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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第4章

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第126話 シュヴァイゲンの悪魔

 待ちに待ったノックの音が室内に響く。


「は、入れ!」


 待たされた事による焦らされた気持ちが、声を上ずらさせる。程なくして、結果を持ち込んだ修道女(シスター)が入室する。


 黙ったまま静かに作業用机に近づく彼女。だが、結果を聞くまでもない。その表情を見ただけで分かってしまった。今回も期待通りの結果を得られなかったのだと……。


 枢機卿として配属されたビネガーが最初に行った事。それは、この枢機卿の執務室に設置された過去の施策の閲覧だった。


 その内容は、予想通りと言うべきか、市民である人々から、如何にして金を捻出するかというようなものばかり……。


 このままでは、人々の心は離れていってしまうばかりなのは明白。


 今現在、シュヴァイゲン王国を統治している現王であるアルフレッドⅢ世が稀代の善王であると人々に知られてしまっているからこそ、教会の悪政が浮き彫りになる。比べられる。


 ゆえに、歯止めしなくてはならない。このままではダメなのだ!


 人々に寄りそうような政策を! 日々の不安、後悔、祈りを聞き届けてあげられる受け皿にならなくてはならない!


 そう思い立ったビネガーは、人々が行き交う中央広場の一角に、教会からの掲示板を設ける事にした。新たな施策を打ち立てた所で、人々に知って貰えてなければ意味がないからである。


 掲示板を設置した当初、好奇心も相まって、掲示板の周りには数多くの人が群がった。


 人が群れている事が、更なる好奇心を呼び、人々の輪は大きくなる。


「この集まりは何なんですか?」


 輪の外周に居る人々は直接目を通す事が叶わない。だが、好奇心は抑えられない。ゆえに確認するより先に情報を得ようと隣の見知らぬ人に声を掛ける。


「なんか聞いた所によると、教会からのお触れみたい」


「なんだ。教会かよ……。また、どうせ金を巻き上げるとかそういうのだろ? もううんざりだ」


 集まった人々は、教会という名を聞いただけで、掲示板に貼られた布告に目を通す事無く離れていく。


 直接目を通した者は、今までの教会の施策とは違うという事に気付く。その在り方は、現王であるアルフレッド三世のやり方に近い。


 でも、どうせ口先だけなんでしょ?

 何か裏があるんでしょ?


 と、穿(うが)った見方をしてしまう……。


 ゆえに、ビネガーが新たに打ち出した施策は人々の心に響かない。


「結果は(かんば)しくないようです……」


 何度新たな施策を打ち出した所で、結果報告として挙げられる言葉は同じ言葉ばかり……。


 何故だ!?


 何故、俺のやり方は賛同されない!?


 思い通りにならない(いきどお)りは、行き場をなくし、作業用机を打ち付ける。だが、気持ちが晴れる事はない。


 だが、ここで諦めてしまっては、今までと変わらない。人々の心は教会から離れたままだ!


 布告で伝わらないなら、俺の気持ちを直接人々に伝えよう!


 ビネガーは、月に一度開催されるミサに集まった人々に、これからの教会の在り方を訴える。


 それと同時に、王宮にも人を回し、これからは王宮と教会。共に手を取り合っていきませんか? と、訴える。


 ビネガーは、お布施を払わなければ、懺悔の気持ちを聞き届けられない、今のやり方ではダメだと考えていた。


 だが、教会も慈善事業だけでは成り立たないのも事実。運営していく上で、どうしても金銭は必要になってしまう。


 ゆえに、王国へと歩み寄った。過去の経緯(いきさつ)は水に流して、これからは教会も人々の生活に寄りそう存在であるべきです。教会に祈り、懺悔の言葉を告げたくても、生活に困窮しているが為、教会へと足を運ぶ事を断念してしまう人も居るかもしれない。だから、今後は人々からお布施は取らない方針です。その為には、王国からの援助が必要不可欠になります! どうか! どうか! 今後は共に手を取り合っていきませんか? と……。






 だが、ビネガーの悪名は世に知れ渡っていた。


 少しでも早く、一段でも上に! 早く上に! と、手段を択ばず、周りにいる仲間を仲間と思わず敵と見なし、蹴落とす。


 ゆえに、誰もビネガーの言葉を信じない。


 ただ、現王であるアルフレッド王だけは聞き耳を立ててくれたものの、周りの内政官達は、こぞって反対の意を表す。


 王の期待に応えられない悲しみの瞳が、今でも脳裏に浮かぶ。







 カツカツカツ……。


 入室してきた修道女(シスター)が執務机の前へと至る。


「ビネガー様。今回も、結果は芳しくないようです。残念です……」


 そう告げた彼女は、唇を噛みしめる。もしかしたら、彼女だけが唯一ビネガーの理解者だったのかもしれない。




 ああ、そうか……。


 俺は、最早(もはや)善行など受け入れて貰えない存在となっていたのだな……。


 ならば、その存在であり続けよう。


『俺を受け入れなかったのは、お前たちだ!!!』


 心に悪魔が住まう事を容認したビネガーの瞳は、怒りで燃え上がる。





 のちに『シュヴァイゲンの悪魔』と称される事になる存在が、誕生した瞬間であった……。

文中に出てくる、教会と王国の過去の経緯とは、マルコ教が誕生するきっかけになった、第3章第99話『アルミラ教の不始末』の話になります。

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