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赤ずきんと呼ばれた狩人と森の少女  作者: ariya
5章

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7 貴婦人の行方

 シュネー城の中でカタリーナは目を覚ました。

 体中汗でびっしょりとなっており、傍に控えていたヨハンナが心配そうに声をかけた。

 ハンスに家を預け旅を始めたヨハンナは道中にカタリーナ姫の復活を感じ取りすぐに城へと戻ってきた。

 当然カリスと衝突もしたが、カタリーナ姫の御前でありお互い姫のために尽くそうという流れで落ち着いたのだ。

 ヨハンナの顔をみてカタリーナ姫はにこりと微笑んだ。


「大丈夫」


 しかし、すぐに表情が暗くなる。

 大丈夫と言ったが彼女はすぐに首を横に振って語っていた。

「………いいえ。磔にされたときのことを夢にみたの」

 それを聞きヨハンナはそっとカタリーナ姫の手を握った。

「あいつらは私が黒皮病を蔓延させた魔女といい石を投げつけた。誰も私を助けてくれなかったわ………」

 カタリーナ姫を人の町へと案内したアルベルトは助けるどころか異端審問の者に彼女が病を流行らせる呪いをしていたという証言を行っていた。


 ―――どうして。―――


 自分はニコルという友人が助けられず、ニコルと同じ病に苦しむ人々が家族が自分たちと同じ想いをしないようにと祈りをこめて特効薬を作ったのに。

 アルベルトはその特効薬を作ったのは自分であると吹聴し、その上で病を蔓延させたのはカタリーナ姫であると証言した。人々は人狼の血を引く魔女のカタリーナ姫の言葉を信じず、彼女が早く滅ぼされるのを神に祈っていた。

「辛かったわ。痛かったわ………」

 村長のフィリップによって刺された傷はすでに癒えているがあの感触はまだ覚えていた。同時に磔にされいくつもの槍で心臓を腹を刺されたときの痛みも覚えていた。

「いつも遅れてしまい申し訳ありません」

 ヨハンナはそう謝罪した。

 あのときも今回も自分は遅れてしまった。

 そしてカタリーナ姫に無駄な痛みを覚えさせてしまったのだ。

「いいわ。許すわ。だから、今宵は私の傍にいてちょうだい」

「はい。このヨハンナはいつでも姫さまの元にいます」

 慈しむように少女の髪をなでヨハンナは優しく微笑んだ。



 ハンスからカタリーナ姫の話を聞き、その場にいる全員がしばらく黙り続けた。

 沈黙を破ったのはジルケであった。

「それじゃ、カタリーナ姫は伝承のような魔女ではなかった。人の為に薬を作る優しい人だったけど、人が………クルス村が彼女を裏切ったのか」

「そうよ。お前たち人が姫様を裏切らなければここまでの事態にはならなかった」

 イルザは当然と言わんばかりにふんぞり返った。彼女にとってみれば先ほどカタリーナ姫によって異空間に運ばれた村長など同情の余地などないようである。

「でも変です。ここまでのことをしたのなら何故今までヨハンナはクルス村を滅ぼそうとしなかったのでしょうか」

 こんな目と鼻の先に家を管理していたのだ。そしてカリスと同等の力を有していた。

 いつでも村を壊滅することができたのに、彼女は何百年もこの家で静かに過ごしていた。

 森の外でカリスが狩人との戦いに明け暮れていた間も彼女は戦いに関与することはなかった。

 彼女が表に出たのは処刑されたカタリーナ姫の肉体を運んだ時に追いかけてくる戦士を幾人も殺したくらいであった。

「私も理解できない」

 イルザはこれに関してヨハンナに答えを聞こうとしたそうだ。

「でも、イルザは言っていた」


 確かにあの村は姫を裏切った。人々の為に誠意をこめ黒皮病の薬を作った姫を、黒皮病を蔓延させた魔女と吹聴した。

 決して許せない。

 でも、姫はいつも丘の上からみる村を一望するのが好きだった。

 姫が目覚めた頃にその村がなくなっていたらきっと悲しまれるかもしれない。


 目が覚めたときにカタリーナ姫が村をどうするか。滅ぼしてしまうか、もうすでに裏切った者などいないから放っておくか………どちらを選んでもそれに従おうとヨハンナは考えていた。

 しかし、カタリーナ姫の肉体は消滅し彼女の復活を待つことができなくなり無為に過ごすヨハンナは何度も丘をあがり変わらぬ姿の村を見つめていた。

 イルザはその横顔を何度もみた。

 おそらく何百年も前はもっと怒りに満ちたものだったかもしれない。

 だが、イルザがみた頃にはその表情は静かで手の届かないものをみるような悲しげなものであった。

「そうか。それでヨハンナはどこへ行ったのだい?」

「多分姫様のところでしょう」

 ディルクの問いにイルザはあっさりと答えた。

 旅をしているヨハンナがカタリーナ姫の復活に気づかないはずはない。すぐに戻ってカタリーナ姫の元へ参じたはずだ。

 となると敵対するでもなかったヨハンナはカタリーナ姫の傍で人の敵となった。

 カリスだけでも厄介だったのにヨハンナが相手となると苦労するな。

「それで、人狼のハーフの君はどうするんだい? ヨハンナの元へ行くのかい?」

 ディルクの問いにイルザは困ったように眉を寄せた。

「ヨハンナがここにいろって。私はまだ小さくて戦いに身を委ねる必要なんてないて………ここで変な学者と過ごしてゆっくり考えなさい。大きくなったときに人を相対するか共存するか選べるならどちらかを選びそのようにしなさいと」

 さっぱり理解できないとイルザはいった。

「人はともかく僕は憎いだろう」

「当然」

 イルザはきっとディルクを睨んだ。何しろディルクは彼女の大事な友である狼を殺したのだ。

「でも、復讐に身を焦がすのは浅はかだ。これもしっかり考えて行動しなさいと言われた。だから、今は保留にするよ」

 イルザにとってヨハンナはかなり人生に影響を与えているようである。激情もヨハンナはそれを受け入れ、うまく制御させているようだ。どんな魔法を使ったのかはわからない。

 それとも大事な姫を裏切った村への憎悪も飲み込んだからできることなのだろうか。

「そうか。君の育ての親がヨハンナで助かったよ」

 カリスであればイルザに憎しみを煽り立てディルクに何度も立ちはだかっただろう。

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