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第二十三話「再会」

 翌日の昼前、俺は使者から返答をもらえたという旨の報告を受けた。そして手紙を渡された。そしてその手紙を俺とセイコラ、将軍、フリーデンの四人で開く。


――――ヴァルタール王国軍 ジョージ・ダグラス殿へ

 停戦の件に関して話し合いをしたいということですが、こちらでも検討させていただいた結果、ぜひともその話に乗りたいということで返事をさせて頂きました。

 最速で今日の夕方ごろでしょうか? なるべく早くこちらに来ていただければ幸いです。                            

サイモン・ダグラス より――――


 これが弟から兄に渡す手紙なのだろうか? 志聞のメールなんて、帰りにアレ買ってきて、早く来いとかぐらいしか書かないというのに……。随分できた弟を持っているようで、ジョージ・ダグラスのことが羨ましい。

「よし、今すぐに向かうぞ。メンツはワシとダグラス、セイコラ。あとは護衛として第一大隊のうちB中隊を連れていく。フリーデンは待機だ。いいか?」

「「「了解です!」」」

 将軍の命令とともに俺たちはあわただしく出発の準備を始めた。


 準備を終えて俺たちは敵地ヴォルジュへ向かう。向かう最中、俺もセイコラも将軍も考えていることは一緒だろう。ここで失敗できないと。

 馬に乗る機会は増えたもので、以前のように恐る恐る掴まっていたのが今では堂々と、とまでは言えないがしっかり乗れている。流石に急に暴れ出したら困るけど……。

「ダグラス、交渉の策はあるのか?」

「ええ、一応ありますよ。」

 将軍から本当に大丈夫なのかと言わんばかりの質問を受ける。正直な話100%行けるとは思ってないが、アテは有る。

「向こうも戦争を続ける雰囲気なのか、微妙ですし。このまま停戦してから完全に終わりになる、ってシナリオがなんとなく頭の中にあるますよ」

「ほーん。ちょっと不安だなぁ」

 まあ確かにそうだけど……。あては二つ。一つは中身が変な高校生になった兄に同情してくれて、戦争を中断して戻る方法を一緒に探してくれるっていうシナリオ。もう一つは弟の方も、「俺」の弟の志聞になっている場合、一緒に停戦して戻ろうってのがある。兄弟で手を組んで停戦した後に、使命を果たしたということでジジイに帰してもらうってのが一番いい感じだな。ただ、どちらも他力本願な部分がかなり大きいが……。

「まあ、何とかしますよ。信じてください」

「任せるわ。よろしく頼む。セイコラも頑張ってくれ」

「分かりました」

 敵地に入っているのでとりあえず周りを見渡して確認してみるが、ヴァルタール王国の方と同様で、田舎の風景といった感じだ。木々の生い茂る山々が無限に広がり、川沿いに少し集落があって畑が見えるって様子で、あまり変わり映えはしない。あまり観察すると、国境のところで随伴することになったノース・ヴィジャーの兵士に咎められそうだから、そんなにじろじろと見ることはできないが……。

 幹線道路、といってもほとんどただの山道を二時間ほど進むと、市街地が見えて来た。アレがヴォルシュの街だろうか。

「ヴァルタール国軍の御一行様、前に見えますあの街がヴォルシュです。一応武器を持ち込むこと自体は禁止されておりませんが、周囲を威圧するような行為はお止めください。あと今は夕方ですからあまり問題ございませんが、夜間は夜盗が出るかもしれませんのでご注意を」

 敵軍の兵士が釘を刺す。

「周囲を威圧するねえ……。ってことは、将軍は顔自体が怖いから入れないな。オレとダグラスの二人で行くか」

「セイコラ。貴様、上官に対して何という口の利き方をしやがる」

 将軍の鉄拳が、セイコラの頭めがけて兜越しに振り下ろされる。

「痛いっすよ。冗談ですから」

「まあいい、とりあえず太刀は荷馬車の中に入れておこう。短剣は持っといてもまあいいか」

 俺たちは荷物を荷馬車に入れ、軽装で市街へ向かった。


「こちらがヴォルシュの庁舎です。一階の執務室の中に副総統たちは居りますので」

「そうですか。ありがとうございます」

 とりあえず敵軍の守衛を先頭に庁舎の中へ入る。中は若干明るいといったぐらいか。まあいかにも中世の建物と言った感じの内装だ。

 階段を抜けてドアの前に立つ、先に中に入った。

「ヴァルタール軍の人間が参りました」

「よろしい、中へ入れろ」

 どうやら中で応対している男は、言葉遣いからして少し横柄なようだ。まあお偉いさんだしそんなもんか。一呼吸おいて俺はドアを開ける。

「失礼します。ヴァルタール国軍のジョージ・ダグラスと申します」

俺に続いてセイコラ、将軍の二人も入る。

「同じく、国軍のシェベスチアーン・セイコラです。よろしくお願いします」

「国軍のキム・スヴェードバリです。よろしくお願いします」

 とりあえず中に入って相手の様子を探る。真ん中に若い男、多分アイツがジョージ・ダグラスの弟、サイモン・ダグラスだろう。んで右隣が白髪の大男……、アイツは前会った奴だ、カール・ヴァルゴーダか。んで左隣の男は見たことないが、長身痩せ型で金髪の四十近い風貌。まあお偉いさんであることに間違いないだろう。

「とりあえず座ってくださいよ。ジョージ殿は弟のサイモンの前で、スウェードバリ殿は年の近いヴァルゴーダの前へ、余ったセイコラ殿は私の前へどうぞ」

 左隣の男が言う。なんか丁寧な口調のわりにとげとげしい感じがする。

「余ったって……。まあいいですけど」

 セイコラが愚痴を言いつつ座る。それと同時に俺も将軍も席についた。

「それじゃあ、始めましょうか。兄貴、いやジョージ殿」

 目の前に座る弟がいきなり本題に入ろうと話しかけてきた。ジョージ殿と言い直したのは中身が「俺」でなくジョージ・ダグラスだと思った志聞の判断なのか、もしくはサイモンがジョージ・ダグラスに話しかけている体なのか。それはわからないが……。

「とりあえず、ハンプス・ヨハンソンを処刑したから停戦してほしいとのことでしたが、これに関しては本当にされたんですね?」

「ああ、ワシが首を持って参りました」

 将軍が荷馬車から降ろしていた桶のようなものを出す。中には斬首されたヨハンソンの頭部が入っていた。まだ腐り切ってはいないが、塩漬けにされているとはいえ異臭が酷い。

「ありがとうございます。こちらとしては、戦う理由の一部がなくなりましたからね」

「いいんですかサイモン、もしかしたら別人の可能性が……」

「まあ大丈夫でしょう。一応こちらで身元の確認もさせて頂きますから」

 どうやらこの弟、かなりどっしりした態度を取ってやがる。二十代とは思えない貫禄だ。見た目的にはそんな大したことないが、言葉の一部一部からそんな雰囲気が感じ取れる。

「まあそれに関してはここまででいいでしょう。後は領土の切り分けぐらいですね。おい、アンタらの命だけは助けてやるから安心しろよ」

 と、敗軍の将を見るかのような目つきで見下す彼。

「あくまでも停戦ですので、悪しからずご了承ください」

「そうですよ、ヴァルゴーダ殿。まだ引き分けの段階ですから」

 俺とサイモンが同時に窘めると、引き下がったかのようにバツの悪い表情になる。とにかく、弟は話の分かるやつのようで助かる。

「そ、そうですね。サイモン様が言うのであれば致し方ないですね」

 五十近いおっちゃんが二十前半の若造に敬語とは……。なんというか色々触れ辛いな。

「停戦中に攻め込んでこないのなら何も文句は言いませんよ。国境沿いの兵士を一旦引き上げる余裕ができたら、こちらもありがたい限りです」

「そうですね。私どもとしても、これ以上兵士が疲れていくのを見過ごすわけにはいきませんからな」

 と、サイモンと金髪男。こちらとしては、一時停戦してそのまま和解して欲しいけど、ヴァルゴーダの話からしてちょっとそれは難しいのだろうか……。

 この後も一時間ほど、戦闘の情勢を話し合いつつ具体的な方針を詰めていった。とりあえず国境近くには警備の兵士を少し置くだけにして、遠征師団は一ヶ月以内に撤兵という方針が決まった。つまり、ノース・ヴィジャーの半独立状態を是認することとなった。

「まあこんなもんで終わりにしましょう。もうちょっと遅めですが夕飯にしましょう。二階の聖堂の方で食べていってください。随伴されていた兵士の方々の分もございますので」

 サイモンの厚意により、飯を食ってから帰れることになった。敵地である以上油断はできねえが、とりあえず感謝しておくか。

「ありがとうございます。ワシらはこのまま帰ったら朝にヴェルメッタに着くぐらいですからね。流石に飯抜きで徹夜の行軍はしんどいですから非常にありがたいです」

 将軍が慇懃な態度で礼を言う。目が笑っていないようにも見えたが、恐らくそんなことはないと信じたい。

「あ、それと兄……。いやジョージ殿はもう少しここに残ってください。二人で話したいことがあるので」

「……なんでしょうか」

 他の四人が晩飯を食いに行こうと部屋を出るが、俺だけはそうはいかないようだ。二人で話し合いたいこと? まあ色々と俺も話すことはあるし、いいだろう。

「ジョージ殿の分は別で下から持って来ておりますのでご安心ください。それでは私たちは兄弟水入らずで楽しませてもらいます」

 そう言って四人が部屋を出る。目の前には侍従と思しき人間が持ってきた豪華な食事がある。何から手を付けようか。

「二人で話し会う時が来たな。兄貴、いや黒川譲次」

 と、声色を変えてサイモン、いや、志聞が俺に言う。

「お、お前は志聞なのか?」

「そうだ、俺は弟の志聞だ。俺も多分兄貴と同じようにここへ来たんだ」

 俺の予想ってのは二つ目の方で合っていたようだ。これで、帰れる、帰れるんだ!

「志聞! ここからもう帰れるんだ! 俺たちは停戦をすれば帰れるんだ!」

 興奮気味に俺は言う。もうこの国に平和は訪れるはず。ならば、使命は遂げた俺たちは快く帰してくれるはず……。

「停戦? 兄貴、何言ってるんだよ。俺にも策があるんだ」

 と、志聞が俺の方を真剣な目で見つめる。要するに、俺の提案に乗れないってことか、何を考えているんだろうかコイツは……?

「兄貴、ヴァルタール国軍を抜けて、こっちに来てくれねえか。一緒に勝ってこの戦いを終わらせよう」

 突然の話に思考が追いつかない。なんで俺がそっちに行かないといけないんだ。

「なんでだよ志聞! 和平をしたら俺たちの使命は終わりのはずじゃ」

「いや、ヴァルタール王国はもう腐っている! ヨアキム王を廃して、ニコライ総統の下でこの国を再編、いやこの大陸中を再編しよう!」

 なんでだよ、コイツはなんて壮大なことを考えているんだ。

「なんでそんなことをしようとするんだ」

 サイモンはグラスの中の水を飲み干した後、ゆっくりと話し始める。

「もう俺はこの世界から戻るつもりはしばらくない。このまま、ニコライ総統と新しい世界を作るんだ! そのために兄貴、力を貸してくれ」

 と、神妙な面持ちで俺に問いかける志聞。何というか

「そんなこと言ったってよ、帰るつもりはないのか? お前は戻って学校に通うつもりはないのか?」

 俺は志聞の痛い所、現世での未練について指摘してみる。まあ、これで考え直すんじゃないのか?

「まあそれも大事だけどよ。俺にも使命ってのがあるって爺さんに言われたんだ。だからそれを果たしてからでも遅くないんじゃないかって」

 爺さん? まさかあのクソジジイ、弟に変なことを吹き込んだのか?

「馬鹿野郎! 目を覚ませ志聞! あのジジイのいうことを信じるな!」

 もし俺が三か月以上ここに居たら、そのまま死んでしまう可能性がある。それだけは避けないと。

「まあ落ち着けって兄貴。それにさ、この世界ならもう肘も治ってるだろ。このままこの世界に居た方が自分にとってもいいんじゃないか?」

 弟に言われ右肘を見る。確かに剣を振るときに違和感や痛みは全くないし、傷跡も全く残っていない。だがそういうわけにはいかない。

「それに兄貴、俺実は今歩けねえんだ。それでも使命のために生きようって決めたんだ。頼む、協力してくれ」

 歩けないということを確認するため、俺はテーブル越しに志聞の方を見る。見た感じ気付かなかったが、車いすのようなものに座っているしその可能性が高い。

「総統から聞いたんだ。俺、というかサイモン・ダグラスは、二十歳の時に戦闘で足を負傷し歩けなくなったって。それ以来、六年近くこんな感じらしいわ。でも、サイモンって奴も必死に生きて来た。この国のために使命を果たすってことでな。だから俺もこっちに来てからは戸惑ったけど、必死にこの世界のことを勉強してきたんだ。だから、こうして今兄貴に頼んでるんだ」

 必死に努力した弟と、ただただ流されてきた兄貴。神がどちらを選ぶかと言えば前者だろう。でも俺にも流される中でいろいろ得た物がある。セイコラや将軍と言った頼れる仲間や、ローランドみたいな頑張っている後輩たち。こいつらを裏切って弟につくってのはさすがに気が引ける。

「わりいけど志聞。お前の案には乗れねえ。俺には俺の道ってのがあるんだ。時間もそろそろ出し帰らしてもらおうか」

「そうか兄貴。悲しいぜ。後から後悔しても知らねえからな」

 将軍たちが飯を食い終わって外へ出るのと同時に俺も部屋を出た。多分これが今生の別れとなるのかはわからないが、一歩間違えばもう二度と会うことはないことに違いはないと確信した。帰り際にじゃあなと言った後、俺は現世で俺の味わった苦しみをここで代わりに味わっている車いすの上の弟に声を掛けることができなかった。


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