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『やっと見つけた』  作者: 貝原陽菜


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七章 幼い少年

「はぁ……ここはこうしたらいいと思ったんだけど……もう少し調べないとな……」

 ボクがいつものように寝不足で頭痛に悩まされながら研究室に籠っていると、廊下から走ってくる音が聞こえてくる。面倒ごとに巻き込まれなければいいなぁ……なんて思っているとバンッ!と扉が勢いよく開いた。

「クイン君!」

「……何?三徹明けで本当に眠いから用件は短めにお願い」

 本当にこいつはすぐ問題ごとを持ってくるんだから……こっちは今すぐにでも寝たいのに。

「君によく似た少年を拾った!」

 あぁ、またしばらく眠れなさそうだ。

 意識を飛ばしながら、ボクはそう思った。


 三十分ぐらい寝て、ある程度頭が働くようになったボクはルーカスの方を見る。

「……それで、この子はどこで拾ってきたの?」

「それより大丈夫か?思いっきりぶっ倒れたが」

「意識を飛ばしたら頭が少し軽くなった」

「それを人は気絶というんだよ。何日寝ていないんだ?」

「まだ三日しか徹夜してないよ、まだいける」

 ボクの答えにルーカスはため息をつく。

「倒れるには十分だろう……あとでちゃんと寝るんだぞ」

「分かったって、とにかくこの子はどうしたの?」

改めて聞くと、彼は本題を思い出したらしい。

「あぁ、そうだった。実は研究所の前でオロオロしていたもので……君に弟がいるのかと」

「ボクは二人兄妹だよ。弟はいない」

「だったよなぁ……」

 学生時代、兄妹の話になった時があった。その時には既に両親を亡くしているのだから年の離れた弟なんて出来るわけもない。

 それにしても、本当にこの少年はボクに似ている。ルーカスが聞きたくなるのも分かる気がする。

 ボクが少年の前にしゃがみ込み、「君、名前は?」と尋ねる。

「……え、えっと……ドラセナ……です」

「ドラセナ君か、ご両親は?」

「い、いない、です……」

「孤児かな……どうしよう……」

 子供に対する接し方なんてずっと研究室に籠っているボクが知っているわけがない。うーん……困った。

「ルーカス、君がいた孤児院に連絡できる?さすがにここで子供の面倒は見ること出来ない」

「いや、私達で見よう!」

「は?」

 ボクの言葉を聞いていたのか?こいつ。

「そんな冷たい目で見ないでくれよ」

「そりゃあ……ここが危険な場所だって分かってるでしょ?ボクだって毎日家に帰ってるわけじゃないんだし、こんなところに幼い子を置いておくわけにはいかないよ」

 ここがただの職場で、なんの問題もないならまだ受け入れる。でもそうではないのだ。

 ここは人体実験を平気でやってのけるような場所だ、何をされてしまうか分かったものではない。本当はルナだって受け入れるか悩んでいたほどなのだ。だからこそ、ルーカスがかつてお世話になった孤児院に預かってもらった方がいいんじゃないかって提案しているのに。

 チラッとドラセナ君の方を見る。彼の瞳からはどこか怯えているような、それでいて強い意志のようなものを感じた。へぇ、気弱そうな子なのにそんな目ができるのか。

「クイン君、どうした?」

「いや……まぁ、いいよ。ボクが面倒見る」

「おや、どういう心変わりかい?」

「見たら分かるんじゃない?」

 ボクの言葉を聞いたルーカスがドラセナ君を見ると「あぁ」と納得したようだった。

「確かに、君が好きそうな瞳だな」

「え、えっと……」

「あぁ、すまないね。この人が君を引き取ってくれるって」

 戸惑っているドラセナ君と目線を合わせるようにルーカスがしゃがみ込む。

「ほ、本当?」

「本当だとも。このお姉ちゃんは頼りになるからね」

 親友が頭を撫でると、ドラセナ君はニコッと笑顔を浮かべた。少しは心を開いてくれただろうか?

 ボクがホットミルクとコーヒーを準備していると、「ぼ、ぼくもお手伝いしましょうか?」とドラセナ君が近付いてきた。

「大丈夫だよ、座ってて」

 それにしても、ここにはお菓子すらないのか。誰だここの部屋の主は……ボクだったわ。

 久しぶりにお菓子でも作ろうと材料を見るけど、調味料すらない。うーん、ボクって一体どんな生活をしていたんだ?……エラルドさんとエリゼオさんが作ってくれるからそれに甘えていたんだった。

「もしかして、ボクの生活っておかしい……?」

「うん、君の生活は私から見てもかなり異常だよ」

 お菓子でも買ってこようかー、と出かける準備をしながらルーカスが告げる。

「ついでに必要最低限料理出来るぐらいの材料も買ってこようかな……」

「そうした方がいいぞ。子供もいるんだからな」

 料理は出来ないことはない。でも研究に没頭したくてどうしても片手で食べられるものばかり買ってしまうのだ。……まぁ、だからこそエラルドさんとエリゼオさんが来るようになったんだけど。

「出かける用意してて。車持ってくるから」

 今日は大荷物になるから車は必須だ。久しぶりに運転するけどまぁ大丈夫だろう。たまーにうちの使用人が動かしてくれているし。事故さえ起こさなければどうにでもなる、うん。

 エンジンをかけ、特に問題がないことを確認した後研究所の前に持ってきた。

「お、久しぶりだな」

「基本買い出しは月一だからね。車の運転もあんまりしないよ」

 そんな会話をしながら、二人を車に乗せる。思えばこうやって誰かと車に乗るのも久しぶりだ。

「よくドライブしたなー」

「フフッ、そうだね」

 免許を取ったばかりの頃、よくルーカスやルイスと一緒にドライブに行っていた。あの頃はまだ研究所に潜入する前だったし、時間があったから。

 今じゃ、ボクの方が時間ないからなかなかドライブにも行けないけど。

「たまには海でも見に行きたいな」

「そうだね。ドラセナ君も海見に行く?」

「い、いいんですか……?」

 ボクの提案に少年は目を輝かせる。海が好きなのかな?

「クイン君はいつが休みだい?」

「うーん……確定は出来ないかな。研究次第だし」

「では、予定は?」

「今度の水曜日かな……土日は論文の提出をしないといけない」

「おや、それはまた大変だね。何か手伝おうか?」

「それなら、実験に付き合ってもらおうかな」

 ボク達の会話に、ドラセナ君はついていけないのか目を丸くしている。それに気付いて「あぁ、ごめんね」と謝った。

「いえ、大丈夫です。……クイン、さんは頭いいんですか?」

「ん?まぁ、研究者だからね。それなりには頭いい自信はあるよ」

「このお姉さん、学校では常に首位だったんだよ」

 いやルーカス、それは言わなくていいんだよ。頭いいのは貴族として当然なんだし。

 ドラセナ君は目を輝かせながらボクの方を見ている。うぅ……恥ずかしい……。

「じゃ、じゃあ、勉強教えてほしいです」

「ま、まぁ、それぐらいなら」

 別に勉強が嫌いなわけじゃないから教えるぐらいなら時間ある時にでも出来る。何ならドラセナ君の年齢の学習なら研究の片手間にでも教えられるだろう。

「えへへ……お父さんとお母さんも頭よかったから、ぼくももう少し勉強したくて……」

「そうなんだね。知識はあって困るものじゃないし、いい心がけだね」

 この子の両親は彼を本当に大事にしていたのだろう。ここまで素直に親を慕うことが出来るのはこの子の性格もあるだろうが、両親が愛情いっぱいにこの子を育てていたからだ。

「どうだい?この子を本当の助手にする気は?」

「……考えるよ」

「おや、好感触だね。よかったじゃないか、ドラセナ君」

 ルーカスがドラセナ君の頭を撫でると、彼は嬉しそうに笑った。


 必要最低限の日用品を買って車に詰め込むと、ドラセナ君の方からぐぅ……と音が聞こえた。

「おなかすいた?」

「は、はい……」

「それなら君の知り合いが経営しているレストランに行くかい?」

「そうだね」

 せっかく近くまで来たのだし、顔を出すのもいいだろう。あの二人なら子供用に料理も作ってくれるだろうし。

 そう思って、三人でエラルドさんとエリゼオさんのレストランに向かう。

「いらっしゃいませー!……おや、クインさんにルーカス君ですか。珍しいですね、こちらに顔を出すなんて」

「こんにちは、近くを通ったのでお昼ついでに顔を出そうと思って」

「そうだったんですね。エリゼオ、クインさんが来ましたよ」

 エラルドさんが厨房の方に声をかけると、エリゼオさんがヒョコッと顔を出した。

「よう、いらっしゃい。……そっちの子供は?」

「ボクの助手になったドラセナ君ですよ。この子の日用品を買いに来たから顔を出そうと思って」

「そうだったんだな。まぁ、ゆっくりしていけ」

 エリゼオさんがドラセナ君の頭を撫でると、少年は嬉しそうに笑顔を浮かべた。意外と人懐っこいのかもしれない。

「いい子ですね。何が食べたいですか?」

「ボクはいつもので。二人は?」

「私はこれにしようかな」

「ぼ、ぼくはオムライスがいいな……」

「分かりました、すぐに作りますね」

「あ、プリンも三つ頼んでいいですか?」

「もちろんですよ」

 それぞれ注文し、エラルドさんが奥に引っ込んでしまう。

「いやー、本当に二人はいい人だな。君が見込んだだけはある」

「そりゃどうも。……あぁ、あの二人は料理人さんでたまに研究所に来てくれるんだよ」

「そうなの?」

「このお姉ちゃん、数日何も食べないってことも多いからな。ちゃんと見ておくんだぞ」

「うん!」

 ルーカス、だからそれは言わなくていいんだって。

 そう思うけど、事実だから言い返せない……。だって実際、今日も三日徹夜で食事も二日抜いてるし。コーヒーがおいしいのが悪いんだ……。

「いいかい?コーヒーしか飲まなくなったら絶対に寝かせるんだよ」

「分かった」

 分かったじゃないよ?

 いろいろ言いたいけど、その前に料理が来てしまった。

「楽しそうな話をしていますね。料理が出来たので持ってきましたよ」

「わぁ……おいしそう……」

 エラルドさんがドラセナ君の前にオムライスを置くと、彼は目を輝かせた。卵の真ん中にクマさんを描いてくれていて、気を遣ってくれたことが分かる。

「これ、エラルドさんが描いたんですか?」

「いえ、エリゼオが描いたんですよ。上手ですよね」

「えっ!?エリゼオさん、こんなかわいらしい絵を描けるんですか?」

 意外だった、料理の腕は確かだけどまさか子供向けにこんな可愛い絵も描けるなんて。

「なんか失礼なこと考えていないか?」

 エリゼオさんが厨房から顔を出す。なんかごめん……。

「黒いお兄さん、このオムライスおいしい!」

「そうか、それはよかった。エラルドのプリンも絶品だぞ」

 ドラセナ君が笑顔で告げると、エリゼオさんも優しくその頭を撫でた。うーん、兄弟みたいで癒される……。

「いいですねぇ。弟分が出来てエリゼオも嬉しそうです」

 どうやらエラルドさんも同じことを思っていたようだ。この空間だけほわほわしていてなんと言うか……これが「尊い」というものか……なんて変なことを思ってしまう。

 そんなことはさておき、今誰もいないからとルーカスと研究の話をする。

「そういえば、最近研究所の様子がおかしいんだよね」

「おや、そうなのかい?」

「うん。ほら、この前研究を発表したでしょ?その時にお偉いさんと取引しているみたいだった」

「取引……?」

「ろくでもないことだと思うよ。それこそ、奴隷を仕入れようとしているとか。いい噂を聞かない人だったからね」

 ボクの言葉にルーカスは嫌悪感を隠すことなく顔を歪める。こんな反応するのも理解出来るから咎めることはしないけど。

「次は、その奴隷?がどこから連れてこられているか探ることかな……潜入出来るかなぁ……」

「大変だな……私も手伝おうか?」

「そうしてくれると助かるかな……あとはケネスさん達にも協力を仰いで……」

「私達も手伝いますよ」

「いいんですか?」

 今回の任務は本当に骨が折れる……。協力してくれるならかなり助かる。

 こういう時、ネグロがいてくれたら……とは思うけれど、彼をこの世界から解放したのは自分だ。幸せに生きてくれたらそれだけでいい。

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