魔女「13番目」
【+①】は、会社である。
その歴史を遡れば、たどり着くのは魔女狩り全盛期の暗黒時代。ざっと100年ほど昔にあたるだろうか。
これがちょうど魔女の衰退期に重なって(周期的におこる原因不明の現象なんだって)、力ある魔女たちが急激に減り抵抗できなかったのだそうな。
そんな中、当時細々と趣味の季刊誌を発行していたに過ぎないとあるグループが地下組織を作った。
目的はもちろん「魔女の地位向上」。そのために組織は権力者に恩を売り、弱みを握り、財力を削ぎ、なおかつ自分たちが潤う方法を考えた。それはずばり、表に出せないお悩み解決! だから要求する対価は常に「その国の国家予算と同額の現金」。
あこぎな商売に聞こえるけど、追いつめられた人間って何にでも縋っちゃうらしいから。お蔭さまで景気良いみたいです。私、新人なんで経理の方はまだよくわかんないけど。
魔女としても新人な私がこの会社に籍を置き、いやしくも「13番目」の名を頂戴しているのにはこれまたふかぁい訳がある。まぁちょっとそこに座って私の身の上話でも聞いておくれ。
だいぶやさぐれちゃいるものの、こう見えて私は貴族の出である。早くに父を亡くしたが不幸中の幸い、生活が成り立たないほどの困窮はしなかった。母と妹と女三人つつましやかに、たまの贅沢くらいなら許されるくらいの生活を送っていたのだ。
あぁ、今思えばあの頃が一番幸せだったなぁ……。
ある日、母が再婚すると言い出した。
お相手は、当時巷でよく「成金」と陰口を叩かれている男性だった。私も妹ももちろん反対しましたとも。だってあっちは前の奥様が亡くなってまだ半年も経ってないっていうんだから。
絶対、ぜ~ったいに情の薄い男に決まってるって主張したんだけど。でも、「あなた方の縁談に少しでも有利になるかもしれないから」と母は主張して、折れてくれなかった。
母の再婚相手には妹より年下の娘さん(しかもすっごい美少女!)がいて、この子とうまくいかなかったのがケチの付き始め。
ま、お互いこの縁談に良い顔してなかったからね。こっちは「薄情男」、あっちは「金目当て女」と、お互い相手の親を色眼鏡で見て反発しあってた。
でも、表立って嫌がらせするほどお互い子供じゃないし。幸いお屋敷は広かったから、合わないなら合わないで距離を保てば問題なく過ごせる、と思ってたんだよねぇ。
いやぁ、まさか私たちの身に覚えのない悪評流してくれてるとは。
考えてみれば元々彼女の生まれ育ったお屋敷なんだから、召使から執事に至るまで彼女の味方なのは当たり前だよね! あっはっは、勝ち目のない勝負しちゃってたわ~。(自覚なかったけど)
家事全部やらせてるとか屋根裏で寝かせてるとか燃え残った灰で暖を取らせるとか、ねーよ! なんのために召使がいると? 大体、そこまでやったら父親がとめるでしょーが、ふつー。
しかも! 運の悪いことに義妹はなんと魔女だったのです!
ま、あっちが一枚も二枚も三枚も上手で、あれもこれもぜ~んぶ、終わった後に気が付いたんだけどさ。
小動物を操る魔法を駆使してちまちまとセコイ小細工を弄した結果、彼女はとうとう王子様と結婚することになりましたとさ。めでたしめでたし。
……だけでは終わらないのが彼女の恐ろしいところよ。
義妹は、公衆の面前、それも自分の結婚式でやらかしてくれた。嫌々付き添いに立った私と妹、二人を小鳥に襲わせて目をつつき潰すという凶行。
エグくない? ってゆーかハレの日にそんな血なまぐさいことするか、フツー? やっぱオカシイよね? アイツヤバイよね?
で、まぁ片目(町の噂じゃ両目ってことになってたけど)を潰されて悪評にまみれ、世間に合わす顔も生きる気力も失った私たち姉妹が死に場所求めて彷徨っている最中、出会ったのが先代の「13番目」だったわけよ。
彼女は私たちの身の上を根掘り葉掘り聞いたうえで、心底おかしそうに笑ってこう言った。
「人生で一番美しく、幸せであっていいはずの時期に、あんたたちはこんな目に遭った。まさしく魔女の運命だね。本物の魔女よりもいっそ魔女らしいよ」
……心を抉る言葉だと思わない?
仮にもさ、一応貴族の端くれに生まれてそれなりに器量よしと言われて、まぁ王子さまとは言わないまでもそれなりの殿方との恋を夢見てた娘たちにさ。どん底に落ちた小娘たちにむかって言うセリフじゃないよねぇ。
しかもさ、それを言ってる本人が絶世の美女なの。氷の彫刻と見紛うような銀の髪、生気に満ちたバラ色の頬、肉感的な唇、なにより夕日のように煌めくあの気の強そうな瞳。
なんの嫌がらせか、と。
「ほら、猫に愚痴るのはおしまいにしな、灰かぶり。会議が始まるよ」
「すみません、右目が疼くんでその呼び方やめてください……」
ん、じゃぁ行くわ。つきあってくれてありがとね。
「にゃぁん」




