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第ニ十七話:魔王との商談、あるいはボッタクリ傭兵団の結成



 魔王城『パンデモニウム』。

 その最上階にある謁見の間は、今日も重苦しい空気に包まれていた。

 ……はずだった。


「――というわけで、陛下。お金をください」


 俺――ヨリシロ伯爵は、玉座の魔王ゼノンに向かって右手を差し出し、満面の笑みで言い放った。

 側近たちがザワつく中、魔王は呆れたように頬杖をつく。


「……ヨリシロよ。貴様、領地を与えられ、伯爵位まで授かったばかりであろう? 早々に無心に来るとはどういう了見だ」

「誤解しないでください。恵んでくれと言っているわけじゃありません。これは『商談』です」


 俺は隣に控えるガランドに目配せをした。

 ガランドが一礼し、一枚の地図を広げる。そこには、人間界との国境付近にある紛争地帯が赤くマーキングされていた。


「現在、我が軍と人間界の聖騎士団が膠着状態にある『北壁戦線』。……ここを突破できずに手を焼いていると伺いました」

「うむ。聖騎士団の張る結界が強力でな。我が軍の主力であるアンデッドや悪魔族では、近づくだけで弱体化してしまうのだ」


 魔王が不愉快そうに鼻を鳴らす。

 相性は最悪。攻めあぐねている状況だ。


「そこで、僕たちの出番です」


 俺は胸を張った。


「僕と、僕の愛する妻たちを『傭兵』として雇っていただきたい。期間は短期集中、報酬は成果払い。敵の防衛線を食い破り、聖騎士団を壊滅させてみせます」


 俺の提案に、魔王の目が鋭く光った。


「……ほう? 貴様の妻たちは『聖なる力』が苦手なはずだが?」

「ええ、大嫌いです。火傷もしますし、機嫌も悪くなります」


 俺は平然と答える。


「ですが、『通じない』わけじゃない。僕というフィルター(肉体)を通せば活動可能ですし、何より彼女たちは、聖なる加護を『理不尽なルール』で強引にこじ開けることができます」


 俺は指を折って数えた。


「物理無効の幽霊、背後への強制転移、異空間への引きずり込み、そして問答無用の切断攻撃。……教科書通りの戦いしか知らない聖騎士たちにとって、彼女たちは悪夢そのものでしょう」


 魔王は沈黙し、俺をじっと見つめた。

 値踏みしているのだ。

 俺の言葉がハッタリか、それとも勝算のある狂気か。


「……面白い。だが、タダというわけにはいくまい? 対価は何だ」

「まずは、領地の食料支援です。我が領民(影食い族)のための特殊な食材ルートの確保をお願いしたい。それと……」


 俺はニヤリと笑った。


「特別手当として、敵の司令官クラス一人につき金貨一千枚。城塞一つ落とすごとに一万枚。……さらに、戦場で手に入れた物品の略奪権もいただきたい」


「なっ……!?」


 側近の一人が声を上げた。


「法外だ! 正規軍の将軍ですら、そんな報酬は貰っていないぞ!」

「ですが、僕たちは正規軍じゃありませんから」


 俺は悪びれずに肩をすくめた。


「福利厚生もなければ、退職金もない。命がけのフリーランスなんです。これくらい貰わないと割に合いませんよ。……それに」


 俺は声を潜めた。


「もし僕たちが失敗して全滅しても、魔王軍の被害はゼロです。『雇った人間が勝手に暴走して死んだ』で済ませられる。……どうです? 悪い話じゃないでしょう?」


 リスクは俺たちが負う。魔王軍は金を払うだけ。

 政治的にも使い勝手のいい手駒だ。


 魔王はしばらく天井を見上げ、そして――盛大に噴き出した。


「ブッ……ククク、ハハハハハハハ!」


 玉座が揺れるほどの哄笑。


「良い性格だ! 貴様、本当に人間か? そこらの悪魔よりよほど強欲で、合理的ではないか!」

「愛する家族を養うためですので」

「よかろう! その商談、乗った!」


 魔王が膝を叩く。


「ヨリシロ伯爵家を、魔王軍直轄の『遊撃隊』として認定する! 北壁戦線へ向かえ! 貴様らの狂気で、聖騎士どもの綺麗な顔を恐怖で歪ませてこい!」

「仰せのままに、陛下」


 俺とガランドは深々と一礼した。

 商談成立だ。


 ***


 謁見の間を出た俺たちは、長い廊下を歩いていた。

 ガランドが感嘆のため息をつく。


「……まさか、あそこまでふっかけて通るとは。閣下の交渉術には恐れ入ります」

「相手が魔王様でよかったよ。話が早くて助かる」


 俺は契約書の写しを懐にしまった。

 これで当面の資金繰りは解決だ。あとは、現場で結果を出すだけ。


「ガランド。君は領地に戻って、留守を頼む。シズたちと協力して、毒キノコの栽培と、次の『商品』開発を進めておいてくれ」

「おや、私は戦場には同行しないのですか?」

「君にはもっと重要な仕事がある。……この契約で得た資金を元手に、魔都の経済基盤を固めるんだ」


 俺はガランドの肩を叩いた。


「戦いは僕と妻たちだけで十分だ。君は『内政の要』として、僕たちが帰る場所を守ってくれ」

「……承知いたしました、閣下。この老骨、粉になるまで働かせていただきます」


 ガランドが嬉しそうに眼窩の炎を燃やす。

 適材適所。

 戦闘狂の妻たちには戦場を、研究熱心なガランドには開発と経営を。

 ヨリシロ伯爵家は、今日も効率的に(そして狂気的に)回っている。


「さて、みんな。出稼ぎの時間だ」


 俺は屋敷で待つ妻たちに思いを馳せた。

 久しぶりのデート(殺戮)。

 きっと彼女たちも、お腹を空かせていることだろう。


 目指すは北の最前線。

 人間界にとっての悪夢が、いよいよ国境を越える。

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