序 侵入劇
カタリーナ姫の居城、純白の壁を持つシュネー城は美しさを損なうことなく焼け果てた村の傍にそびえたっていた。
焼失した村の上で無傷な城は美しくもあったがいびつに感じられた。
城門を通ろうとすると早速狼が出迎えてきた。
ディルクは左右の手に双剣を構え応戦しようとした。森の外からも集められた狼もおり思った以上の数であり中に入るには時間がかかるだろう。
体力の消耗も心配されたが、ここを抜けなければカタリーナ姫の元へ行くことは叶わない。
「そりゃっ」
掛け声とともに呪文を唱え炎の矢が無数の狼を貫く。勝手についてきたジルケの術であった。
「あんたはここで無駄な体力は使わない方がいい。私たちに任せて」
そういいジルケは後ろの方に控えているケヴィンとラウラ、ゲルトがいるのを示した。
「ケヴィンさん、ゲルトさん………傷はもういいの?」
「ああ、ラウラに手当してもらったし、ルッツに応急処置であるが治癒術をかけてもらった」
これで大分体力は回復している。
しかし、ルッツは今は力を使い果たし昏睡している。そして何とか一命はとりとめたマーヤは安静を余儀なくされていた。
「マーヤが力になれずにごめんと言っていた」
ラウラは苦笑いしてディルクに伝言した。
「そんなの………」
あの傷をみれば誰でも戦いに参加するのは不可能である。とにかく今は自分の身を第一にしてほしいとディルクは感じていた。
「だから、今動ける我々で精いっぱい手伝わせてもらおう」
ゲルトがそういいながら槍を構え、それにならいケヴィンとラウラも構えた。
三人が前に出て狼たちを退かせる。
ゲルトの槍術が、ケヴィンの短剣が、ラウラの拳術が狼を怯ませこれにより道は作られた。
彼らはディルクに前へ進むように促した。
「でも………」
ここを三人に任せるのはあまりに申し訳なさすぎる。
ディルクは少しでも狼が減るまではとどまろうとした。
「お前、バカかよ。ここで苦戦しても奥には人狼の親玉がわんさかいてもっと苦戦するんだ」
ケヴィンは声を荒立てディルクにさっさと先に行くようにいった。それでも動こうとしないディルクに段々苛立ってジルケに指示を出した。
「とっととその馬鹿を連れていけ」
「わかった」
ジルケは察し、ディルクの腕を掴み城の中へと連れて走った。
「カタリーナ姫の前にくたばったら許さないからな」
そうケヴィンはひとりごちながらナイフで狼たちを薙ぎ払って言った。
城の門の方の慌ただしさは主のカタリーナ姫の耳にも届いていた。
「なんの騒ぎ?」
首を傾げるカタリーナ姫にカリスは報告した。
「狩人とクルス村の戦士が城門で暴れているようです。すぐに黙らせましょう。御前を離れることをお許しを」
そういうとカタリーナ姫はこくりと頷いた。それにカリスは礼をしその場を離れた。ヨハンナがちょうど姫の部屋に入る頃であり、カリスはちらっとヨハンナを一瞥していった。
「私は狩人を殺る。お前は姫様を守れ」
今までの戦いでわだかまりはあるとしても人狼としての力、姫への忠義はお互い確かなものだと認識している。カリスはこの場はヨハンナに任せ、自分は侵入者の一掃に尽力しようとしていた。
「思ったより早く動くのね。狩人の増援を待ってからと思ったけど、あの銀髪の狩人はよほど短気なのね」
残されたカタリーナ姫の感想を聞きながら、ヨハンナは質問を重ねた。
「お伺いしてよいでしょうか」
「何かしら、ヨハンナ」
カタリーナ姫はにこりと微笑み質問を許した。
「姫様はあの銀髪の狩人をどうお思いで?」
「どうとは?」
「ニコルという少女とともにあった姫様はあの狩人のことも認識していたはず。果たして姫様はどう感じていましたか?」
「そうね。悲しい人と思ったわ。あの外見は苦労したのでしょう」
この国では珍しい銀髪で、人狼に銀髪が多いことから誤認されることが多かった。
カタリーナ姫はそうした人間を何人かみたことがあった。
彼らは人々から迫害を受け絶望していた。
その中の何人かにカタリーナ姫はせめてこちら側で仲間が得られるように、孤立しないようにと自分の血を分け与えたものもいた。
何人かはそれを拒み自害することを選んだ。
しかし、一人は今もカタリーナ姫に絶対の忠誠を誓い、すべてを捧げてくれている。
「カリスもあれに相当入れ込んでいるみたい。だから、ここは彼に任せるわ」
カリスが狩人を殺すかどうするかを見つめ、そこから自分がどうするか考えようとカタリーナ姫は言った。
「愛してはいないのですか?」
ヨハンナの言葉にカタリーナ姫はきょとんとした。
「あはは、おかしいわ。ヨハンナはおかしいことをいうことを覚えたのね」
カタリーナ姫は楽し気に笑った。
「確かに誤魔化した仮の人格はあれに入れ込んでいた。でも、私は何とも思ってはいないわ。だって仮の人格ニコルと私は全く別のものよ」
ニコルがディルクを想っているように自分も想っているのではないかと言われたことにカタリーナ姫はそんなことはないと否定した。




