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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第5章

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第135話 貴族のステータス

 指輪の話題を聞きつけたのであろう。一人の男性のご老人が、教会内へと入ってくる。身なりからして、貴族様だと思われるそのご老人は、豊満な身体を揺らしながら、修道女(シスター)オリーブへと近づくと声を掛けた。


修道女(シスター)、こちらで指輪を渡していると聞いたんだが……。事実かね?」


「はい。最近の事ではございますが、指輪をお渡しするようになっております」


 ご老人は、オリーブの回答に笑みをこぼす。


「おお! あの話は、本当であったか! すまんが、指輪を拝見させて貰えるかな? わしが、見た物と同一かどうか確認させて頂きたい」


「承知致しました。では、お持ち致しますので、少々お待ち頂けますか?」


「おお。おお。もちろんだとも! 早よ、早よ、持ってまいれ」


 オリーブは、ご老人の言葉に頷くと、アルミラ神像の脇に設置された小扉を潜り、関係者用通路へと場所を移していく。


 通路の道幅は、それほど広いものではない。それでも、人がすれ違ったとしてもお互いに譲り合えば、肩がぶつかる事はない程度の広さといった感じになるが、オリーブ自身は通路のど真ん中を堂々と歩く。


 精霊師の登録に際し、指輪を付与するといった行為を取るようになって以降、教会内での風向きが目に見えて変わった。


 枢機卿であるビネガーを胡散臭い目で見ていた司教たち。それもそのはず、今までの経験上四十代の若さでもって就任した枢機卿など居ない為だ。司教の中には、ビネガーより年上の人物でさえ、ちらほら居る。その者たちからすれば、自分より若い上司など、面白くもないし、やりにくさったらこの上ない。ビネガーが、出世の為には手段を選ばないという事も耳にしていた為、枢機卿へと就任後、誰も彼もが近寄ろうとすらしなかった。


 しかし、指輪の一件以降は状況が一変する。


 本部の人間が、ビネガーの発案に賞賛の意を表して以降、手の平を返したかのように、ごますりをしながらすり寄ってくる司教たち。


 そんな司教たちの態度に、ビネガー自身は満更でもなさそうではあったが、正直オリーブとしては面白くない。


 司教たちの態度は、いわゆる長い物には巻かれろの精神である。自分とは違い、ビネガーの思想に感銘を受けたからといった訳ではない。きっと、他に良い案を発する人物が現れれば、いとも簡単にそちらへと鞍替えする輩であろう。


 なので、そんな輩には指輪の管理など任せられない。


 指輪を付与するようになって以降、ビネガーは益々未登録の精霊師を発掘する為、教会を留守にする事が多くなっていた。


 特殊能力である魔力持ちの人材を見つけては声を掛ける。指輪をしていなければ、最近になってそちらをお渡しするようになったと(うなが)す。


 当人が教会へと赴き、事前に教会に登録している事が確認出来れば、指輪を付与する金額だけ請求するが、未登録ということであれば、更に高額の違反金を請求する流れが出来つつある。


 それ故、以前よりも来訪者が激増した教会。


 以前は無人である事も多かったが、来訪者の兼ね合いもあり、日中は修道女(シスター)として、オリーブが詰めているようになったのである。


 厳重に管理された扉を開け、中に保管されている箱を取り出すオリーブ。その箱すら鍵を掛けてある。この箱の鍵を持っているのはオリーブだけだ。


 鍵を開け、箱を開く。


 中には大小の違いはあれど、六種類の指輪が保管されていた。


 そうつまり、指輪は各属性毎に色分けされているのである。


 今現在確認されている精霊師は最も多くて三属性。つまり、三属性扱える精霊師には、三つの指輪を渡している。もちろん、指輪の代金も三倍だ。


 これこそが、本部の人間が賞賛した内容であった。


 特に幼い頃に精霊師として登録した子供は、その成長に合わせて指輪も買い替える必要に迫られる。


 常にお金に困ってすらいた教会にとって、ビネガーの発案は救世主として映った事であろう。


(さきほどのご老人……。彼は、きっと精霊師ではないでしょうね……)


 精霊師であれば、対応した色の指輪を渡すことになるが、彼にはどれでも良いか……。と、適当な色の指輪を選んで蓋をする。


 再度、厳重に鍵を掛けてから、ご老人が待つ表の祭壇へと戻っていった。





「おお。おお。おお。おお。待っておったぞ! 早よ、早よ、見せてくれ!」


 ご老人は、待ってられないとばかりに駆け寄ると、オリーブに指輪を見せろとせがむ。


「お待たせして、申し訳ありません。あなた様が見た指輪は、こちらでしょうか?」


 オリーブが見せた指輪は複雑な造形が彫り込まれた指輪であった。その細かい造形に目を見開くご老人。今回は、火の指輪を持ち出した為、全体的に赤で着色されている。


「そうじゃ! この指輪じゃ! やはり、教会で渡しておったのか! して、この指輪は幾らじゃ?」


「その前に、確認させて頂いて宜しいでしょうか?」


「ん? 何をじゃ?」


「こちらの水晶玉にお触れ下さい」


 オリーブはそう言うと、触れやすい高さに設置された水晶玉へと、ご老人を(いざな)う。


「これに触れれば良いのか?」


 と、水晶玉へと手を置くご老人。しかし、水晶玉は何の変化も(もたら)さない。


「申し訳ございませんが、この指輪はお譲り出来ません」


「何故じゃ! 何なら倍の金額を払おう! それなら、問題あるまい? 早よ、その指輪を渡すんじゃ!」


 と、強引に指輪を奪いにかかるご老人。


 オリーブはあきれ顔でため息を吐くと、魔法を発動する。


「ぐわっ! ぐっ……」


 その場に、(うずくま)ってしまうご老人。見ると、足の甲を『土針(アースニードル)』が貫通していた。


「こちらの指輪は、精霊師の証となっておりますれば、そうではない方へはお譲り出来ません」


「わ、わしは男爵じゃぞ! わしに、こんな事をして只で済むと思っておるのか!」


「どなた様であろうが、関係ありません。貴方様が爵位の件を持ち出すのであれば、こちらとしては侯爵様にお力添え頂きますが? では、お帰りはあちらです。私を襲った事は内密にして差し上げます。どうぞ、お引き取りを」


 と、言って正面の入口へと手を差し向けるオリーブ。自分より立場が上の侯爵が味方に居るとなっては、すごすごと退散するしかなかった……。


 指輪自体、精霊師にしか渡していない。それ故、爵位持ちの精霊師からは良いステータスとなり得ると、喜びの声が挙がった。


 今回来訪されたご老人も、自慢されたのが悔しくて指輪を求めたのだという事は容易に想像出来た。





 肩を落としたご老人が、入り口の扉を開ける。


 時を同じくして、母親と息子の親子連れが教会内へと入ってきた。


(次の方は、親子ですか……。となると、息子さんの方が精霊師なのでしょうね……)


 今度は冷やかしではなさそうだと、気持ちを入れ直すオリーブであった。

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