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赤ずきんと呼ばれた狩人と森の少女  作者: ariya
5章

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3 たむけ

 会話を聞いていたディルクは状況についていけなかった。

 ディルクは呆然とニコルであったものを見つめた。


「カリスか、よい………許そう」


 そしてちらりと倒れている老女をみつめた。

「罰として丁重にその老人を弔え。仮にも私をここまで育ててくれた者だ」

 それにカリスは異を唱えなかった。本来ならば見下している人にそのようなことはしない。だが、崇拝するカタリーナ姫の肉体をここまで守り抜いた者である。粗末に扱うことはしないと誓った。

「さて、お前は確か………村長か」

 そう確認すると彼女はつっと口の端を釣り上げた。

「忌々しい男の子孫よ。お前はあの男によく似ている。実に不愉快だ」

 そういいカタリーナ姫はフィリップに対して左手をかざした。黒い繭のようなものが突然現れフィリップを包み込んだ。助けを求めようとあがくが、すぐに包み込まれてしまい声は遮断されてしまった。包み終えた繭はふっと姿を消した。

「どこへやったんだ?」

 ディルクの問いにカタリーナ姫はにやりと笑った。

「異空間のはざまだ。そこには時間の概念が狂っており、通常の人間には耐えられない。瞬時に狂死するだろうよ。1分耐えられたら褒めてやってもいい」

 無邪気な少女の声であるのに、その言葉にぞっとした。

「あなたは誰ですか?」

 ディルクは頭の中ではだいたいの予想がついていた。しかし、確認の為に問うと少女は小ばかにしたように笑った。

「私はカタリーナ。この森に棲む魔女であり、人狼たちの祖となる一族の姫」

「嘘だ………カタリーナ姫の肉体は灰塵と化しなくなったという」

「私の肉体はすでにない。だからこそ新たな肉体を得ることを選んだのだ。そしてニコルという娘として生まれ変わった。ニコルは人の目を欺く為に作った仮初の人格である」

 つまり今いる彼女こそがこの肉体の本性であると告げていた。

 傍まで控えたカリスはそっとカタリーナに切り落とされた右腕を差し出した。先ほどディルクが切り落としたものだ。彼女はそれを手に取り欠損した腕に繋ぎ止める。しばらく時間が経つと右手の指はぴくりと動いた。右腕の動きを確認しながらカタリーナは自身のことを紹介した。

「ならば何故今まで表に出てこなかったんだ。いつでも復活できただろうに」

「それはあの老婆が死ぬのを待っていたのだよ」

 その答えにディルクは首を傾げた。

「仮にも孫が人狼の姫だなんて知れば苦しむであろう。どうせ老い先短いのだ。孫とは楽しい思いでを抱いてあの世に逝ってもらいたかった。一応、育ててくれた恩もあるしな。彼女を苦しませたくはなかった」

 しかし、もうニコルの祖母ドーリスは死んでしまった。

「姫のそのやさしさに気づかず、愚かな真似をいたしました」

 カリスは心底申し訳なく頭を下げた。

「よい。ちょっとした余興のようなものだったのだ。こういう形になったのであれば仕方ない」

 しばらくたっていたカタリーナはくらりとふらついた。慌てたカリスはカタリーナを支える。

「ふむ、久々の表舞台………思うように肉体を動かせないな。しばらく休憩をはさむとしよう」

 仰せのままにとカリスは頷いた。

「そしてその後にこの国を人狼で満たそうではないか」

 少女の口から恐ろしい言葉が吐かれる。

 人狼の姫である彼女が復活したのであれば今まで息を潜めていた人狼たちが表に出てくるだろう。今度は姫がいる、それだけで彼らは活気づいてしまう。再度国内で異端者と狩人の大戦が巻き起こるのは必至である。

「まずは手始めにこの村を………ふむ、私が休んでいる間に適当にすませてしまえ」

「仰せのままに」

 そういい二人は姿を消した。ディルクが呼び止める前に。

 残されたのは狼と人狼たちであった。人狼たちは元はこの村の住民。

 自警団たちも同郷の者たちを手にかけるのは躊躇していたことだろう。

 中にはディルクが世話になった者たちもいる。彼らを退治するのは悲しいことである。


 しかし、このままにしてはいけない。


 ディルクは震える手で自分の頬を叩いた。きっと目を見開き周囲をみやる。こちらの動向を見定める狼と人狼たちであった。

 拾った短剣を握りしめ、人狼たちに向かって走った。村人の姿をしているのに、異端者のように獰猛な牙をもち爪をもち彼らはディルクに襲い掛かった。

「ごめんなさい」

 ディルクはそういい人狼の首を切り落とした。首を切り落とされた人狼はその場に崩れ大量の血を流していく。落ちた首がこちらを凝視していた。

 今まで自分が退治してきた人狼たちの中にもこのように人だった者が大勢いただろう。

 彼らは死ぬ間際に人の心を取り戻したのだろうか。

 取り戻さないでほしいと思った。

 死ぬ前はわからないままであってほしい。

 死ぬときは一瞬であってほしい。

 そう思いディルクは彼らの首に狙いを定め切り落としていった。


 ニコル。君も………戻らないのであればそうであってほしい。わからないまま逝かせてあげたい。


 多くの人狼が倒れていくのをみて狼たちも勢いを殺がれ、劣勢になっているのに気づいた。こうなっては狩りはできない。彼らは退却を余儀なくされた。


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