってくれている事の有難みを実感したんだ。だから、簡単な物からで良いんだけど、僕も料理を覚えたい。また、いつミラ様の所に行く事になっても大丈夫なように、母さんに料理を教えて貰いたいんだけど……」


「なるほど。そうだったのね……。向こうでの食事生活がそんな感じだったとは知らなかったわ。そうなると、アルスの目的は、家で料理を振舞うというよりも、外で料理を作る方法を知りたいって感じになるのかしら?」


 冒険者であれば、ダンジョン探索など食物を採取出来ない環境に身を置く事が多くなる。それゆえ、日持ちする干し肉を(あらかじ)め用意しておくのが一般的だ。


 だが、マーレの中でその選択肢は有り得ない。


 今まで手塩に掛けて、箱入り息子の如く、大事に大事に育ててきたのだ。まだ幼い息子が、過去に自分が経験した冒険者の道など、まだまだ早すぎると、認識としてはキャンプに近い物を想定するマーレ。


「うん。そんな感じになるのかな。母さん、ただね。精霊界には動物が居ないんだ。だから、お肉は使わない料理をお願いしたいの」


(動物が居ない? そうなってくると益々食事のバランスが重要になってくるわね……)


「アルス、ちょっと確認なのだけれど。前にアルスは収納魔法っていうのを、アルミラ様の下で覚えたと言っていたじゃない? その魔法は、どんなものでも収納しておけるの?」


 収納魔法は、以前に森で遭遇した(ソル)とのバトル後に皆に伝えた。その時の目的は(ソル)の死体を収納魔法で回収する事だったのだが、(ソル)の死体が消え失せてしまっていた事で、収納魔法を披露する事は無かったのである。


「うん。大丈夫だと思う。ミラ様が言うには、収納魔法は別次元?っていう所に保管する感じになるんだって。だから、大きさも、数も無限大だって言ってた」


「改めて説明を聞くと、本当に便利な魔法なのねぇ……。そうなると、料理用具一式も収納しておけるのね。分かったわ、アルスにそんな果実を只々食すなんていう生活をさせられないもの。お母さん、張り切っちゃう」


 と、顔の近くで握り拳を作りながら、ウインクまでしてくるマーレ。まあ、やる気を出してくれるというのであれば、アルスとしてもありがたい事は確かだった。


 昼飯を食べ終えたばかりとはいえ、直ぐにでも取り掛かるかと思いきや、急に思い出したかのように、マーレが提案する。


「アルス、ちょっと提案なのだけれど、お料理を教えるのは明日でも良いかしら? 実は、明日ある人に料理を教える事になっているの」


「明日? うん。僕はそれで大丈夫だけれど、明日は誰が来るの?」


 来客など滅多にないことで、誰が来るのか気になってしまうアルス。


「アルスは会った事が無いんじゃないかしら? 明日、紹介するわね」


「うん。分かった。じゃあ、明日はベティスも一緒にいい?」


「ええ。大丈夫よ。では、明日は頑張りましょうか」


 明日、マーレの言うお客さんも交え、アルスとベティスにとっては初めての料理というものに取り掛かる事になるのであった。







 翌日。


 イリエは、メイドの休職日である事を利用して、マーレ宅へと向かっていた。


 マーレがアルスに伝えたお客様こそ、イリエの事である。


 マーレとイリエの初めての出会いは、王都内の教会であった。その頃はまだ閑散としていた教会内。イリエは主人であるセシリアの付き添いで教会を訪れた所、祈りを捧げているマーレに遭遇する。


 マーレに惹かれるものを感じたイリエは、意を決してマーレに声を掛ける。その時は、お互いの名前を教え合った程度であったのだが……。とある日、今度は市場内の食事処で、またまた遭遇する機会に恵まれる。


 この機を逃してなるものかと意気込むイリエは、ゼストとマーレが探しているという家の情報を伝える代わりに、今後も逢う為の口実として、料理を教えて貰う約束を取り付けたという経緯になる。


 そして、今日は通算にして何度目かのお料理を習う日なのであった。


 マーレがゼストと共に、一度辺境地へと戻ってしまっていた為、イリエも久ぶりにマーレに逢う事になる。


(なんだか、久しぶりだと思うと少し緊張してしまいますね……)


 初めは浮き浮きとした軽い足取りも、マーレ宅に近づくにつれ、緊張からか重くなる足取り。だが一歩、また一歩と足を踏み出すたびに、確実にマーレ宅へと近づいていく。


 そして、歩くこと四半刻。自分自身が紹介した洋館の目の前へと到着する。


 ただ、目に飛び込む洋館の姿に、正直驚きを隠せなかった。と、いうのも自分が紹介した時とは比べ物にならない程、様変わりしていたからである。


 以前は確か準男爵が暮らしていたという洋館。マーレに紹介した時の庭先は、荒れ放題という言葉がマッチすると言える程、庭先には草が生え、洋館自体は蔦に覆われてしまっていた。


 ところが、なんという事でしょう。


 庭先には、春を迎える色とりどりの花々が咲き、洋館自体を覆っていた蔦は完全に取り除かれているではありませんか。


 予想外の変化に、暫しその場で(ほう)けてしまうイリエ。


 どれ位そうしていたのだろうか……。ふいにイリエは、自分が立ち止まってしまったままである事に気付くと、恥ずかしさを誤魔化すべく、意を決して玄関口へと足を運んでいく。最早、先ほどまで抱いていた緊張の事など忘れていた。





「ごめんください。マーレさん、いらっしゃいますでしょうか?」


 玄関先から声を掛けると、待っていたかのようにマーレが出迎えに現れる。


「イリエさん、こんにちわ。お久しぶりです。今日は宜しくお願いしますね」


 マーレはそう言うと、イリエに優しい笑顔を差し向けてくる。歩く姿にさえ見惚れてしまった事もあるイリエは、その優しい笑顔に再度見惚れそうになるが、慌てて(かぶり)を振ると、マーレへと声を掛けた。


「いえいえ! 教わるのは私の方ですから! 本日は宜しくお願いします」


 お互いに頭を下げ合うマーレとイリエ。そんな中、追加情報とばかりに、マーレがイリエに話しかける。


「イリエさん、ごめんなさい。事後報告になってしまうのだけれど……。今日は、他に参加者が居ても問題ないかしら?」


「ええ。私は全然構いませんが……。もしかして、ご近所さんが参加されるとかです?」


 マーレが専業主婦だと聞いていたので、可能性がありそうな内容で聞いてみるイリエ。ただ、その回答は予想外のものであった。


「実は、息子が料理を習いたいと言い出したの。折角の機会だから、イリエさんさえ良ければご一緒させて貰えないかと……。あと、実は息子の許嫁(いいなずけ)の方も一緒なの……」


(えっ! 息子さんに、更に許嫁!? 確かに前、マーレさんには息子さんがいらっしゃるとは聞いてましたが……。そんなに大きいお子さんが居るようにはどうにも……)


 イリエは、マーレの正確な年齢こそ聞いては居ないものの、見た目から判断するに、どう多く見積もってもマーレの年齢は二十代後半にしか見えない。とても許嫁を持つような年のお子さんが居るようには見えない事に不思議がる。


 ただ、問題ない胸を伝え、案内されたリビングでは、更なる驚きが待っていた。


「イリエさん、こちらが息子のアルス。隣に居るのが息子の許嫁のベティスちゃんです。今はゆえあって一緒に暮らしているの」


 と、紹介された先には、何とも可愛らしいお子さん二人が待っていた。


(え? ちょっと待って! この歳で、許嫁? え? え? どういう事!? 最近は、これ位当たり前なの!? ああ……。私はまだ若いと思ってましたけど……。歳を感じるって、こういう事を言うの!?)


 と、驚いている最中に、許嫁だと紹介されたベティスという名の少女が、まるで息子さんであるアルス君を守るが如く立ち塞がると、声を掛けて来た。その様子からは、どう考えても警戒されているとしか思えない。


「イリエさんと言いましたかしら? どうも初めまして。アルス様の()()()()()のベティス・エマールと申します。どうぞ、お見知りおきを。本日、ご一緒させて頂く訳ですが、アルス様にお声がけされる際には、どうぞ先にわたくしを通してからにして頂けるかしら?」


 あまりの予想外の物言いに、開いた口が塞がらなくなってしまうイリエ。


 こうして、予想外の面子での料理教室が幕を開けたのであった。

収納魔法は、某猫型たぬきロボットの、四次元ポケットみたいなものになります。

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