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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第4章

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第122話 市街地を走る

「アルス様、先ほど幼精さんの声が聴こえるという事でしたが、それは本当なのでしょうか?」


「う~ん。やっぱり口で言っただけでは信じて貰えないよね。う~ん、そうだなぁ~。じゃあ、ベティが今、何をしているのか幼精さんに聞いてみる事にするよ」


「判りました。では、お願いします」




 暫し、また無言で歩く二人。


 だが、不意にアルスが立ち止まる。ニッキもアルスと手を繋いでいる以上、止まらざるを得なくなる。


 どんどん離れていく、ゼストとマーレの背中。


 ニッキがどうしたのだろう? と(いぶか)しんでいると、アルスが遂に口を開く。


「ニッキさん……」


「はい。何でしょう? アルス様」


「ベティが……。ベティスが、部屋で一人叫んでるようなんだけど、これって一体どういう事っ!?」


「そ、それは……」


 なんと答えたら良いのか分からなくなってしまうニッキ。


 人々が行き交う大通りのど真ん中で、暫し見つめあう二人。だが、その視線は対照的と言っていいのだろう。


 ニッキを問い詰めるが如く、射抜くように見つめるアルスの瞳。一方、アルスの力強い視線に晒されて泳ぎまくってしまうニッキの瞳。


 暫し無言の押し問答が続く。


 ニッキからは答えが得られないと悟ったのか……。はたまた、ベティスを想う気持ちが溢れてしまったのか……。居ても経っても居られなくなったアルスが、突然走り出す。


「えっ? えっ? えっ? アルス様! アルス様! 待って下さい!」


 どこに向かうのかが分かっているかのように、遠ざかっていくアルスの背中。アルスが走り去った方向は元々向かっていた方向とは逆方向な為、アルスを追い掛けるべきか、ゼストとマーレの二人に知らせるべきか、判断に迷ってしまうニッキ。


 その判断の迷いにより、アルスの後姿を見失ってしまう。直ぐに追いかけてさえいれば、アルスに追いつき摑まえる事も出来ていたであろう。


 だが、ニッキはメイドだった。自分自身ではそんなつもりはないが、普段から指示や命令をされるという境遇に慣れてしまっている。その常人とは違う生活環境がニッキの判断を鈍らせる結果を(もたら)していた。





 仕方ないとばかりに、残る選択肢であるゼストとマーレに知らせる為、アルスとは逆方向に走り始めるニッキ。


 暫くの間、アルスと立ち止まって話し込んでしまった事は確かだ。まだそれ程離れていない事を祈りつつ、ゼストとマーレの背中を追い掛ける。





「ゼストさん! マーレさん!」


 歩いている背中が見えた事で二人を呼び止める。二人もニッキの呼び声に気付き、直ぐに振り返った。


「ゼストさん、マーレさん、大変です! アルス様が……」


「アルス? アルスがどうかしましたか?」


「それが……。話すと長くなってしまうので、詳しい事情は走りながら説明します。アルス様はもしかしたら、エマール家へと行ってしまったかもしれません! 追いかけますので、付いてきて頂けますか」


 ニッキの問いかけに二人ともが顔を見合わせる。何の事情説明も無いがゆえ、どうしてそんな事にと首を傾げる。だが、見ると既にニッキは一人走り始めていた。二人も置いて行かれないようにと、慌ててニッキの背中を追い掛ける。


 もう寝具を買いに行くどころでは無くなってしまっていた。


 アルスに追いつく為、ニッキを先頭に走り始めた三人。だが、今居る場所は元々人口が多い王都の中でも、特に人が行き交う大通りである。二人に事情説明もしたい所ではあるが、人の波が邪魔をして、とてもではないが並走して走れるような状況ではない。


 仕方ないとばかりに、アルスに追いつく事を優先させる。





「すいません! 道を開けて下さい!」


 ニッキの叫び声に、行き交う人々が振り返る。見ると、声を上げている人がメイド服を着ているという状況に、更に驚く。しかも、その後ろには二人の男女が続く。


 なんだ? なんだ? 何かの事件か? と、ざわめきが広がる大通り。ただ、ざわめきが広がっていく事で自然と道を開けてくれるようになり走りやすくなっていく。


 だが、未だアルスの姿を捉えられない。


(アルス様は、エマール邸に向かったのでしょうか? でも、一体どうやって……。アルス様はエマール邸の所在地など知らないでしょうに)


 とはいえ、アルスが目指す先はエマール邸以外、あり得ないはずである。アルスがどのルートを通って行ったのかも分からない為、ひとまず最短ルートを選択するニッキ。到着した時に未だ辿り着いていないようであれば、今度は道に迷っている可能性もある為、別ルートを使って引き返す事になるのであろう。


 だが、その方がまだ良いのかもしれない。もし、アルスが何らかの手段でエマール邸の場所の位置を特定し、先に到着していようものなら大騒ぎになる可能性もある。それだけは阻止しなければならないと、どんどん人通りが少なくなる事で走る速度を上げていく。


「ニッキさん、先ほど言ってたのはどういう事なんだ?」


 貴族街とも呼ばれる中心街が近づいた事で、人通りが減り、並走出来るようになったゼストが問う。


 ニッキは走りながら、ゼストとマーレの二人に、アルスがベティスの今の状況を気に留めるようになった一連のやり取りを説明する。


 ゼストとマーレの二人はニッキの話を聞き、アルスが幼精の声が聴こえるといった点には疑問を抱かないものの、アルスが幼精に問えば、離れた場所の詳細な事も分かるのだという事実に驚きを隠せない。


 ただ、言われてみると思い出せる事がある。


 約二カ月程前の事になるが、奴と森の中で遭遇戦へと突入した際に、アルスはベティスを伴い、いきなりあの場に現れた。あの時は、意識が奴へと集中していた為、疑問にも思わなかったが、あの時もアルスは幼精から情報を得ていたのかもしれない。


「それで、ニッキさん。ベティスちゃんはアルスが言うように、どこかの部屋に軟禁されている状況なんですか?」


「そ、それは……」


 ニッキはマーレの問い掛けの答えに窮してしまう。話す内容としては、エマール家内の問題だ。それを、メイドとして雇われているニッキが、内部事情を許可なく勝手に話していい筈もない。ゆえに、返答に窮してしまっている訳だが、否定の言葉を口にしない以上、それは肯定しているのも同義であった。


 そんなやり取りをしていると、いよいよエマール伯爵邸を視界に収められるようになる。


 ここまでの道中では、アルスの姿を見かける事すらなかった。最短ルートを選択したゆえ、どこかで追い越してしまったのだろうか……?


 三人はエマール伯爵邸の正門で足を止めると、情報を得る為、門番として配置されているエマール家の私兵に声を掛ける。


「貴方たち、ちょっと良いかしら? ここにベティスお嬢様と同じ位の身長の男の子って来たりしたかしら?」


「ニッキさん。そんなに慌ててどうしました? えと、その少年でしたら、先ほどこちらをお通ししましたが……」


「何ですって!? ここを通してしまったの?」


「ええ。その少年は、ベティスお嬢様の名前も知ってましたし、大旦那様ともお知り合いのようでしたので……。通さないのは逆に問題になるかと思いまして……。お通ししては、まずかったんですかね?」


 門兵がニッキへと問い掛けるものの、ニッキへの耳には届いていない。


「そんな……。もう到着してしまっていたなんて……」


 ニッキはアルスが居るのであろう。エマール伯爵邸の窓へと視線を向けているのであった。

前回の更新から半年近くもお待たせする形になってしまい、申し訳ありません。

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