八章 潜入捜査
「おー、似合っているじゃないか」
数日後、久しぶりに家のクローゼットから潜入服を取り出して着てみるとルーカスにそう言われた。
「目立たないようにしたいからね。あとはカラーコンタクトかメガネか……」
「このウィッグは?」
「この間、ほかのところに潜入した時に使ったものだよ。別人になるから重宝してる」
ボクの家には潜入用に保管しているウィッグや服、小物類がたくさんある。油断させるために女性用の動きやすく暗器を隠せるドレスや気弱そうな雰囲気の出せる男性用の服……今回の研究所の白衣も実はそのうちの一つだったりする。
そんな生活をしているからか、もちろん研究も大好きだけどほかのことも答えられるようにある程度かじっている。
「す、すごいですね……」
ドラセナ君も扉の隙間から覗き込んでいる。気にしないで入っていいのに。
それはさておき、鏡の前でメガネにするかカラーコンタクトにするか悩んでいると「こ、これとかいいんじゃないですか?」といつの間にか入ってきていたドラセナ君がメガネを渡してきた。
「……確かに、これなら目立たないかも」
よく分かっているな、なんて思いながら少年の頭を撫でる。
少し過ごしただけでも分かる。この子は……どういうわけか、ボクのことをよく知っている。かといってスパイだとかそう言うものではなく、まるでずっと見てきていたから知っているような、そんな感じだ。
(本当に不思議な子だよなぁ……)
急に目の前に現れたかと思ったら自分のことをよく知っているのに敵対しているわけではないのだ。……これでスパイなら、本当に大したものだ。
(でもこのセンス……どこかで……)
ドラセナ君のセンスが誰かに似ていたけど、思い出せない。誰だったかな……。
「クインさん?」
「ん?あぁ、ごめんね。少し考え事してた」
安心させるように笑う。実際、どうでもいいことを考えていたから彼が気にすることもない。
「ドラセナ君、気にしなくていいよ。この顔の時のクイン君はどうでもいいことを考えている顔だ」
「そ、そうなんですね」
「ところで、私達は何をしたらいいんだ?」
「あぁ、そうだね」
そういえば今回のことについて何も話していなかったことを思い出す。
「今回はいわゆる奴隷市場のところに潜入するんだ。ボクは外国の貴族令嬢、ルーカスはその従者という設定でいこうかなって思ってる。ドラセナ君は……」
「ぼ、僕も行きたい……」
「……ボク達から離れないようにね。危険だから」
今回の任務はどこから人を連れてきているのか探るために裏社会の市場に潜入する。そこならお金さえ払えば身寄りのない人や外国の人を簡単に連れてこられるだろう。
(本当に……酷い話だけどね)
こればかりは、ボク達貴族が問題を先送りにしてしまっていたのが悪い。だからせめて、その責任は取る。それは兄も、クリムさんも同意見だ。
(この問題が終わったら国王に人権のことについて提言しようか……)
そんなことを考えながら、ドラセナ君の服を決めていく。
「……これなら、ボクの弟という設定でいけるんじゃないかな」
幸い、ドラセナ君は本当にボクによく似ている。離れた姉弟という設定でいけるだろう。無理なら分家の息子という別の設定で行く、異論は認めん。
ルーカスの服も仕立てる。彼はやっぱり白い服が似合っているね。
「ルーカスお兄ちゃん、キレイ……」
「素材はいいからね、ルーカスは」
「なんだい、その含みのある言い方」
ルーカスは実際、いい男だけど少々……いや、かなり正義感があるゆえに周囲が見えなくなるところがある。
計画を確認していると、来客を知らせる音が聞こえた。
「誰だい?」
「いや、今日は誰か来る予定は……」
誰だろう?と思いながら出ると、ブランシュが立っていた。
「おや……よくボクの家が分かったね?」
彼が「ルイス」だった時は仕事の関係上確かに教えたけれど、「ブランシュ」になってからは教えた覚えがない。リッキーさんに聞いたのだろうか?
「とりあえず、中に入って。寒いでしょ?」
外は雨が降っている。傘もさしていなかったのか服も濡れている彼を中に入れた。
「ルーカス、タオル持ってきて」
「分かった。……おや、ブランシュ君?」
ルーカスに声をかけると、すぐにタオルを持ってきてくれた。ボクがブランシュの頭を拭いていると気を利かせてくれたらしく「風呂、勝手に沸かしてしまったがよかったかい?」とルーカスに聞かれた。
「うん、ありがとう。ご飯作るからお風呂入っておいで」
「……ごめん、急に来たのに」
「いいよ。詳しい話は後で聞くね」
何か悩みでもあるのだろうか?でもそれならリッキーさんとかルシールさんに話していると思うし……。
「なぁ、少し様子がおかしくないか?」
「ルーカスも思う?何があったんだろうね……」
ブランシュは記憶を失っていてもいつも前向きだった。だからこそボクもルーカスも心配していた。
ご飯を作っていると、お風呂から上がってきたブランシュが「ありがとう、着替えも貸してくれて」と顔をのぞかせた。
「いいよ。……それにしても、何かあったの?」
ボクが尋ねると、ブランシュはうつむいて椅子に座った。ドラセナ君が彼にお茶を出してくれる。
「……その、思い、出したんだ」
「思い出した?」
「……クイン、ずっと一人で戦わせてごめん」
その言葉に、すべてを察してしまう。
「……ネグロ」
「ルイスって呼んでよ。今は任務中じゃないんだからさ」
「そうだね。コードネームで呼ぶ必要もないか」
かつて二人で行動していた時、いつもコードネームで呼んでいたからついそっちで呼んでしまう。
「本当に君は変わらないね、「トリックスター」」
「そりゃあ、両親の仇を取るっていうボク達兄妹の目的はまだ達成していないからね」
ボクと兄さんの最終目的はあの研究所に復讐することなのだ。クリムさんはあまりいい顔していなかったけれど、止めようとはしなかった。
「兄さん、君達のこと止めないの?」
「こう言っちゃ悪いけど、ボク達兄妹は言うこと聞かないからね」
「ふーん……でも一応、兄さんの婚約者でしょ?」
「形だけね。お互いいい人がいたらそっちと結婚するよ」
婚約者なんて言葉、久しぶりに聞いた。
そう、ボクとクリムさんは一応の婚約関係にある。ボクはエキナセア家の令嬢だし、クリムさんはルドベキア家の当主だ。お互いの繋がりを強化するために丁度いい婚約ではある。
でも、ボクもクリムさんもお互いのことは盟友以上の感情を抱いていない。だからいい人が見つかったらすぐに婚約破棄していいと約束している。
「……って、今はその話をしに来たんじゃないでしょ?」
「うん。……ごめんね、一人であんな狂った研究所に残して……」
「気にしないで。ボクが君にこれ以上苦しんでほしくないって思ったからだよ」
ルイスはもともと貴族の子供ではなかったのだ。……こんな、血塗られた場所に身を置く必要はない。
「話を聞いていたが、思い出したのかい?」
ヒョコッとルーカスとドラセナ君が顔を出す。
「ルーカス、私の正体を知っていたのか?だから面倒を……」
「いや?クイン君は隠すと決めたら私達にすら教えないと知っているだろう?ルイス君がブランシュになっているって知ったのは本当にたまたまさ」
「それもそうか。クインはいつも無茶しかしない」
ん?なんか失礼なこと言われてない?
いや、まぁ何も言わなかったのは事実だけどさ?
ルーカスとドラセナ君も座り、どうするか尋ねてみる。
「……ルイス、思い出したわけだけどさ……貴族に戻りたい?」
彼は貴族の生活、弟妹としての生活も知っている。それは、普通に過ごしていたら決して知ることのなかった経験だ。
「……貴族には、戻りたくないかな」
彼は小さく答える。分かりきっていた答えだ。
「……だろうね。ボクだって兄さんがいなかったら公爵令嬢なんて肩書き投げ捨てて分家の人に譲っているから」
「でも、君がいるなら……もう少し、頑張りたい」
「そっか。……リッキーさんは信用出来るからと君を預けていたんだけど、もう大丈夫そうだね」
最後に見た時の「ネグロ」は、相当思いつめていた。見ていて痛々しいほどに。だから逃がしてあげたかった。
でも、記憶を奪ったところでボクのところにいたら同じだ。でもリッキーさんなら……何も話さなくても預かってくれると思ったのだ。
「……解放しようと思ってやったことが、逆に君を追い詰めてしまったね。ごめん」
「ううん。クインは私のためにしてくれたんだろう?それに、あそこから離れたことで自分の気持ちの整理もついたし」
「それならよかった。……逃げたくなったら逃げていいんだからね。君にはその権利があるんだから」
ボクの言葉にルイスはどこか寂しそうな顔を浮かべた。
数日後、四人で奴隷市場に潜入していた。
「おや、これは美しいお嬢さん。奴隷がほしいのかね?」
奴隷商人がいやらしい笑みを浮かべながらボク達に近付く。なんか後ろから殺気を感じるけど、気にしないことにした。
「えぇ、身の回りをしてくれる方がほしくて……」
「用途はそれだけですか?謙虚な方ですねぇ」
この言い方的に、ほかにも用途があるということだ。
そうだなぁ、と商人が離れたすきにルイスに話しかける。
『ネグロ、もう少し探れそう?』
『……やってみる』
久しぶりの任務だ、緊張しているのだろう。そんな彼の手を優しく握る。
『……大丈夫、ネグロなら出来るよ』
『トリックスター……』
『何かあったらルナかレフコースを送るから』
レフコースは、潜入前に決めたルーカスのコードネームだ。彼にふさわしいコードネームだろう。
「リトル、姉さんから離れないようにね」
「はい、姉上!」
コードネームを呼ぶと、ドラセナ君はニコッと笑顔を浮かべた。結果的に、この子も連れてきてよかったかもしれない。こんな幼い子までスパイと思っていないのか、あまり警戒されている様子はない。
外にはケネスさんとエラルドさん、エリゼオさんを待機させている。テリーさんは資料館でリッキーさん達と一緒に待ってもらっていた。何かあってもすぐに来てもらえるように。
ルイスが気配なくその場から離れると、商人が「こいつとかどうですか?」と下半身だけ隠されている男性を連れてきた。かなりボロボロで、暴力で従わせていることが分かる。
「あら、体格のいい人ですね。どこの国の人ですか?」
「隣国の国から仕入れたんですよ。あの国の人間は忍耐強いですからねぇ」
隣国、と言うと今は次期国王を決めている段階だっただろうか。混乱しているすきに誘拐してきたのかもしれない。
ルーカスもそう思ったようで、「ほかにどんな奴隷がいるのでしょうか」と尋ねていた。
「麗しいご令息にはこの女がいいかもしれませんねぇ。欲望のはけ口にもなりますよ」
「気を遣ってくださってありがたいですが、私はそういうの興味ないので」
「おや、淡白なんですねぇ」
ボク達のもとに連れてきたのは彼らにとっての上玉なのだろう。その証拠に今見えているだけでも目の前に連れられた二人以上にボロボロになっている人達がたくさんいる。
(……ボクの独断でここを潰してもいいって許可は得てるけど、どうしようかな)
正直、すぐにでもGOサインを出したい気分だ。でもまだ情報を得るまで我慢……。
(いや、いっそ潰した後に情報を探した方が早いのでは?)
あまりにも短気すぎる思考に気付いたのか、ルーカスがボクの背中を軽くたたいて止める。そうだ、ここで感情的になってはいけない。
「そうですね……では、この二人を買っても?」
ボクの言葉に満足したのか、商人は笑顔を浮かべて「えぇ、えぇ!もちろんです」と頷いた。この二人から話を聞き出せたらいいんだけど……難しそうだ。
(それはテリーさん達に任せようかな)
同じ外国の人からなら、もしかしたら聞き出せるかもしれない。その間にボク達は出来ることをしよう。
商人は二人に首輪をつけて、リードをボク達に渡した。人を物のように扱っているみたいで嫌だったけど、我慢するしかない。
(あぁあああルーカスが笑顔でキレてる……っ)
ルーカスに至ってはリードを持つ手が震えてる。あれはガチキレしている反応だ。
一度外に出て、路地裏で二人の首輪を外す。
「え……?」
このまま、こき使われると思っていたのだろう。二人は目を丸くしてボク達の方を見た。
「私達は君達に酷いことをしようと思っていない。……少し話を聞かせてほしくてね」
ルーカスの言葉に彼らは顔を見合わせる。やっぱり警戒はされるよね。
「ドラセナ君、お兄ちゃん達を呼んできてくれる?」
「はい!」
ドラセナ君に頼むと、彼は三人を呼びに行った。
「この方達は?」
エラルドさんが聞いてくる。事情を説明すると「なるほど」と笑った。
「大丈夫ですよ、この人達は本当にあなた達に危害を加えません」
そして、二人に分かる言葉で話しかけてくれた。
「……ほ、本当、ですか……?」
男性の方が恐る恐る尋ねてきた。「僕と兄さんも、その白い人に助けられたんだよ」とケネスさんが言ってくれると少しだけど警戒がとけたような気がする。
二人をエラルドさん達に任せているとルイスに「クイン、少しいいか?」と呼ばれ、そちらに向かった。
「何か見つかった?」
「あぁ。……これ」
彼は書類を渡してくる。それを読むと、やはりあの研究所と繋がっていることが分かった。
「この名前……研究所の所長の名前だね。それにこの名前は実験の責任者……」
組織ぐるみだろうなぁというのは分かっていたけど、まさかここまでだとは。
「それで、どうする?……ここ、今から潰す?」
「……ルイスも言うようになったね」
確かに、ほかの人達のことを考えたら今動いた方がいいかもしれない……。
ルーカスに目配せすると、彼もニコッと微笑んだ。これは「とっととやれ☆」と言っている。相当キレているようだ。
まぁでも、情報をもう少し得るついでに潰すか……。
「ドラセナ君、君はお兄さん達と先に帰ってて」
「え?なんで?」
「今からは大人のお仕置きの時間だからね」
ここからは子供には見せられない。ドラセナ君はケネスさん達に任せることにする。
そのまま、黒いローブを羽織って三人でもう一度、今度は裏口から忍び込む
「レフコースは書類を探ってくれる?ボクとネグロで引き付けておくからさ。ルナも手伝ってあげて」
「ニャ!」
「了解、むしろ得意分野だ」
それならよかったと笑う。実際、書類関係に関してはルーカスの方が見極められるだろう。
そして、組織を殲滅させるならボクとルイスが適任だ。どこを真っ先に潰したら混乱させることが出来るか分かっているのだから。
ルイスが手に入れてくれていた地図を見て、「ここから潰そうか」と告げる。
「支配人室か、確かにそこを潰したらレフコースも情報収集がさらにしやすくなりそうだ」
ニヤリと笑うルイスはまるで悪人のようだ。……いや、この場合はあってるのか?
そのまま、二人で息をひそめながら支配人室に向かう。
「……室内に三人……パソコンがついてるね、その周りにも書類が散らかってる……」
「どう思う?」
「ダミーの可能性もあるね。本当の書類は他のところに置いてるかも」
どちらにしろ、ここを潰したらどうにでもなりそうだ。
顔を見合わせ、ボクが催涙効果のある煙幕を投げる。室内がパニックになっている間、ルイスが素早く一人を気絶させる。それに気付いた一人がルイスを狙って拳銃を構えようとしたところを蹴り上げて地面に伏せさせた。
「動くな!」
唯一何もしていない男の声に、ボクとルイスは動きを止める。
「動いたらお前達を」
「あんたこそ、状況が分かっていないの?」
ボクが伏せさせていた一人の首元にナイフを突き立てる。本気で殺すつもりはないけど、交渉の材料にはさせてもらう。
「命まで取られたくなければ今すぐ人身売買はやめろ」
「フン、その程度で動じるとでも?」
もちろん、こんなことをするぐらいだ。この程度で動じるとは思っていない。そのためにルーカスのところにルナを送ったんだから。
突然、停電が起こる。本当にルナは、タイミングよくハプニングをおこしてくれる。
「さすがネコ使い……」
「うっさい」
小さな声でボクとルイスが話す。この停電の間に、パソコンをすり替えて見せる。
ルーカスもいい活躍をしてくれたらしい、この間に奴隷として売られていた人達を解放してくれていた。
ふと、足元に奴らの身分証が落ちていることに気付いた。それを拾ってニヤリと笑みを浮かべてしまう。
そのまま、外に逃げるとルーカス達と合流した。
「ルナ、ありがとうね」
「ニャウ!」
「よかったのか?」
ボクの肩に乗るルナを撫でているとルーカスに聞かれた。そんな彼に拾った身分証を見せる。
「これをクリムさんに渡す。あの人なら完膚なきまでに消し去ってくれるでしょ」
「兄さんに頼むなんて鬼畜だね……」
「それぐらいされた方がいいよ、こういう奴は」
クリムさんの制裁はかなり過激なものだけど……まぁ奴らの結末は考えないことにしよう。
「さてと……人が割と多いな……」
助け出したはいいけど、人数が多い。これ、ホテル取れるか……?と本気で心配してしまった。
兄さんに連絡しようと通信機を持つと、後ろから声をかけられた。
「やぁ、今回は派手にやったね」
「あ、クリムさん。すみません、ここまでしてしまって」
「いや、いいよ。後始末は私がしておこう。……それにしても」
チラッとクリムさんはルイスを見る。
「久しぶりだね、ルイス」
「……はい、お久しぶりです、兄さん」
「いい顔になったじゃないか」
彼の言葉にルイスが目を丸くする。クリムさんがルイスにそういうなんて珍しい……いつもかなり厳しいこと言っているのに。
「……私がお前を追い詰めてしまったみたいだね。すまない」
「珍しいですね、クリムさんが謝るなんて」
「悪いと思ったら謝るさ。……ルイスは血が繋がっていなくとも大事な弟だ。だから貴族として恥ずかしくないように厳しくしてしまった……」
「……兄さん……」
クリムさんも彼なりにルイスのことを考えていたんだな……少し見直した。
そのまま奴らの身分証を渡してあとのことをクリムさんに任せ、ボク達はエラルドさん達と合流する。
「あ、クインさん。戻ってきたんですね」
「すみません、そちらを任せてしまって」
「大丈夫だよ、そっちはどう?」
ケネスさんの質問に「こっちは上々だよ」とルーカスが代わりに答えてくれる。
「それならよかった、僕達の方もある程度聞き出したよ」
彼の言葉とともに、エリゼオさんが後ろから紙を渡してきた。それを受け取り、読み始める。
「……なるほど、やっぱり隣国から連れてこられていたんですね」
「やっぱり、と言うと?」
「今、王権を巡って荒れているみたいだからね。混乱に乗じて誘拐することは簡単だと思う」
それに、外国となれば言葉も通じない。だから誰にも助けを求めることが出来ない。……言い方は悪いけど、こうやって奴隷というものが生まれてしまうのだ。
「……とりあえず、今回助け出した人達は自分の国に戻れるよう手配しておくよ。兄さんとクリムさんの名前を使えば今週中にでも戻れるでしょ」
「うん、それがいいと思う」
本当はもう少し聞きたいけど家族も心配しているだろうから、早めに国に帰した方がいい。名前を使う許可をもらおうと兄さんに電話をかける。
『もしもし、クイン?』
「うん。……今さ、奴隷市場を一つ潰してさ」
『うーん、相変わらずやることが早いね』
「兄さんが優しすぎるんだよ。……それでさ、売られていた人達が全員外国の人だったから兄さんの名前を使って帰していいかなって思って」
『もちろんいいよ。わざわざ許可もらわなくていいのに』
「親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ?」
『律儀だなぁ』
兄さんは本当に甘いんだから……まぁその分ボクがしっかりすればいいんだけどさ。
そう思いながら電話を切る。
「ルイス、隣国の王……いや、貴族の知り合いの方がいいかな……一度手紙を送るからその間に全員分のチケットを準備していてくれる?」
「分かった」
「ルーカスは兄さんの代理人としてホテルを確保してほしい」
「了解、エデン様の代理人と言えばいいのかい?」
「うん、それでいい」
二人に指示を出して、一度家に戻る。そしてすぐに手紙を書き始めた。
「……これでいいと思うけど。あの子も大変だろうなぁ……」
学生の身でこんな手紙送られるのは迷惑だろうけど、親友と言える隣国の貴族なんてその子しかいない。
その手紙を伝書鳩の足に括って飛ばす。明日の朝には返事が送られてくるだろう。
「クイン、手配終わったよ」
「こちらも終わらせた」
「ん、ありがとう。今日はもう休んでいいよ」
ルイスとルーカスが顔を出して報告してきた。ドラセナ君は疲れたのか、ソファで寝ていた。
「疲れたんだね……ベッドに連れていくよ」
ルイスがそっとドラセナ君を抱えて部屋に運ぶ。
「さて……では晩酌でもしようか」
ルーカスがどこから出したのかワインを見せてくる。いつもなら断るけど、今日はたくさん飲みたい気分だ。
「……つまみはチーズがいい」
「ちゃっかりしてるなぁ、ルイス君は」
そう言いつつちゃんと準備しているあたり、今日は絶対に飲ませる気だったなこれ。
でも、たまにならこうして飲み明かすのもいいだろう。せっかく久しぶりに親友達と過ごせるのだから。




