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赤ずきんと呼ばれた狩人と森の少女  作者: ariya
4章

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2 人狼イルザ

 暗い森の中ニコルは走っていた。

 急いで逃げなければ………。

 逃げなければならない。

 立ち止まってはいけないとスカートをまくしあげひたすら森の中を走っていた。


「いたぞっ。人狼だ!」


 男に捕まりニコルは自分は違うと叫んだ。しかし、男は聞かず乱暴にニコルの髪を掴む。

「くそっ、逃げやがって。おかげでいらん体力を使っただろう」

 そうニコルに愚痴をこぼしながらニコルを物のように引きずっていく。引きずられた方をみると多くの人々が集まっていた。中央に引きずり出されたニコルは恐怖した。

「違う。私は人狼じゃありません」

 そういうが誰も聞いてくれない。

「人狼め。黒死病をばらまいたのはお前だな」

「私の旦那を返してちょうだい!」

「お前のせいだ」

 そういいニコルを責め立てる。


「やめて、違うわ………私じゃないわ」


 はっと目が覚めた。周囲には誰もいなかった。

 あたりをみると暗い森ではなく広い部屋の中にいた。天蓋つきのベッドで横たわっていた。

「ここは………。ああ、そうか」

 人狼のヨハンナに捕らえられこの部屋に閉じ込められていたのだった。今日で3日目だろうか。きっと祖母は心配しているだろう。

 テーブルをみると白いパンとスープが置かれていた。

 ニコルが起きるであろうタイミングをみはかりおいてくれたのだろう。

 だが、なかなか食す気は起きなかった。

 ここは人狼の城である。何が入っているかわかったものではない。

 しかし、空腹による疲労感で手に力が入らない。いざとなれば逃げられるように体力は必要だろう。

 そう思いニコルはパンを手にとりかじった。人の食べ物をまだ美味しいと感じられる。それに少し安心しながらもやはり不安を覚えた。

 自分はまだ人なのだろうか。

 知らないうちに彼らの仲間になっているのだろうか。

 そう思うと恐ろしくて仕方ない。

「助けて………ディルクさん」

 そうニコルはここにはいない狩人に助けを求めた。



 城に入る途中狼の襲来があるだろうと身構えたが思ったよりもすんなりと中へ入れた。

 奥の方へ進むと部屋があり、階段がみえた。階段を登ろうとしたら高い声で掛け声がきこえた。


「とうっ」


 それと同時にディルクは身の危険を感じぱっと横へ避けた。

 自分のいた場所に斧が落ちてきたのだ。あともう少し遅ければ頭をかちわられていただろう。

 そして斧とともにおりてきたものをみてディルクは困惑した。

 栗色の髪をした少女がいたのだ。

 しかも、その少女はディルクの見知った顔であった。

「くそお、後少しでラルの仇とれたのに」

 少女は忌々し気にディルクを睨みつけた。そして空色の瞳を丸くする。

「あれ、おじさん? どうしておじさんがここに」

 カトラ丘で出会った少女であった。これをみてディルクは嫌な予感がした。

「わ、わ、どうしたの? あのときは手当してくれてありがとう。おかげで怪我はすぐに治ったんだ」

「えーと、君は」

「私はイルザよ」

 少女は嬉し気に飛びはねてディルクにお礼をいった。

「でも、どうしてここに? てっきり狩人が来ると思って陣はっていたのに」

 しばらく考え事して少女ははっとした。

「ああ、そうか………おじさんが狩人なんだね」

 少女の瞳に殺意が芽生える。その視線にディルクは思わずぞっとし後ずさった。

「ラルを殺した仇!」

「ラル?」

 一体だれのことを言っているのだろうか。ディルクは首を傾げた。

「カトラ丘の陣を守っていた眷属よ。あの子はとても優しい子で、人なんてめったに襲わないのに絶対許さない」

 イルザが獣の叫びをあげると、傍に二匹の狼が現れた。

「この子は私の大事な友達。ラルの弟たちだよ。お前を殺したくてうずうずしている」

 二匹の獰猛な獣はイルザと言葉とともにディルクを標的と狙い定めていた。

「さぁ、やってしまって」

 そういうと獣がディルクの方へ駆けてくる。ディルクは剣を構え、応戦した。少しは知恵のある者たちであり、見事にディルクを翻弄していた。切り込もうとしても別の狼がディルクを襲いうまくいかない。

 ディルクは目の前の狼に短剣を構えつつも新たにもう一本の予備の短剣を構えた。別の狼に一閃お見舞いした。見事に目に剣筋が流れ、狼は痛みに叫んだ。そして動きが緩んだところでその狼を仕留め、元々構えていた先の一匹もすぐに仕留めた。


「ファル! ウラ!!」


 信じられないとイルザは倒された二匹を見つめた。二匹は頭がよく狩人に後れをとらない狼であった。二匹で仕留めた狩人は十人程いて、イルザはこのときの為に二匹を呼び寄せたのだ。

 なのに、二匹はやられてしまった。

 狩人のディルクの予想以上の強さに唖然としてしまった。


「よくも許さない」


 一度ならずも二度も友人を奪われた悲しみと怒りを持ちイルザは斧を構えディルクへ飛び込んだ。身の半分程の大きな斧を軽々と持ち上げ、飛び跳ねる身軽さであった。

 しかし、動きは先ほどよりも単純で予測しやすい。

 しかし、ディルクは内心動揺した。

 数々の人狼と対峙してきたが、ディルクはなかなか思うように短剣を振るえなかった。

 目の前の少女は確かに人狼であった。

 しかし、あのカトラ丘で不審に感じながらも気づけなかった程人間に近かったのだ。

 これくらいの幼い姿の人狼を何度か退治したことがある。

 どれも大人の人狼同様に獰猛で血と死の臭いが蔓延としていてすぐにわかった。

 なのに、彼女にはそれがなかった。

 頭の中で人ではないだろうかと思いディルクは思うように動けなかった。

 しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 一刻も早く城の中にいるかもしれないニコルを探さなければならなかった。

 ディルクは短剣を構え直し、イルザの動きを読み斧の持つ右腕を蹴り上げ斧を手ばまさせた。

 宙へ舞う斧にイルザは驚き、その瞬間ディルクは短剣の柄でイルザの腹をえぐった。

 腹への衝撃に耐えられずイルザはその場に崩れてしまった。

「うぅ、………」

 心底悔しそうにイルザはディルクを睨みつけた。

 ちゃきっと音と共に短剣の先がイルザへ向けられる。

「君には悪いけど人狼は倒さなければならない」

 冷たい視線にイルザは一瞬ひるみそうになった。しかし、すぐに表情を下に戻し言いたいことを言ってやろうと声をはりあげた。

「どうして………私は人を襲ったことないし、ラルは役目でしょうがなかったけどそれ以外は大人しい子なのよ。どうしてあなたたち狩人はそうやって決めつけるの」

 その言葉にディルクは首を傾げた。人狼は人を食べることで命をつなぐものだ。なのになぜ彼女はそれをしないのだろうか。

「? ………どうして君は人を襲わないの」

 人狼は人を襲うもの。

 なのに先ほどからイルザには血の匂いも死の匂いもしなかった。

 危険と思える匂いがなく警戒心が起きづらい。


「私のママは人なの」


 その言葉にディルクは目を丸くして驚いた。

 つまり、イルザは人狼と人のハーフということ。

「パパはある日、魔術師がかけた罠に引っかかって、そのときママに助けられた。ママはパパを逃がしたことが村から知られ村八分にあって村にいられなくなってしまった。ママはパパのいるカトラ丘へ行きそこでパパと二人で暮らすようになった。そして私が生まれた………パパはそれから人を襲うのをやめた。でも、人の血肉を糧に生きる人狼にとってそれは辛いこと。パパはどんどん弱ってしまって餓死しちゃった。上級の人狼なら違ったかもしれないけど、低級の人狼だったパパはご飯食べれなくて死んでしまったの。それでもパパは後悔しなかった。ママを愛していたから」

 イルザはハーフだから人と同じ食事でも生きていけるが、父は空腹感の中苦しみ続けていた。

 それでもイルザの母を愛するため、イルザの父であろうとした。

「ママはパパが死んだことがショックで、周りの人狼から責められ自暴自棄になって崖から落ちて死んでしまった。残されたイルザはヨハンナが引き取ってくれたおかげで他の人狼から守られた。ここまで生きてこれたのはヨハンナが紹介してくれたラルが………ずっと私を守ってくれたから」

 イルザにとってはラルという狼は大事な友人でもあり、親のようなものでもあった。イルザにとって人狼と人の争いなど興味がわかなかった。大好きなラルと一緒に生きていければそれで満足だったのだ。

 それなのにラルは殺されてしまった。

 目の前にいる狩人に。

 イルザはきっとディルクを睨みつけた。ディルクの表情は先ほどの冷たさは消え、悲し気なものに変わっていた。それにイルザは皮肉気に笑った。

「何? 同情? そんなのいらないよ。私はパパとママが愛し合って生まれて、二人に愛されていた。いじわるな人狼はいるけど、友達はいっぱいいるし寂しいことなんてない」


 だから許せなかった。私の友達を殺したお前が


「でも、勝てないってわかったよ………今の私にはお前を殺すのは無理」

 イルザは降参だと両手をあげて言った。

「はやく私を狩りなよ。狩ってまた人に自慢すれば? 赤ずきん」

「僕は自慢のために人狼を狩っているわけではない。僕は人狼に苦しむ人の為、大事な人を人狼に奪われた人たちが普通の暮らしをできるようにするために」

「なかには無害な人狼もいるよ。そいつらも狩るの?」

「そうだね、そういう人狼もいたかもしれない」


 今まで人狼とわかったら躊躇わずに殺してきたから。


 危険だからと自分に言い聞かせて


「私も危険だから狩る?」

「それは………そうだね、君が人狼である限り人々の恐怖は消えない。僕は君を狩らなければならない」

 そういうのになぜか手がうまく動かない。

「何やってんの? そんなんじゃ私があんたの首をかみ砕く方が早いよ」

「うまく、剣が握れないんだ」

 ディルクは正直に話した。それにイルザは体制を整え後ろへ下がった。これでまた襲われたら厄介である。だが、ディルクはなかなか剣を構えることができなかった。ディルクの中でイルザへの敵意はない。それを感じ取ったのかイルザは落ちている斧を拾おうとしなかった。

「ふぅん。じゃ、私は逃げるよ。いいよね?」

「………」

「本当に逃げちゃうよ。おじさんのことみんなに言いふらしてやる。そうしたらおじさんは今からたくさんの人狼と戦わきゃいけないね」

「大変だよ。いいの?」

 そうはいってもディルクは剣を振るうことができなかった。

「変なやつ。なんか調子狂うなぁ………でも忘れないでね」


 私はあなたを許さないから。


 そういってイルザは立ち去った。


 人狼は危険………人の敵で脅威。子供でも人を襲わないといってもこの先どうなるかわからない。

 だから狩るんだ。無害なうちに、害にならないうちに。


 それなのにイルザに向かって剣を握れない自分がいた。

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